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 けど、その後が…その状況なんて、何人か遊んだ女と同じことをするのに決まっているはずだ。

 なのに、何故そこから先がぼんやりするのだろう。

 ふとズボンから手を引き抜いて思い出す。正直、実際葵と1回ヤってしまったし、抜いてしまったはずだ。
 ヤってしまったあの事故だって、果たして気持ちよかったのか…どうだったんだけ。葵はどうだったんだと考えた瞬間、濁流に飲まれる思考、まるでバグのように、葵が父親に陵辱をされたアレがフラッシュバックした。

 まるで剥がれ落ちるようなレーススカートの上半身。徐々に紅潮して行く白い肌、スカートの中の秘密。

 思い出したらガっと熱が上がり、先程までは無能だった股間が反応し始めた。
 あの中は想像を…出来ないけれど、トイレで見たあの潤んだ瞳、熱。

 下着とパンツから取り出して目を閉じる。

 葵はあの変態親父のこれを咥えるだろうか…違う、まだ萎える。もしも、もしも俺のこれをそうしたら……。

 尾てい骨が痛い。これが癖になったら困るけどあのスカートの中。今まで経験してきたものを想像するよりも遥かに謎が深い。うつ伏せになりベッドに、まるでしがみついていたあの姿…トイレで経験したあの、凄まじい圧。

『ねえ、こうちゃん』

 それしか考えられないそれしか考えられないそれしか考えられないそれしか考えられないそれしか考えられない、熱、それしか考えられないそれしか考えられないそれしか考えられない、あの感触、女のそれより少しキツかったような気がするしそれしか考えられないそれしか考えないそれしか考えないそれしか考えないそれしか考えないそれしか考えない、葵は果たして何にこの激情をぶつける?それしか考えないそれしか考えない、ドレスの下も全て、全てを露わにし剥き出しになって、なって…嫌がるのだろうか、例えば俺があの親父のように服従を求めたら…。

『あれ、俺もやりたい』

 声が詰まった。まるで目が覚めたような感覚。
 ウェットティッシュを1枚出すのにまごついて浮かんでくる。少し前まで、1年もあいつはなんとなくいけ好かない、いや、ツンとした態度だったような気がする。朝からいる時はいつもイヤホンで周りを遮断し露骨にこちらに背を向けていたような…?

 だから少し、あの時からかってみたくて三澤を焚き付けたのだ。それがなんだ?どうしてこんなことをしている?

 部屋から洗面台に行き手を洗いふと自分の顔を見る。血の気がない。ただ、熱っぽさもある自分の顔。
 いくらでも見慣れているその顔が認識出来ないような気がする。鏡に問う、お前は一体何者だと。

 やはり腰が痛いな。

 冷蔵庫から2リットルのスポーツドリンクを取りコップに次ぐ。
 電気を消した瞬間の暗闇に何かを思った訳では無いが、なんとなくふりむいてまた部屋に戻る。

 いつも通りの部屋。ベッドだけ生々しく感じるけれど、そんなことよりどっと疲れてまた寝転ぶ。免許合宿か、いいな。多分夏休みには葵と会わない。会っても、登校日の数時間だけなはずだ。

 こうちゃん、こうちゃん、と公園で遊んだ日々をぼんやりと思い出す。
 あれって、本当にでかいボールだったっけ。腰が痛い。あの青空を眺めた時の衝撃というか、訳の分からなさ。

 ただそう言えば、あの時だって充分に、端っこでなんとなく「一人で遊んでる子」と認知はしていた気がする。

 思ったより……。

『気にしいだから関わるのやめとけば?』

 そう言われた割には自分は案外、例えばあの頃の葵の顔やらなんやらを覚えているかどうか。断片的なのかもしれない。
 何故ひとりで遊んでいたかとか、あの時すら聞いたかどうか。じゃあ何をして遊んだのか。どうしてもこびり付くように覚えているのは病院で母親に叩かれ泣いていた葵くらいなのに。

 今も、昔も。
 いつ、どうやって、どんなタイミングだったか、それらがただただ衝撃的なだけで、他はどうだったか、どうなのか。

 記憶が曖昧なうちに結局寝てしまったせいか、寝起きすら、抜いたくせにスッキリしないままぼんやりと学校に向かった。

 葵は既に登校していた。それにはっとしたが、自分の席に三澤が座り普通に話をしているのに、少しまたモヤっとする。

 …あれ?
 この光景、この感情、今までも体験したことがあった気がする。

「お、はよ」
「はよー…」

 葵がふと見上げ「おはよう」と言うその仕草、例えば口角や眉の上がり。全く無なわりに口吃るような光景に、胸が少し軽くなるような気まずいようなで、あれ、自分は今どんな表情なんだろうかと急に不安になるような…。
 ふっと三澤が当たり前に立つのすら、まるで側を譲るような…。

 思い出した。

 退院して公園に戻った日、こんな感じだったかもしれない…。

「こうちゃん、大丈夫?」
「あ、え」
「保健室のセンセがレントゲン出せってさ」
「あぁ…」

 不思議だ、俯いてしまった。
 何故だか一瞬、鼻がツンとしたからだ。

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