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『だから、患者の虚言かどうかという見極めすら難しくてな。
 患者について詳しくは言えないが、まぁそうよそうよ、薬もそんなん出してて、でも精神薬…と言っとくが、そういうのって西賀が言う通り、勝手に止められたりした時が一番怖いんだよ。
 マメに来るように念のため二週間分を出したんだが今回は三日で現れた、薬が切れたって。一応、採血の結果待ちなんだけど、息子にあげてて〜とか言われたからこっちも何回も息子を連れて来いって言ってんだけどさ〜。なんなんだろ、て頭抱えてるんだ』

 高梨はこの辺りで番近いメンタルクリニックの跡取りだ。どれ程その案件があるかはわからないが、芳沢家は交番からも近い。

 高梨が言うようにこちらにも守秘義務は…あるんだけれども。

『で、えっと、トリアゾラムだっけ。これはな、案外リスカしてるとき痛くねぇかも。麻酔前投与薬ってくらいだから。
 リスカって痛くないって酷くなるパターンがあるから…例えば鎮痛剤とかな、そういう系を出さないようにしてみたりするわけよ』
「…なるほど」
『俺ならそんな子供には出さねえけどな…それくらいだと処方薬を子供用から一般用に切り替える基準の歳だし。なんか、まともなクリニックに行ってなさそうだな』
「…例えばだけど、本当に息子がいた場合だ、そうしたら代理なんちゃらと確定すんのか?」
『そうだな。まぁ大分歪んだパターンだとは思うが概ねそう診断は下るかな…じゃなきゃそんな不利なこと言わないだろうし。そしたらまずは薬を変えてみるか…。
 はは、案外同じ人だったりしてな』
「だよな…あり得るなといまふと思って…」
『…守秘義務だよな、聞けねぇな。
 ちなみにマジで繋がったら多分、息子と母親は別離すんのを俺は勧めたいところだが…まぁ雑談的に。浸食具合によるがリスクも高い。これをDVと捉えるならあとはそれぞれの治療しかないんだよ。傷と薬の血中濃度によるが、最悪病棟だな』
「うーん」
『そんな濫用されてるとショック状態やそれによる呼吸抑制っつーので死ぬからなぁ。それも言ってあんだけどさ、患者には。でも“代理”のミュンヒハウゼン症候群だった場合は、それすらも母親の欲求を満たしかねないんだよ』

 芳沢母の、コロコロ変わる不安定な表情が浮かんだ。

 さっき調べた、大人でも大体一日一錠、就寝前が普通の処方なようだ。単純計算で3日で来るとは…橋の上のヨシザワハルユキが思い浮かぶ。本当に母親がヨシザワハルユキに薬を渡していたら、一日二錠が使用されることになる。
 それを、3日後とは。あのペースで飲んだら…却って、よく持つよな。
 
「うん…」
『精神病の共通は何かに怯えていること、だから』
「…ある意味駐在の方が何か出来るのかなぁ。
 結果何もなかったらよかったで終えられる。ただそう、お前のモヤモヤと一緒だな、こっちもそれっぽいアクションがないと何も出来ない…」
『…んまぁ、』
「ありがとう。休憩中に悪かった」
『…ちなみに、雑談で聞いちゃヤバイ?名前』
「…じゃあ、芳沢、とだけ」
『……西賀』
「もしや」
『…ビンゴかも』

 …うわぁ。途中からちょっと感じたけど。
 互いに溜め息を吐き「…じゃ、」と電話を切ろうとしたが『待った、』と引き留められる。

『確定だとしてもまだ仮定な。雑談雑談。
 もしそうだったらその子、児相だのなんだの多分厄介だしお前の案件じゃなくなるからな、とだけ言っとく』

 …なるほど…。
 あまり感情的に肩入れするなという高梨の配慮だとは思うが。

 電話を切る。

 …いくら近くても何個かメンタルクリニック自体はあるし、なんならデカい病院にだって精神科は入っている。
 たまたま聞いた先でこうだとは、同じ街というのは狭い。

 あぁ聞いてしまうと余計に気になるな、モヤモヤする。

 …取り敢えず明日と、明後日の昼勤務、彼は現れるだろうか。あの、こくりと頷いたのを良しと考えたが…。

 彼がもし、そうやって母親のアクセサリーに成り下がっているのだとしたら。
 それは依存症だ、引き離すのが最善なのか、そのピアスの耳は千切れないのかと考えてしまうが…。

 ダメだな考えすぎだ、第一寝ていない。

 そのまま就寝しようとしたが、やはりなかなか寝付けなかった。

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