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私はただ、素直になれる場所が欲しかった。
誰と一緒にいても、明るい人を勝手に演じてしまうような弱い自分が嫌いだった。
「一回で良いよ。ホテルに行かない?」
誰にも自分を悟らせたくないと常々思っていて、
「好きな人としなさいよ」
プライドが高いように見せかけて、実は空っぽなことも知っていた。
「じゃぁ何で二人っきりで会ったんだ」
「…いいよ。
無理矢理は馴れてる」
「そんなんじゃない」
こんなやつ、死んじゃえばいいのに。
そんなんじゃない
その一言に幻滅して私は帰りの電車に乗り込んだ。都心から少し離れたところに帰るのは、気が遠くなりそうだ。
とりあえず一人になりたい。だけどなりたくないから、何か話題を探しては文字を打ち込んで送信する。
地下鉄では電波が悪い。駅に着く度に問い合わせをするはめになる。
たった三分。
だけど寂しい。
新御茶ノ水のホームに止まると、見慣れた痩せ形のメガネが立っていた。そうか、学校に居残りしてたのか。
見つけてすぐ、気がついたらそいつに合図して電車を降りてしまっていた。
「よー」
気の抜けた返事。
「今帰り?」
「うん。文化祭実行委員、来年はやりたくねぇなぁ」
「暇?」
「暇だよ」
私たちはそのまま、ちょっと歩いて学校の近くの喫煙所でタバコを吸うことにした。
喫煙所が見えてくると、奴はタバコをくわえて火をつけた。街灯と夜空の隙間に、白い糸が割り込む。
「戻って来ちゃったなー」
「ごめんね」
「暇だからいいけどね。
ねぇ、何かあったの?」
「別に…」
「へー、」
思わず彼の顔を見ると、横顔には何も映されていなかった。ただ、眠そうにぼんやりと煙を見つめている。
「疲れたなぁ」
「お疲れ様」
「お前、飯まだっしょ?食べに行かない?」
「遠慮しとくわ」
彼はこれ以上誘ってこないだろう。そういうやつだ。妙に鋭くて怖い。
「話でも聞こうかな。何かおもしろい話して」
「おもしろい話かぁ。
さっき、松山に誘われたよ」
「あいつ、サボったと思ったら…」
「サボったんだ」
「お前も下手なやつだねぇ」
そう言われたのは初めてだ。まるで確信をつかれたようで、不意にも、泣きそうになった。
「初めて言われたよ」
「じゃぁ何て言われるの?」
「少なくても、器用に見られるよ」
彼がすこし笑った。「それは嘘だろ」と。
「私もそう思う。
私はいつも、隅っこみたいな人でいたいなと思うんだけどな」
「全然隅っことは程遠いね。
でもさ、隅っこって、居心地がいいよね」
そう言うと彼は、目を細めるように、だけどもきっちりとした瞳孔でにっこりとした。
あぁ、不器用だなぁ。
私も、彼も。
「なに見てんのさ」
タバコの火を消した後、私は不覚にも、下を向いて仕えを取り払うかのように感情的になった。
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