散り花の段 四
「……弟さんの話を出してもうてな」
「はい!?ちょ……貴方死にたいんですか、あそこの兄弟は互いに禁句ですよ…」
「仲違いならまだいいんですけどね…」と医者が話す空気感。確かに、1度だけ見たその「弟」と真庭は…他者から見た雰囲気では、複雑そうだった。
「……人は人と、割り切るべきなんやろうね。すっかり、この地に慣れてしまったんかもしれまへんなぁ…」
「……貴方はもう少し距離のある人だと思ってましたよ、私も。
少ししたら佐助さんが来るんですかね?いつもの薬も用意して…それまで寝てらっしゃってください」
目を閉じる。
だが佐助の用もそれほど多くはないらしい。すぐに「またすんませんな、任せてしまって」とやってきた。
「あぁいいえ。しかし最近荒れてますね…朝っぱらから驚きましたよ」
「すんません…」
「どうせならまぁ…あの人が許すなら。この人、足も目も…定期的に通って頂いた方が…」
「ゴンさん、そんなに」
「目は徐々に悪くなるかと…ただ、」
「………そうですね、店主には黙っておいてください…あ、あと急なんですが…ドクダミ等はありますか…?」
恐る恐る聞く佐助に「え?」と医者と被ってしまった。
「……一応ドクダミもスイセンもユリも……」
試すように聞く医者に「はい、すんません、よろしくお願いします…」と自ら財布を出す佐助に「どういう……」と聞いてしまった。
嫌な予感がする。
すぅ、と息を吸った佐助は「うん、」と悲しそうな表情。
「ゴンさんには道中話す……。
痛み止めも少し多めに…これも店主には黙っていてください」
「それって、佐助はん、」
「とにかく急いで帰るよゴンさん、花ちゃんが大変なんだ、暫く見ていてあげて欲しいけど…。
あ、お医者さん、堕胎薬は一応、てやつなんで…」
……どう、いう…。
頭が真っ白になる。
気まずそうに「さっき、裏口で…」と言う佐助に「早く行こう、」と立ち上がる。
クラっとした。
「ゴンさん、危ねぇから!
……んの、クソ野郎が、」
「誰が」
「あいつ、面倒臭ぇことにもう1人…役者か金持ちかわかんねぇけどっ、」
「今花さんはどないし」
「わかんねぇから早く帰りてぇんだよ、その場で手ぇ出したら絶対に真庭に気付かれるしって、そのままに」
「あぁ落ち着いて落ち着いて!わかりましたはいこれ!」
医者から薬を受け取り佐助に支えられ、店に戻る。
「取り敢えずおいらもあんたも…流も平然としてないと…」
「どないして、そうなった」
「今日は店、閉めてんだ…あんたが倒れてたもんで片付けやらなんやらと。
花ちゃんは連日のことがあるし、数日、心身が疲れてるだとか言えばなんとか…ただ、」
「流が知ったらあの男に…」
「ゴンさん丁度っちゃ悪いが、怪我したし、暫く3人は店出なくていい、おいらが上手く回すよ、ただそっちは」
「……わかった、」
だが。
裏長屋に戻ると花の部屋の前で流が「あ、」とこちらを見る。茶か何かを用意してやっていたようだ。
「……これも、一緒に」
「佐助さん、何か知ってるんですか?花さん、急に外から戻っ」
しっと佐助は言い「こういうときは何事もなかったように振舞ってやって」と言う。
「……何事もって、サイホウさんだって花さんだってボロボロで、」
「それはお前も一緒だよ流、」
クイッと両袖を掴み、まるで懇願するかのように言う佐助はやはり「頼む、真庭に知られたらもっと酷くなる、」と言う。
「…どう、」
「…今は花ちゃんが一番辛いから…流、行ってやってくれ」
「……」
返す間もなくさっと薬を握らせ表に行く佐助に「サイホウさん、」と、求めるように見上げてくるその表情から…つい顔を背けそうになるが「気付かれたら、花さんはあの小屋に売られてしまうよ、流」と、向き合い言うしかない。
「……え?」
「………連日のしつこい客だそうだ…」
「なんで?だって今日は」
「裏口で佐助が見たと…」
黙り込む流はなんとも、心が追いついていないような表情で。
しかしぐっと、何かを飲み込んだように「…わかりました…」と薬を持ち、「花さん、失礼しますね」と扉を開ける。
花は、布団を被り全く出てこない。
「…花さん、薬をお持ちしました…。顔色が悪いですね…」
「………流さん、私っ!」
ぐっと布団から出て流に抱きついた花の声は震え…顔も腫れている。乱れた髪は誰かに鷲掴みにされた…手荒なことをされたのだと誰が見てもわかった。
「……誰かに殴られたのですか?」
「うぅぅ、違っ、」
「花さん…」
すっと背を擦り「…怖くないですよ…落ち着いてね…」と宥める優しい声にしゃくり上げる花。
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