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「…出方によっては早く掴まないと…なんでもいい、大きいもんがないと、また」
「海江田」
坂下は真面目に「焦りは良くない」と、当たり前に制してくる。
「証拠作る為に犯罪犯すなんて素人以下だぞ」
「…その辺は抜かりなく」
「気持ちはわかる。しかし、今回は今回だ」
…青木家でのあの、談合が頭を掠めた。
多分、そんなものは序の口で、それぞれが捉えているほど浅くはない。サーフェイス、ディープ、ダークよりも更に奥深い。
「…わかってますって」
「いや、お前どうも捨て身だよ、今。まぁ、それくらいでないと掴めないのも実情なのが悲しいところだが…」
案の定、坂下は青木紀子から拝借した謎のダイエット食品を眺める。
「…それはママ友会のお菓子です」
「は?」
「透花ちゃん曰く『そろそろ3ヶ月無料キャンペーンを始めるから』だそうで」
「ギリギリ詐欺じゃん、最近流行りの典型的な」
「詐欺っすね。最近販売表記に注意喚起が出されたんで。
これ、透花は俺がドリンクの方を貰ったのは知ってるんで。そっちは多分ご破算でしょうな」
「…なるほど?その結果を見たいんだな?」
「それ次第で確定に近付きますよね」
「…わかった、じゃー今日は任せる」
「はーい」
一通り話し終え少し考えをまとめよう…と思い始めてすぐ、ノックがされた。
パッとまずは“例のブツ”をしまい、平然を装いドアを開ける。
ふたりの顔を見て、そうか、ジイさんはどうやら孫に秘密を打ち明けたらしいなとわかった。
…なんとなく、透花の顔を見ることが出来なかった。
坂下に「グロ注意」と言ったが、この子はこんな、大人たちより遥かに過酷な過去を背負っている。
…夜勤ねぇ。
ポイッと、安慈は坂下へ「潜らなければ何も中身はないです」と、有料サイトのアカウントを送っておいた。
まさしく“身を削った”彼の生活をこちらは潰しに掛かるわけだ。
“仕事の連絡はこれかもしれません。サイトを覗けばなんとなくわかります。
こちらも動きがあれば張ります。”
警察署に着くまでの間、どこかで見るだろうとのんびり構えたが、ふとした瞬間にどうやら内容を見たらしい。
坂下は目を合わせハンドサインをしてきた。
自分の態度がふと出てしまっていたのか情報収集の効率化なのかは不明だが、自分は唯三郎を送ることになった。
…効率を考えれば…いや、正直そんなに頭が回っていない。
だからかもしれない。唯三郎から何かを聞き出す…ではなく、坂下は言葉通り「焦るな」と、楽な仕事を振ったのかと察する。
こうも頭が回らない時はどうやら、脳は感情論に走るらしい。ふたりが部屋をノックした時の表情が浮かぶ。明らかにふたりとも泣いた後だった。
どうにも、いたたまれない。
唯三郎は何も知らないかもしれないと思っていた。本当にそうかもしれないが…。
車椅子をトランクに乗せ「そんじゃ帰ろっか」と言いつつ考える。
何も知らないのは、今は亡き息子、透花の養父のことばかりを追いかけているからかもしれないが、坂下が言う通り忠恭のことを打ち明け…ふたりで折り合いを付けられたのなら、幸いなのかもしれない…が。
「…喧嘩でもした?」
はたから見ればそれは、歪んでいる。
「…あぁ、すまんな、兄ちゃん…」
「昨日の今日だし、まぁ気は休まらないよね。ジイちゃん、寝てないって聞いたけど」
「いやぁ…少しは眠れたよ。
兄ちゃんはどうだい?引越し早々…」
「ん?
まぁ、動揺というか驚きは」
「そんなはずないだろ」
ピタッと、空気が止まった。
…なんとなくだけど…。
「…タバコいい?」
「いいよ」
少し話題を考えようとしても、片方は業務連絡、片方は案件についてぐるぐる、どこかで頭を回している。
そして、それに対して何を思っているか…とまで。どれも全て、話すにしては慎重にならねばならない。
「あんた、肝が据わってるもん」
「そう?わりと普通な気がするけどなぁ」
「今の若いのは…なんて言えないなぁ。若いから頭が良いんだな、地頭がさ」
「いやいや、本当に常識的なもんだと」
「兄ちゃん、警察の人だろ?」
…マジか。
「…まー、頭あんま回ってないし、そう直球で来てもらった方が答えやすいかな。警察の人ではない」
「…行政の人、か」
「ぶっちゃけそうだね」
…随分鋭い人だな。
そうなると印象が変わってくる。一体全体どうしてこうもこの家族はバラバラなのか。
「…透花を見て、あんたはどう感じた?」
「それって、昨日越してきたばかりの隣人に聞くことじゃないよね」
「まぁ、そうか…」
「……昨日越してきた隣人の感想から言うと、若いのに随分苦労してる子なんだなって」
「…そういえば兄ちゃんは、いくつなんだ?」
「俺?32」
「わぁ、そろそろ仕事も軌道に乗る頃か…」
「…何が言いたい?」
ペルソナもあまり作れなくなってきたな。つい、こちらも鋭くなってしまったなと、言ってすぐに思い直したが「特に何もないよ」と普通に、第一印象のまま、穏やかに返される。
「……やっぱり、さっき坂下さんの部屋に入って行ったのでバレた感じ?」
「それもあるなぁ」
「…詰めが甘かったっす。流石年の功だね…」
「あとあんた、たまに警察臭がするんだよ。目が笑ってなかったり」
「いやいや、あの状況で心の底からなんて笑えないっしょ!」
互いに素で行こうと考えれば伝わったらしい。
唯三郎は「はっはっは!確かに」と…透花と接する時より遥かに、何かを取っ払ったような…遠慮も隠蔽もない素直な笑い方をしている。
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