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 深く深く、粘膜を混ぜ合わせながらその手を離し指を絡ませるように握った彼は一度ちゅっ、と舌を吸い「お口直し」と仄かに笑う。

 空いた手で急かすように桐生のそれを握り「センセのが欲しくなっちゃって」とリップサービスまでしている自分。

「…はいはい」
「こうちゃんは、初めてだったし、」

 ふっと手を払い焦点を定めながら「も少し腰上げて」と要請する桐生に答え、葵は頭にある枕を腰あたりに敷いた。

「おとうさんは…__っ、」

 くいっと、少し入れ葵の顔色を伺う先生に「足りないし、」と笑い返す。

 2度程入ったせいか、というかさっきもわりとつるっと入ってしまったし。
 なのに先…入り口あたりで一度止められ、ゆっくりぐりっと腹の中を押すように入れてくる、それに息が詰まりそうになってしまう。

 焦れったく、もぞもぞと身体を動かしながら「先生は、俺と同じだから」と桐生の頬に触れた。
 視界が、熱さで少し湿っている。

 仕方ないなと言いたいのか、それとも誘いに乗ったのか。

 彼はぐっと腰を進めながら「次は使ったら?」と楽しそうに、葵の起立に触れてくる。
 まるで「滑っちゃった」と言いたそうにぐっとしごかれつい、「んぁ、」と詰めた声が滑り落ちた。

「……んな、の……、触らないでよ」

 どこが苦しいのか、わからない。
 ただ…軽くあっさり出てしまった羞恥に顔を隠し「…やだってば、」と、頭が溶けそうになる。

「じゃあ来んなよ」
「……んん、そう…したい」

 陵辱されている。
 けど…それはあまり変わらないと、「センセは、なんでさ、」と、足を持ち上げられた状態で聞いてみた。

「ん?」
「普通に、出来るの?」
「案外いいもんだけど?お前は俺としか使わないから微妙かもしれんが」
「…俺は……」

 ず……ずずず、と飲み込んで行く、なのに飲み込まれるような快楽に暫く息遣いだけになる。

 言葉がない。

 ……何故だかいつも先生は、自分を抱くとき…変な表情、眉が下がり、心許なさそうに感じる。

 足りない?と聞こうにも、声を出せば自分の全てが流れ出そうで、そんなときは支える腕をちょいちょいと触るのだ。

 くるっと体勢が変わり桐生の上に乗ると、ふっと髪を掛けてくれて、そういえばこうちゃんもそうだったなと、その手を取り甲にキスをする。

「…何?攻められたい?」
「…ご機嫌だな、可愛くねぇガキ」
「ふふ、」

 笑ったはずなのに。
 少し動いただけで、余裕がなかった。

 体温が上がったせいかもしれない。気付けば根本をがっつり掴まれ、ムキになる。

 「触ってよ」と胸に手をやろうとしたが振り払われ、俯いているはずなのに、桐生は目尻を親指で擦ってきた。

「…ブスだなぁ。でもお前は、」

 可愛い俺の弟だよ。
 気付けば耳元でそう言われた。それだけは覚えていて。


 あの時母親は震える手で「……えっと、」と、躊躇っていた。
 その日のオーダーはいつもの名前で“違う人”が来た、それはよくあることだったが、学ラン姿の学生に、母親は流石に戸惑ったようだ。

「予約したカンザキです」

 そうやって澄まし顔で言う高校生に、母親は一度父親へ振り向いた、それに父親は怪訝そうな顔をしたけれど。
 それがこの人との最初の出会いであり、一家崩壊の幕開けだった。

 彼はただ、久瀬くぜに雇われたアルバイトだったと、久瀬家に行ってから聞かされた。まだ幼い頃で……。

「おい、起きて」

 肩を揺らされ、目が覚めた。
 夕方よりも少し前の明るい日差し。桐生の車は久瀬家の前に停まっていた。

「…あ、」

 容赦ない淡い光に顔をしかめれば、何かを勘違いし心配をさせたらしい。
 桐生は「まぁ動くな」と運転席から出、チャイムを鳴らしに行った。

 桐生は家から出てきたお手伝いさんに、学校では見せない愛想の良さで対応していた。

「はい、シートベルト取って」

 指示に従えば彼はしゃがんで背を向けてくる。
 葵をおんぶした桐生はお手伝いさんに「熱があるみたいで」と伝え、当たり前な態度でそのまま自室のベッドまで運んでくれた。
 鞄はどうやらお手伝いさんに持たせたらしい。

 甲斐甲斐しく寝巻きをクローゼットから取り出し渡してくる。
 確かに桐生は、この部屋、家の勝手は充分把握しているわけだが。

「今日は取り敢えず寝てろ、風邪薬は置いておくから」
「…風邪?」
「おぶっただけでも背中に汗が貼り付くよ。
 夜中あたりに下がったら、一回風呂は入れな…っと、ああ、これか」

 桐生は電気スタンドに置いてあった例の“保湿クリーム”を回収し「じゃあな、ジジイが来る前に帰る」と帰って行った。

 ……普段、彼は素っ気ない。

 ここへ来てすぐには理由がわからなかった。
 この、彼の部屋だったここで行われていた行為の意味すらも。

 自分の身に同じことが及んだときに漸く、彼が死んだような目であの弁当を受け取りに来た理由もわかった。

 痛かった。
 色々考えたらより、痛くなる。

 だけど彼にはそんなことも関係がなくすぐにここを出て行き、自分とは…違う人生を歩んでいるのだ。

 そこがいまいちわからない。

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