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公園に着いたとたん、後ろから抱き締められた。突然のことにビックリしたけど、落ち着いたり不安になるのが分かる。

仕方ないから後ろ手に彼の髪を弄る。この、猫の毛みたいにさらさらした感触が好きだ。

ふと離して顔を覗かれた。その顔があまりにも苦しそうで、だけども不謹慎に目が綺麗だなんて思ってしまって、私は思わず俯いた。

「…」

何か、言ってよ。
いや、言わないでよ。

考え事しよう。

そう言えば、兼定は浮気男なんだ。

彼は本気で恋をしたことがあるのかな。

「何で俯くの」

止めてよ。

「ん?ううん…」
「…」

貴方はいま、私のことを考えているんだね?きっとさっきより辛そうな顔をして。

俯くなと言われたから横を見ると、公園の木々の影が当たる所に、濁った小さな池があった。

あれは謂わば露の大群で、そこに泳ぐ鯉は、露の合間を縫っているわけだ。

「顔、見られたくないの?俺はね、怖いんだよ…いつか、居なくなっちゃうんじゃないかって」
「…うん」

涙が出てきた。もう、顔なんて見せられない。

しののめに おきける空は思ほえで あやしく露と消えかへりつる

人と関わることは、こんなにも辛くて切なかったっけ。

「私ね、あんたに言えないことがある。
なんだかわかる?当ててみて?」
「え…うーん」

本気で彼は考え始めた。そう、空気で分かる。

「分かんなくていいよ、当てないで」
「いま、当ててみてって言ったじゃん」
「それが女心ってもんだよ。当てないで」

さだめなく 消えかへりつる露よりも 空だのめするわれはなになり

いまの貴方はこんな気持ちなんだろうか。

やっぱり授業に出ておけばよかったな。そうすれば、道綱の母の気持ちに共感できたかもしれない。

でも道綱の母は強い。私には束縛するほどの勇気も強さもないから。

だけど貴方は束縛しなくても浮気なんてしないだろうし、痛々しいほど私を思ってくれるんでしょうね。

私は彼の顔をやっと見つめた。彼はやっぱり、純粋なほど澄んだ目で、辛そうに私を見ていた。

ごめんね

そう言いたかったのに。

私が一番最初に汚すのは、大気や環境や地球なんだと、昔は思っていた。

違う。私が汚してしまうのは、一番最初は多分貴方なんだと、顔を見なくてすむように私は彼に抱きついた。


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