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10年近くも経てば根も葉も枯れ、自分も忘れ掛けていた。
あの弁当屋は離散し子供を金持ちに売っただのなんだのという噂。
突然何もなくいなくなってしまった…今となってはハッキリと「初恋」を覚えたような相手。でも、男だった。
その感覚が不思議で変わっていると知ったのはそれから少し後で、高校生にもなればそれはなかったことなんだと蓋をし、忘れて色褪せた感情に「田舎なんて早く出てぇよ」とぼんやり考える日々の中。
洸太はせめてと、市外の高校に入学した。ここなら、誰も知る人がいないと思っていた。
自分で選んだはずが「こうちゃん、こうちゃん、」と呼ぶ笑顔を思い出すことが増えた頃。
「ねぇ、洸太くん」
そう呼ぶ、くるくると髪をアイロンで傷ませた女に「何」と、わかっている下心に辟易してきていた2年目。
何も知らないヤツらは楽だが、家に帰って食う飯は気に入っている。
共働きの両親がいない昼間。
ベッドで、名前もあまり覚えていない先輩女子と戯れるのも悪くはなかった。
「どうだった?ミチルよりよかった?ねぇ」
……誰だかわからない比較対象。
絡み付くような、後腐れも粘っこさもありそうな女に、終わりだよと溜め息を押し殺し「ちょっと疲れたな」とすぐに背を向ける。
彼女は後輩食いで有名だ。
たかだか一回くらいじゃ、気持ちよくもなんともねぇし、思い入れもねぇよとケータイを弄ると「ミチルから聞いたよ!?」と、後ろから素肌で抱きついてくる始末。
確かによかったというか、もう俺の根幹は多分取れたよ、と、だけど話しをするのも面倒で「ん」と素っ気なく返す。
“噂”という概念が嫌いだったから抱いてやったけれど。
先輩はあながちなものだった。こちらが塩対応でも、絡み付いたその手が股間に伸びてきて、痛ぇんだよと向き直り、抱き締めて誤魔化した。
「ねぇねぇ、あたしと付き合わない?」
その言葉は、あまりに軽く感じた。
洸太が返事もしないままでいると、彼女とは相性が悪いらしい。
胸を顔に押し付けたかと思えば、側頭部付近に唇を寄せてくるので、やっぱり離してそっぽを向いてしまった。
「…洸太くん、その傷って」
「あ?」
言われた言葉でふと、「予選敗退による傷口公開処刑坊主」になってしまった期間を思い出してしまった。
反射的に柄も態度も悪くなった自分に、後輩食い女(一発よりもキープはしたかった)が「なんか、」と、流石に媚びた態度は止め、顔を歪めた。
「ヤッたら終わりタイプなんだね。何?ミチルはじゃあキープ?」
先輩はふっと立ち自分で下着を着け、「いいわ、風呂借りたらガッコー行く」と、今までとは違うまるで可愛くもない態度で勝手にすたすたと風呂場へ向かってしまった。
…律儀なことで。
勝手にしてくれという心境。これだからセックスは面倒臭い。
互いに好きかどうか、本当のところどうでもいいクセに大体はこちらが非難される。
まぁ、俺が悪いのかと、洸太は寝転がった。
あれは中学での強制入部制度でバスケ部を選んだときだ。野球部は坊主だろうしと選んだはずだったのだが。
それから、どうやら坊主制度は消えたと後輩から聞いた。
笑い飛ばしてくれた友人か、何か可哀想なものを見つけたような大人かと、洸太は二種類に人間を分けた。
笑い飛ばしてくれたのは昔からの連れだった。
何故かわからないが触れてはならないものとして扱ってきたのは何も大人だけではなかったし、然り気無く話を聞いては「名誉の負傷じゃないか」だなんて言ってくれた体育教師もいた。
二種類を更に分類したのだ。
今回は「道徳も膣もゆるゆるな先輩」に分類した。
ケータイの通知がピコピコしている。
手を伸ばせばSNSチャットの「通知があります」。
そんなことは書かれなくてもわかっているのでスライドして消した。
風呂の匂いがして、眠りかけていたことに気が付いた。女が制服を着ている。
自分も身体くらいは流そうとシャワーを浴び、また部屋に戻れば女はいなくなっていたが、チャット画面が開いてあった。
「まーた今頃お楽しみかよ!」だの「殿様出勤かっつーの」だのに一言、自分発信で「最低!猿共、死ね」と書いてあるのを見て待受のロックは使うべきだと痛感した。
アフターケアにもならないアフターケア、「画面ロックしてなかったわ」と発信し、ロック機能の数字は自戒を込め今日の日付を設定した。
果たして明日覚えているんだろうかと思っているうちに、どうやら本当に眠ってしまっていた。
寝たとわかったのは、あの女が傷を指摘したからかもしれないし、今の不可解な環境のせいかもしれない。
こうちゃん、こうちゃん、と無邪気に笑うあの笑顔が掘り起こされる映像、夢を見た。
まもるは確かに近所の子供だったが、学校は違かったと思う。学校の話はなんとなく聞かなかったし、まもるも話さなかったけれど、公園にいた少女のような顔の子。
夢の中ですら考えた。今日ヤった先輩より、断然美人だった、と。
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