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「あ、」

 洗濯をしようとしていたら、たまたま籠から見つけてしまった。
 芳明の下着、股間部分の生地が薄くなってる…。

 少しよれてきているのは気付いていたけれど、芳明のお気に入りだから言い出せずにいた。
 そういえば最近は芳明が洗濯をしていたな。ここまでになっているなんて、気が付かなかった。

「…芳明」

 夜勤明け、まだ眠る芳明に声を掛けるのは忍びないけれども。
 ベッドから「んー…」と眠そうな声がする。

 まぁ、聞いていてもいなくてもと「…パンツ一枚、捨てていいかな?」と切り出した。

 芳明は「…パンツ?」と、わざわざベッドから起き、洗面台に来てくれた。

「………」

 芳明がぼんやりと下着を眺めるので「ここ…」と見せてみた。

「あ、うん…」
「…よれてたからいつか言おうとは思ってたけど、流石に…これ、痛くなかった?ここまでくると」

 ギターのロゴが入った緑色の下着。限定物で、もう手には入らない。

「…あー、確かにトランクス状態だったけど俺も気になりながら穿いてた…」
「うん…」

 芳明はポンと俺の頭に手を置き「この際一掃しちゃうか」と呆気なかった。

「グレッチの方、穿いてないしな、そう言えば」
「…そうだねぇ」
「…てゆうか、ユキ。今日は何時から」
「今日は午後撮影。少し時間あったし、洗濯してから行こうかなと思ってたんだ」
「あーじゃあ、俺休みだしパンツ選抜してやっとくわ。悪いな」
「いいの?もうないんでしょ?これ」
「うん。また違うのくるよきっと。消耗品だし仕方ない。聞いてくれてありがとう」
「…気に入ってたみたいだから」
「俺ってこれ、悪癖だよな」
「うん、赤いのもあるのに」

 芳明は服にしてもそう、一度気に入るとずっとそればかりになる。大体一気に何枚か買うのに。

「あっちあんま穿いてなかったな、そう言えば」
「まぁ、でも赤いのも伸びてはいるよね…?」
「確かに。あっちもトランクスになっちゃったし捨てちゃおうかな」

 洗濯籠を漁り始める。

 あー、この靴下やばいな、あ、この…うーんシャツはちょっとキープしよ…と、芳明は一気に一掃モードに入ってしまった。

 Fenderパンツ長かったなぁ。数年は持ったから確かに質は悪くないんだろうけど…。

 たまたま聞いて良かった…のか、これが始まると長い。ただ、きっかけがないと互いに忙しく、ついついその辺が曖昧になってしまうのだ。

 スーツはあるから問題ないし、今日洗おうとしていた分を洗えば、下着も大丈夫だろうけど。

「…一気にやるの?穿く物なくならない?」
「テキトーになんか、時間あるときに買い物行くわ。
 あれ、ユキ、次の休みは明後日だっけ」
「の、予定だけど…」

 ぱっと時計を見た。9:00ジャスト。いつもなら家を出る時間。
 午後からと言ってもその前に…お昼ご飯、あの人確か最近やけに野菜にハマっていたな、鶏肉と。買ってから行かなきゃなぁ。

「一人、担当増える雰囲気がそことなく漂ってるんだよね…」

 過去の例で、ある日出社した瞬間に突然、押し付けられるような顔合わせとスケジュールを聞かされた、あれを思い出す。

「ん?そうなの?」
「…起きたならテレビ、音上げてもいいかな?なんとなくこの人かなって人が出るみたいで…」
「ん、いいよ」

 テレビの音量を少し上げ、ぼんやりしながらコーヒーを入れた。

 洗濯機が回り始めた音がする。
 よし、と、芳明は洗濯の分の選別を終えたらしい。多分この後、洗ってあるやつも減るのだろう。

 今日のゲストは平中ひらなかレイアくんですと、俳優なのかタレントなのかも明かさない紹介。

 銀髪でスッキリした顔立ちの長身。まさに朝の番組が似合うような爽やかさ。
 場馴れはしていそうな座り方だが、少し…なんだろう、違和感がある……受け答えに何度か頭を下げるのみだな、この子。
 どうやら人と目を合わせないし態度も素っ気ない。クール路線なんだろうかと…職業病だな…。

 よく伏せ目になりがち……ついつい見方がマネージャーになってしまう。
 昔いたよな、コミュ障系のモデルタレント。そういえば最近、見ないけど。

 芳明もコーヒーを持ち隣に座り、自然と手を回してきた。
 そういえばと、緩く手を繋いで「おはよ」と軽くキスをする。

「この子最近、何かで見たな…」
「俺もそんな気がするけど、大抵そういう子は戦隊物とかからだったり…」
「新人?ていうかユキんとこの子?」
「…ではないけど、最近わからないからなぁ、ちょっと前とか」
「あぁ、あったな。一時的に移籍してこっそりまた元の事務所に戻ったんだっけ」
「そうそう」
「この子、女性とは目ぇ合わせないのな」

 言われてふと気付いた。
 ホントだ…凄い芳明。

「…芳明、マネージャー向いてる?」
「いやぁ俺も人は見る職だからなぁ。ちなみに俺はね、ユキは裏方っていうより表だろ、て思うけどなぁ、なんせ美人じゃん。
 まぁ、得意じゃないだろうけど」
「そうだねぇ、無理だなテレビ出るとか…でも、ホントはコミュ障でした、とかよくいるよ。あと大体は間違いなくどこか我が儘。そういうの見てるとホント凄いよ、この人たち」
「だろうなぁ。
 今はバイオリンの人だけなんだっけ?」
「そうそう。あの人は意外と気遣いだし、お子さんいるから安定した予定立てられるんだけどなぁ。ホントに増えたらどうしよう…」
「まぁ、何かあったら」

 まるで見越したような芳明の態度。 

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