大序
…いらっしゃい。
おやおや、随分お若いかな。まぁ、若いうちは金に困ることも多いでしょうが…しかし、一体何を?花街でパッと使っちまったんでしょうか?
………………。
はぁ、こちらは一体どういった書物で?随分と古い……上等な和紙のようですが。
…どんなご用かは知りませんが、そりゃあ昔はこの店も経営は傾き、なんせまだ質屋など、今ほど形がはっきりしていないもんでして。ですがいまはきちんと、政策に乗っ取り物々でやっておりますよ。そういたしますと和紙でも物によっては……
「叔父さんのことが知りたいのです、見れば、わかりますよね」
はい?
「……サイホウさん、もとい、権平さん、ですよね?」
……権平は私ですが、確かに。
「昔はここで主に叔父と共に丁稚として…貴方が裁縫を担当していた、と調べました。」
まぁ、そんな時代も「足のことも…聞きました。叔父がここでのことで話した事柄のうちのひとつです」…嫌なことを話す人ですね。今更ほじくり返してもお役所はお手上げですよ。貴方は一体誰でしょうかねぇ。
「これを見れば」
あぁ、いいです。随分強引なお坊っちゃまですね。それで?ここは質屋です。先程から問うてますが…はて、私も歳を取りましたからなぁ、似顔絵は…これは水墨画…なのかな?
職業柄、金持ちの知り合いはたくさんおりましてどうも…向こうの通りの古書屋ではありませんか?
「髪紐、これは貴方が作ったと、」
…………あぁ。
そうですね、この手触り…随分古くはなっていますが、朱の切れ端でしょうか?…それしか…覚えが、ありませんなぁ…。
「え…」
…………あぁ、私盲でして。当時そう…木工細工を担当していた青年が、作業に髪が邪魔そうだったので、拵えてやったんです。
私のことを知らないとなると、貴殿は本当に流殿の甥っ子なんでしょうな。
さて、どうして今更現れたのですか。甥っ子などと名乗らなくても。
…あ、いくら質屋とは言え、お客様の情報を金のネタにはしませんよ、それこそ、今では。一体どうしたんですか。話しなら、茶程度で構いませんか?
「盲とは知らず、こんな日記など、大変失礼しました。
これは、叔父の遺した僅かな技術書で」
…そうですか。彼は、確かに…ふふ、来たときはそんなに、でしたが、去る頃には随分な人形を拵えてました……。
一掘り一掘り、ゆったり、慎重に、大切になさっていましたが、完成したのでしょうか?
「あ、私がやりますよ、茶くらいは」
大丈夫ですよ。使い勝手はよくわかっている。私のほうがまごつかないでしょうな、はっはっは。
何より、貴殿はまだ青年…そう、未来ある若者に怪我でもされたら、幾ばくもない爺はこの世に未練が残ります。ましてや…流殿の甥っ子さんとくれば、怨念になりましょう。そこで座っといてくださいな。ついでに…では、流殿のその後の話し
「亡くなりました。先日」
…………あぁ、茶っぱ、どこだったか……。
眼鏡を外しますが、驚かないでくださいね。あ、いや……こちらを向いていましょうか。やはり、歳には敵いませんな、まごついてしまう……。
「……人形は、燃やしてくれと頼まれましたが、その前に貴方のことを聞いたので、遺言もありましたし…聞いてから、お寺で燃やそうかと」
……なるほど…、わかりました。大方、ここにいた頃の彼の話でしょうかね。貴殿の叔父となった経緯は、ご存知でしょうか。
「いえ……」
声からするに、貴殿と、同じくらいの頃だったでしょうかね。15,6程か?それとも彼のように、20は越えていますか?彼は少し、幼い声だったので…。
「…今年で、元服です」
そうですか。その頃の彼は、真っ直ぐ…綺麗な美少年でしたよ。私も盲ではありませんでした。
可愛らしくてねぇ…ただ、貴殿ほど行動力はなく、少し…そう、陰を纏う若者でした。
嫁さんはきちんとした女性を…己が慕う方を娶る事を勧めます。まあ…言わずもがなでしょうかね?
その日記には、何が書いてあるのですか?彼に、一度聞いてみたかったのです…と、助平心ではありませんよ。
いまでもこの、盲の目に浮かぶようですなぁ…。彼が…この人形を愛しそうに掘っていた…あの、姿を。
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