散り花の段 五


 はっと、花の全身を見て流が「……誰がやったんですか……!?」と驚いた表情に、あぁ、気付いてしまったのかと…胸が苦しくなる。

「……ぅあの、カハッ、お客さん、が…」

 それを聞いて悲しそうな表情をした流は更にぎゅっと花を抱きしめ「痛いところはありますか、大丈夫ですか、」と矢継ぎ早で。

「わっ、私っ、もう………」
「……はい」
「お嫁に、行けな、」
「行かなくていいですよ…僕が…」

 言葉を飲み込み「…桶を用意しますね」と言い離れ、さっと襖を閉める。

「…流」
「……はい、確かに意味が…わかりました。
 サイホウさん、は、あの、怪我」
「わてはええ…痛いけど…せやけど花さんを、な?」
「………っ、」

 ぐっと歯を食い縛り下へ行く流の背を見て思う。
 今更だなんて、そんなもの…でも、これほど何も出来ないこんなところになんの意味があるのか。

 この皹はすぐに割れることになる。

 流が桶を取りに行こうと下まで行ったはいいが隠しきれなかったようで、次には真庭に引き摺られるようにまた戻ってきた。

 乱暴に襖を開けふっとその場に投げ捨てられた流と、真庭を見て怯えた花に「どういうことだ?」とあらぬ疑いを掛けたかと思えば。

「ち、違います、店主様、流さんではなく、」
「へぇ、こいつではないと。じゃあ誰なんだ?」

 少し蹴られた流は真庭を見上げ「……あの客ですよ店主」と、どんどん沼に漬かってゆく。
 ふっと笑った真庭は「あぁ、売り先がわかってよかった」と言い放った瞬間「待ってください!」と花の部屋に入る真庭の足を掴む流を蹴り花の側に行きふいっと布団を剥がした。

 着物も破かれた場所があるし…それが物語っていた。
 真庭は側にある薬袋を手に取り匂いを嗅ぎ「堕胎薬か」と言い凶悪な笑顔で「お前には手を焼いていたんだ花」と告げる。

「目障りな客と一緒に消えてくれ。嫁入り前にこれじゃぁ、売れもしない」
「へぇ…っ、」
「そうやって客を掴んでたんだろ?お前」
「違、」
「可哀想になぁ。流に知れてしまったなぁ?
 まあお前が居なくなれば食い扶持も減る…むしろこれでお前の借金は終わった、釣りが来る。堕胎薬なんてそういうことだろ?」
「違っ、本当に私は」
「やめてください店主!もう、」
「は?だったらてめぇらで出て行くか?はは、お前ら、そうだもんなぁ?」
「真庭はんそれは流石に」
「怪我人は黙ってろ。お前、何絆されてんだ?
 規律も守れない教育も守れない、家族を売るような耄碌は黙ってろよ。
 おい流。てめえは暫く部屋に来い」
「店主様すみません本当に違くて」
「だからなんだ?駆け落ち相手はよかったな、丁度、小屋通いの色狂いだ。合計金5を返せ、相手とな。お前のような口減らしの、生娘でもない小娘なんてどうせそろそろだった」

 がっと、花の口に無理矢理薬を飲ませ、咳き込む花を引き摺る姿に「待って…!待ってください店主!」と縋る流は、階段の音を聞きすぐ頭を垂れ、「ふっ、」と泣き、畳を拳で叩く。

「どうして……」

 まごつきながらやっと側に座ればやはり頭が痛い。体を支えるのが手一杯で掛ける言葉もなくただ一つ「…すまない、」としか言えなかった、それだけ言って気絶してしまった。

 起きれば当たり前に花はおらず、いつもより脱力しながらただ、人形を手にし切出刀を持った流はぼんやりとし、ふっと手首を切り「あぁ、痛い」と言った様を見て、権平は佐助に包帯を頼んだ、夜。

 ぼんやりとした景色の中に、血が付いた人形…もどきが見えた気がした。

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