無色透明色彩


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「らじゃーっす」
「あ、ついでなんで大至急退院書類とか取り寄せて紀子の指紋も」
「わーった!早よ行け!」
「そして警察庁へお伝えください。
 下に投げたところで、いずれ出ますよ、と」

 組対に連れられるように捜一も会議室から出て行った。

 安慈と坂下が武装許可書と準備をしている最中、「気を付けろよ、」と、久々にキリッとしていた所長に言われる。

「そっちは今からだから」

 受話器を取る所長に「よろしくお願いします」と頼み、2人で庁舎を出る。

「…“鴻池こうのいけ”先輩が未だ花咲を掴んでいるとすればこれは…博打ですね、0か100…50か…」
「読んでただろ?」

 真っ直ぐ言われれば、少し息詰まる、ような…。
 車を発進させながら、読みにくい表情の坂下が「海江田、」と念を押すような声色。

「…あの二人、どうするんだ」

 そう言われても。

「…出来ることから早くやらないと。随分泳がせましたし」
「……珍しく肩入れしてるかと思えば…」

 今更だ。ハイエナは最後、死肉を食うのが常だ。

「これが仕事なので」
「…こちらに知らせないということは、知らない方が良いと判断したんだと思うぞ、平良は」

 …そうなんだろうな。

 平良は安慈とも坂下とも違う、番犬の異名を持つ男だ。
 その分、天秤はいつだって水平。だからこそ江崎は、一見捨て身なようでいて保険を掛けておいたのだろう。

 少し、わかるような気がする。

「…まぁ、だからですよ。死体を拾うのは柄じゃない。
 ちょっと嫌味な人だけど、前より着実です…ムカつくくらい。
 …江崎のも、実は読めてなかったです」
「頼んだくせに?」
「はい…」

 坂下はふっと笑い「随分人間らしくなったよ」と言った。
 …天秤はいつだって水平でなければならない。同僚の気遣いがあるからこそ何故か、今回はこうして心に氷水をぶっ掛けられた気分になる。

「…業務は、俺の心に関係がありませんよ」
「だから言ったんだよ。
 仕事も麻薬のひとつだと思う。ハマったら抜け出せなくなる」

 何それぇ…。

「…急に良い事言われるとビビるんですが」
「えぇ?俺別にいつもと変わらないよ?いつも良い事言うじゃん」
「……ま、まあそういうことに…先輩ですしね…」
「なんだぁ?生意気だな」

 はっは、と一度笑ったが「……持ってかれないようにしなきゃな」と、一瞬でキリッとした。

「お前じゃなきゃ、あの子は死ぬ」
「…はい」

 さてさて…。

「…まとめますね。
 山ノ井は恐らく組対が持って行ったか行くか、というところと…」
「齋藤と青木自宅は一課が持って行く、組対と一課ということは親元を押さえればいいわけだが…」
「それはこちら…平良さんが江崎を使ってどうにかなる」
「だな」
「人命救助が俺たちの仕事ですかね。随分シンプルになったし、恐らくこれで管轄の…多発した団地崩壊は、一時的でも快方に向かう」
「絶対に透花とジイさんは生かすし俺らも生きて帰るぞ」
「……そういや諜報課からの花村病院の情報は…」

 ふと書類に手を伸ばすが「資料なんてないよ」と言われた。

「俺の頭で纏まってんのは“総合病院”ってだけで、前回の被害者は精神病棟に一発隔離で面会謝絶。そして自殺者が出た」
「…総合じゃ、外科もあります…よね?」
「書いてはあるが実存するかはわからん。看板くらいはあるけど」
「思ったより小さい病院、とどっかで頭に入れました」
「そうそう」
「…モグリですよね…俺も少し調べましたがよくわからなかったし、」
「そりゃそうっしょ」

 よし、纏まった。

「……実は、お前に黙ってたことがある」
「なんですか?」
「前回の被害者の話だ。すぐに伝えなかっただろ?」
「そこはなんとなくわかるんで、今はいいです。前回の被害者、自殺かは不明ですが、死亡者は他でもいましたし」

 坂下なりに気を遣ったのだろう。何度か面会していたということは、随分前から“自殺者”については前から知っていたのだ。
 ……そんなに引き摺っていたように見えていたのか。まぁ、正直隠してはいなかったが…。

 前回のは、本当に酷かった。ただのシャブだけならまだいい、薬向法(薬物及び向精神薬取締法)施行規則に規定されるバルビツール酸も僅かに検出された。
 事件かどうかの判断に時間が掛かったのは、被害者が皆精神疾患を患ってる…それが元からかどうか調べるのに手間取った。
 大抵はそうでなかったと調べが付き今に至る訳だが…。脳神経系の患者がいた…こうなるとただの“殺人兵器”だ。

「でも、過去はどうしても、変わりませんから」
「……じゃ、先を見て…キンキンの話しな?
 平良がなんか……『ここもしょっぴきたいくらいだよっ!』とかいう謎の愚痴を漏らしてさぁ…。
 なんか平良さ、数日前に江崎さん?が紹介してくれてる病院に行ってきたんだってよ」
「……え、そっちもモグリ?」
「いや…認可通ってるちゃんとした大学病院でさ…。脳神経外科内科精神科中心ぽかったから…なんか、御用達のヤク中集めてる系なんかなー…って雰囲気は漂ってた」

 “ツレ”を思い浮かべてすぐ、「俺もツレも」とか言っていたような…。

「…なるほど…」
「お抱え…にしてはデカイ場所だった。から、あの俳優風味は嘘は言ってないと思う。闇医者って規模じゃなかったというか…大学病院だしな…」

 逆にクリーンか、それなら。

「……あの人やっぱり、福山風味ですよね、反社役やってますって言われたとしても疑……圧があるから、風味」
「わかる〜、あんなに息が合うとかマジだよね。流石幹部クラス…でもなーんか、ただ職業がそれ、ってだけの一般人臭さがあって…モグり?」
「…ふはっ、」

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