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 背中の湿った温度を、さらりと風が撫でて行く。
 ベランダからじわじわと聞こえる蝉の声。

 腹に当たる熱さ。はぁ、と少しだけ吐かれた息の側に寄り、湿った項に唇を寄せた。
 吐息と「イく…」が混ざれば「いいよ…」と、髪を撫でられふわっと、耳元に詰まるような声が吹き掛けられる。
 右手で優しく、ぐちゃぐちゃに濡れたシノのペニスを扱いてやれば、くいっと狭まり奥に吸い込まれ、ぐっと一気に苦しくなって。
 はっ、と、息が止まりそうなその一瞬で絶頂に達し、2人で崩れるように寝転んだ。

 はぁ、と息を吐き間近で顔を見てやれば、シノの紅潮した頬には髪の毛がへばり付いていた。
 シノの頬を撫で髪を耳に掛け一言、「最後締めんなよ…」と疲れた声が出て行った。

「ごめん…イッたみたい」

 その割にはどうも…楽の掌は熱いままで、シノはまだ、あまり利かなくなってきた部屋のクーラー並みに緩く勃起している。
 そういう体質だと、言い張るのだろうが。

 スルッと性器を抜くと、確かにピクッとするのだが。またこいつは出さずに終わる気かと、楽はコンドームを縛って捨てた。

 三回目にして慣れてはきたが、やはりこれを見ると「うーん…」と悩む。
 すっと半身を起こしたシノは「はーあ!」と腕を伸ばす。確かに疲れた。

 ベランダからじじ、じじ、と死に際の声がする。シノがそれにふと気を取られた隙に、楽はばっと、しなりかけてきたシノの性器を口に含んだ。
 忙しくも「は!?」と驚いた顔のシノに、少しの自己満足。

「ちょ、ガク!?」

 シノに構わず黙々と筋や玉やと口にしていたが、かなり温まってきたところで「待った、出るヤツそれ!」と、急に額を掴み阻止しようとするのだから、仕方ない、口は離したが手で包み「ん?」とすっとぼけてやった。

「……いいってば!痛いし、ちょっとだけ!」
「んーそうなん?」

 まぁいいやとスパートを掛ければ「うっ、」と言う声と少しだけ波打つ凹んだ腹。そこに白濁がぴゅっと飛び、足がぴくっと伸びた。

 了承了承、満足満足。
 ベットスタンドにあるティッシュを取り、シノの腹を拭い、思う。細ぇ腰だ。

 ティッシュを丸めて捨て、やっと満足した楽は、「ふーっ、」とテーブルのタバコを取り火を付け、箱と灰皿をシノに寄越してやった。

「…あっついな、今日も…」

 楽はパンツを履き、ポカリの方がいいよなと思い立ち冷蔵庫から二本、一本をシノに渡した。

「…ラブホみたい」
「この時期は買い置きしてんの。
 冷たいから、風呂入る前に一口飲んでからが良いかも」
「んー」

 パンツを履き、着てきたシャツを羽織ったシノはもう一度ベランダを眺め「セミファイナル」と呟いた。

「窓開けたいけど凸されそ……」
「あれビビるよね。ドライか除湿にしとくか、取り敢えず」
「…洗濯日和だよ、今。シャワーついでに…洗濯機って脱衣所タイプ?」
「うん」
「意外と良いとこ住んでてビックリした…仕送り?」
「も、ちょっとある」
「だよねぇ、設定は大学生だもんね…実は年上だったりします?」

 上目遣いが可愛い。
 つい、キスをしてしまった。シノが然り気無く指からタバコをスッと抜き、揉み消す音がする。

 …流石、慣れている。これでわかりましたね?と口を離して「年下なのはわかるでしょ」と、いたずらにシノの右乳首をピンと弾いた。

「…まぁ、」
「最初だって」
「…うん、童貞じゃないのはわかった」
「まぁそりゃ…あんなところにいたらね」
「変なこと聞いて良い?」
「どうぞ」
「なんで今日は家なの?」

 それには答えなかった。
 ただ、ぐさっと来た。

「…別に。昼からとかめんど」
「昼の方が夜より安いよラブホ。まぁ…どこでも良いには良いけど…」

 そりゃぁ確かに…行きずりにしては、だけど…。
 流石に三回目もすればなんて…、経験値が遥かにこの、バイセクシャルよりはないのかもしれないけれども……。

 あまり聞かないうちにシノは「シャワー浴びてくる」と風呂場の方へ向いてしまった。
 つい、「あ、待って」と手を掴み、「ん?」と振り向いた矢先に目に付いた、敷いていたタオルを剥がし「洗濯機に入れといて、あと身体は上の、テキトーに使って」と渡した。

「ん、はーい」

 少しして、シャワーの音がする。

 ああ言いながら俺も大概だよなと、楽はなんだかんだと脱衣場に行き、新しいタオルを側に置いて洗濯機を回した。
 そこまでするなら本当は自分の服を貸しても良いのだが、自分の服とサイズが合わないかもしれない…まぁ、それでも良いといえば、良いんだけど…。

 風呂場をぼんやりと眺める。

 三回目だ、この後ゆったりしたり、どこか、カフェに出掛けたって良い。だが先程「なんで今日は家なの?」と言われてしまった。

 少しはわかっていたところだけど、その一瞬で一気に、本当はもう少しだけ近付きたいだなんて、言える言葉ではなくなったように感じてしまった。

 もしこんなとき、それを言ってみたら?という経験則がない。
 自意識過剰に「これ以上は」と、シノに壁を作られたような気がした。

 連絡先を交換するくらいには、気に入ってくれているのか、それとも相性が…いいのか?楽自身は、そうなんだけど。

 シノと名乗ったそれしか、彼の固有名詞を知らない。

 界隈で名前を聞いたことがある公園、時間帯も夕方頃らしいと、そんな都市伝説並みの情報を元に、偵察も込めて散歩をしに行ったのが、半月近く前。

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