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 キスをすれば今と一緒、意図もしないのに勃起するようになって。
 二人でマスターベーションを始め、それから口の使い方を教わった。

 そんなとき彼は、曇るからと眼鏡を外していた。

 その目は薄い水分の膜で覆われていて、時に獣のようにゆっくり咀嚼したり、逆に、咀嚼されるときが大半だが、俺の姿をじっとよく見ていて、その時の目は優しく甘く感じていた。

 あの、前頭部を緩く撫でるように掴むその手はもしかすると、あと一歩の境界線だったのかもしれない。今ならそう思う。俺が、嘔吐えづかないようにと、そういう理性で。

 毎週木曜日の高校一年生、どこから心が変容したかはわからない。

 けれど、数えてみれば1年、夏休みや春休み、冬休みとあった…10ヶ月ほど。つまり単純計算で40回の10分から30分程度、1年なのに最低でも1時間に満たなかった時間を過ごしたその期間は、ずっとそうやって過ごしていた。

 2年、3年と時を過ごし、毎年冬休みには不安になる、次会うとき、いや、次には会えるのだろうかと。

 俺は最初の方から、セックスの仕方を調べ尽くしていた。いつか、いつかと思っていたけれど、焦れったく時は流れた。

 先生は言った、「18歳までは待とうね」と。

 それまではそういったセックスを一切せず、でも、だから真面目だったかと言えばそうではなかった。彼は、始終楽しそうだったからだ。

 本当に18歳になった日、俺は3月生まれだ。

 丁度、卒業式の前日で、覚えている。まだ桜は咲いていなくて、準備で遅くなった日の夜、先生は学校から少し遠い公園に待ち合わせ場所を指定し、その日初めて俺を抱いたのだった。

 今まで、最終段階はおもちゃだった。

 それは狭い車内で、駐車場の街灯、バチバチと虫が光に寄って集って死んでいた、そんな景色に今までのそれらが一気に押し寄せ、最初から最後まで泣きそうになっていた。

 初めて身体に這った熱い舌や体温の重さ、何より夜でも光る先生の目が熱く、もっと、もっと欲しい、いままで何を見てきたかを知っていると舞い上がった。

 指で触れる箇所一つ一つが熱かったけれど、一番は、彼が俺の中で生き、呼吸をし、「…堪らないな、」と言った熱さに痺れた。俺もここで生きている、と。

 車は狭かった。だからこそぎゅっと抱き締め「もっと、もっといたいよ先生」と言った瞬間、彼はふと、乳首を掻いていた割れた爪の手も止め、腰の動きも止め、大きな手で包んでいたそれをしごくのも止めてしまった。

「……せんせ?」

 余した熱に振り向けば、彼はじっと俺を眺め、「いいよ?別にね」と、急に、いままで以上の激しい動きで俺を犯し始めた。

 あまりの急さと、まるで豹変した彼に呆気に取られたまま「んっああっ、」とイッてしまい、車の窓ガラスに手の後を滲ませた。

 声が響くことにも驚いた。そうだ、学校では声を殺していたから。
 それが、よかったのかもしれない。

 しかし彼はまだ体勢を変え、「別に、いいけどさぁ、」と、まるで怒ったようにガツガツと奥を…動きにくそうに擦っていって。

「どうだ?気持ちい?」
「ん、せんせ、」
「まぁ、3年掛けた俺の、身体だし」

 またイク、と思った瞬間、彼は引きちぎるように肩を噛み、「痛っ、」と萎えた。けれども動きを止めない。

「……センセ?」
「まぁ、二年掛けて考えようね?いいよ?一緒に、いこうか」

 その日、立てなくなるまでまるで犯された。
 あと2年、つまり20になったころ、彼は急に消えてしまった。


「…なにそれどーゆーこと?」
「…結論から言うと、彼は捕まったんだ」
「…なんだって?」
「まぁ、記事もネットニュース程度だったけど。つまり、小児性愛というか…思い出したけど彼は昔、江戸時代の男娼の話をしてた。16〜18が花の盛りなんだそうで…」
「…少年を開発するのが性癖だったのか」
「そうだと思う。卒業後、熱に浮かされた俺は一緒に2年は同棲しましたが、最初以外は早くもレスったよ」
「……俺そういうの反対派だわ」
「まぁ、あんたにどう言われようと」
「そうだな。
 けど……まぁ、余計なこと。俺、丸山まるやま孝介こうすけってんだ」
「…え?」

 彼は、ホテルのマッチにボールペンで電話番号を殴り書きし、「好きに使え」とだけ言った。

 それ以上は、特に何も言わずに彼と共に寝起きした。

 退室時間には「じゃな」と、朝日に向かって彼は素っ気なく歩いていく。

 握りしめたマッチ、その現象を不思議に感じる。
 俺は別にタバコなんて吸わないし、擦り方もわからないというのに。

 不思議だった。そう、不思議な。
 朝日をバックにして駅へ向かう自分。

 何故か今日は…よくよく考えたら一晩でこんな話をした人もいままで、いなかったなぁ。
 今日くらいは、朝日を眺めてみる。なんでだろう、違って見える。

 そうか、まだ早いから雲すらもない、真っ青なのか。
 こんな日は、殺人なんて起こらないような気分。だけど裏側にはこうして何か、必ずあるんだ、と。一度だけまた彼の方へ、振り向いた。

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