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体が重い。体温も高い。
案の定鷺は風邪を拗らせた。蒲団は熱いのに体の芯が震えるように寒い。
いつも通りの天井や外気が、普段よりどんよりと質感を持っていた。覆い被さるような日の光は、妙に埃臭いような気がする。
今朝、女将さんが用意してくれた桶の氷水も、いつの間にか溶けてしまい水だけになった。時刻はいま正午だろうか。
目の前が異世界のように感じるこんな体調の日は、何故だか心地よく感じる。そうか、自分はいま病気なのだと思うと妙に気分が高揚する。こういった日は、ひたすら考え事をしてみるのだ。
死ぬとは何か、と。
息が苦しい。喉が痛む。
部屋の襖がそっと空いた。見ると、女将さんかと思った人物は予想を外れ、恭太郎だった。恭太郎はお盆に急須と湯呑みを持っていた。
「起きてねぇで寝てろよ」
面倒臭がって少し延びてきた顎髭が心配そうに覗きこんでくる。
額に乗った手拭いをどけて手で体温を図る。恭太郎の手は固くて染め物の臭いがした。
「どうした?」
「たまたま寄ったら熱出して寝込んでるって聞いてな。」
急須とから茶を注ぐ、骨ばった指すらも意識を軽くしかかすらない。結構、熱が高いかもしれない。
「起きられるか?」
体は痺れたように重い。視界が潤んでいる。半身を起こせば、目眩と頭痛が襲った。額にじっとりと浮き出した汗を、恭太郎の指が拭う。
茶と薬を受け取って一緒に飲み下す。猫舌と知っている恭太郎の配慮か、程よく茶が冷めていた。
飲んですぐまた寝込む。熱さに、鎖骨辺りまでずり下げていた蒲団を見て、「ちゃんと被れよ」と警告してくる。
「熱い」
「…わかるけどさ」
出した手を握る恭太郎の手が冷えていて気持ちがいい。
「死ぬ訳じゃないんだから…」
「まぁな。お前は寝込んでも死んだことねぇからな。だから寝なさい」
手が温もってきた。だが気がつけばいつの間にかぐっすりと眠っていた。
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