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「ジイちゃん、俺だ、隣の」
「だからやっと寝たんだって!」と紀子がドアを閉めようとするのを福山風味が阻止し「器物破損より奥で縛られてる老人の方がヤバくねぇか、奥さん」と言う。
「何言っ、」
福山風味は紀子の手首をガっと掴んでそのまま顔をドアに押し付け「早く行け」と言ってきた。
それに従い「ジイちゃん、」と、広間に行けばなるほど、福山風味の位置からこれが見えたわけだ…。
唯三郎は「あぅ、ふぅっ、」と、声を出す。口と手首がタオルで縛られていた。
……多分首も締められたな、足元は暴れた様子があるし、失禁もしている。
タオルを解き、「大丈夫!?息出来る!?」と聞けばはーはーと、透花より上手い。
「すま、ない、水を…」
確かにそうだ、脂汗も酷い。
「わかった」
自分を眺め「ありゃ…」と唯三郎は言うが「大丈夫、ちょっと着替えくらい持って行こうな」と声を掛け、安慈はリビングの食器棚から適当にコップを取り出し水を汲む。
「ちょ、ちょっと!」
「殺人未遂の現行犯でも行けますが」
「……そんなの、出来るもんなら」
やり合ってる…俺達には出来ねぇんだけど…。
「やってやろうか?正攻法じゃねぇが」
…低い声って響くなぁ。
紀子の金切り声の中で聞き取り理解出来た言葉は「あんた、どこのもんよ!?」と、今時ヤンキーでも言わなそうな言葉で…世間知らずとはこの事か…。
コップを持っていてやると、唯三郎が急に泣き出し、「そのコップ、」と語る。
「透花のお気に入りなんだ、」
……綺麗な、星空のコップ…。
「水、入れると、綺麗だって、」
「……そうだね」
「透花は、」
「日赤だよ」
玄関で「このアマうるせえな、口塞いでいーか?」「ダメです」というやり取りが聞こえてくる。
あちらの事情は構わない。ゆっくり水を飲ませ「今から透花を迎えに行く、」と唯三郎が意気込んだタイミングで「おい若造、ガキとジイさんの貴重品と金品持ってこい、タンス預金とか!この女が飛ばねぇように!」と福山風味から指示された。
……これご近所に絶対聞こえるよなぁ…。
「…ありゃ誰だ、一体……」
「…先輩のツテ、一応クリーンらしいよ…」
「…………確かに、兄ちゃんと警察なら、そ」
「あの警察も実は俺と同じくマトリなんだわ…」
「……へ!?」
「しー。
ジイちゃん着替えと…通帳とか。貴重品どこにあんの?
大丈夫、俺らは正規ルートでマジで来てるから…説得力ないかもだけど…」
「……俺と透花は……」
「その相談もさせて。でも多分、透花ちゃんは1週間…まだわかんないけど。それくらいは入院だと思う」
「……何が、」
「行きながら話すよ」
「柏村隆太郎」
…やけに、低音の声が響く。
「お前の男、流行りもんしか興味ねぇぞ?裁判だの助成金だの生保だのな。よーく知ってるはずだ。お前だけ助けてもらえると思うな?」
……なるほど。
聞こえてきた会話に状況が整理されてゆく。そういうことか。
聞こえたからかはわからないが、唯三郎は漸く「透花の…押し入れの…端だ、布団の足元。預金は」と明かした。
「わかった」
「通帳は仏壇の…遺影の後ろにある、と言っても残高はない。
透花が作ってくれた俺との共同のやつは二段目のタンスの一番奥。服に隠れてる、印鑑と一緒に。他は仏壇の引き出しだ」
「…ありがとな、ジイちゃん」
言われた通りに漁っていき、ついでに何かのバッグを見つけたので、それに詰め込んでゆく。
唯三郎に服を渡してやり、その他着替えは別の鞄に突っ込んだ。
「い、位牌も入れてくれ、」
「…わかった」
唯三郎はその間着替えて無理にでも立とうとしたので「ジイちゃん、落ち着いて」と言っておく。
…ずっと、星空のコップを持っている。
雑にはなったがそれも衣類のカバンに入れ、「先輩、今行きますんで!」と声を掛けた。
玄関をひょこっと見ると、紀子は若干諦めた様子だったが、それを聞き「この強盗野郎!」と喚く。
「紀子さん、俺が許可し」
「うっせーなジジイ!あんたが早く死なねーから悪ぃんだろが!」
そんな一言にスっと冴え「……ジイちゃん、行こう」と声を掛け肩を貸す。
もはや平然と「風呂入りたかったよな…すまん」だのと、日常会話しか出て来ない。
「…兄ちゃん、ここは関わらない方がいいよ、」
「もう、あんたらと会う前から関わってんの。
あと、それだけは無理、聞けない。あんたと……透花ちゃんも、死なせなくてよかった。例えヤクザを頼ったとしても」
唯三郎を背負った最中、紀子は最後の足掻きか、唯三郎の方へ唾を吐いた。
…このアマと意気込む前に、福山風味がふっと紀子を離し「SIM抜いてあるよな」と言いながら目の前でバキッと、社用ケータイを逆パカし「はい、器物破損成立」と、最後は紀子を蹴飛ばしてドアを閉めた。
「…あーゆーのいんだよなぁ、調子込みDQN女。大抵ボスママやる」
福山風味はふらっと唯三郎にハンカチを渡し「人攫いとか久々だなぁ」と言った。
「…えっと、」
「あー、これ平良に返しといて」
ポイッと坂下に手帳を渡す。
よく見れば、ご丁寧に白手までしていた。
「ひっさびさに連絡あったと思ったら。お前らって全員アウトサイダーなん?」
「いやまぁ…グレーゾーンで生きてますが…」
ケータイもポイッと返され「どーせ逮捕権ないだろーし、向かいの車のヤツと一緒に被害届出しとけー」と、のんびり言われる。
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