無色透明色彩


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 笑ってしまった、つい。

「企業探偵よりは完璧にソッチ」
「だよな。余裕あるのはなんとなくわかるがギラギラし過ぎてない…珍しいタイプ。なんというか興味すらなさそう」

 …多分概ねそれ。

「…それならそれでソッチ、向いてなさそうですよねって俺言っちゃいましたよ。俺も言われましたが」
「お前もフリーランス感すげぇもんな」
「……勝手してすんません」
「ん」

 カチカチカチとウィンカーの音がする。
 すぐ側まで来たな、と一気に空気が変わった。

 窓を少し開け、タバコを吸う。

 …3回見つけたら、幸せになる。
 隣人、救急搬送、モグリの病院。
 短期間で随分、色々あった気がする。しかし今後を考えると…詐欺加担は付きそうだが、この辺は本人次第でチャラかもしれない。

 一歩間違ったとしても、判断能力が乏しい…のは、柏村にされていたことで立件可だ。
 ……自分の尊厳を日本に来る前から奪われてしまっていた。まずはカウンセリングの強化から始めるべきだが、そうなった時に漸く…彼の、義家族への意識で事態も変わる。鍵は、そこにあるのだ。

「……幸せだったら、何よりですよね」
「………どうなんかな」

 確かに人生自体はそんなに上手くは行かない、のが現状だ。

 インターネットのマップで見た通り、鉄筋コンクリートの4階くらい、“花村病院”の看板自体は目立つ。
 見覚えのある国産車が一台と、それよりランク下の国産車一台が目に付いた。

「…江崎さんの車だよね?あれ…あと…平良のか?」
「ですね」

 既に何かは起こっているだろう。変な緊張、静けさがある。

 病院の入口に貼り付けられた鉄板には確かに「外科・内科」の字は、ある。
 …ラブホテル跡かもしれない。そう思うくらいには廃墟感があった。

「…降りたらぐるっと1周するか…正面突破したのかな……」
「……柏村の到着の方が確かに早いはずですよね。裏口に居てもおかしくはない…」

 ふぅ、と一息吐いてスマホの通知ランプに気付く。
 見れば…知らないアカウント、捨てアカなのはわかった。個人SNSに「電話が合図。正面から」とあった。

 出ようとした坂下に「…平良さんから通知ありです」と伝える。

「…なんと?」
「電話が合図だそうで…」

 しかしそれを待たずに「着いたか」と来る。

 …電話が合図って、もしかしてこっちから?

 試しに掛れば『あー、もしもし、悪いけどいま病院だから。掛け直す』と、確かに平良が出た…その空間からの静けさ…の中にも後ろで「診察室へ……」と、普通業務の音が聞こえる。

「……マジか」
「ん?」
「ここ、いま普通にやってんすけど……」
「……え?嘘ぉ、こんなにスッカスカなのに?」
「…現場、地下、とか?随分静かでしたが…」
「…面倒臭ぇってか、ヤバいな作戦練り直し…」

 メールが来た。
 間取り図と追加情報、「裏口には行くな」。

 ふっと坂下が「消化器科か」と看板を眺め呟き、「正面行くわ」とドアを開けた。

「え、」
「総合窓口から入るわ。お前は平良の指示を待」

 鳴った。

「…はい、もしもし」

 坂下に間取り図を送りながら『あ、どうもすみません青木さん、海江田です』とやり取りをする。坂下が車を出た事も平良にメールしながら。

「どうもです。どうしましたか?」
『あのー、いま向かってますよね?
 精神内科で透花さんの転院の紹介状を出したのですが、私親族ではないので…ちょっと、お見舞いで通して貰えなくて、地下1階の窓口なんですが。ご親族の確認をと』
『親戚はいないと聞いていますが』

 …男の声だ。

『あ、』

 ガサッと、1度ノイズが入り『ご親戚はいらっしゃらないんですか?』と、平良の声が少し小さく……多分、ケータイを下げたのだろう。

 やはり地下か。
 安慈も車を出、「いえ、先日からこちらのホテルで宿泊していますよ、」と、そのまま会話を続ける。

「…秋田からなんで、昨日漸く着きましたけども」
『あ、そうですよね?』

 声が近くなった。

「はい。久しぶりの連絡で驚きました、色々お任せしてしまい申し訳ありません。そちらの手続きまでして頂いたなんて大変恐縮です」

 地下なのに連絡が取れる……電波はあるらしいと、そのまま窓口を抜けようとすれば、丁度受付を終えた坂下と目が合う。

「看護師の方に変わった方がよろしいでしょうか?私も何がなんだかで…」

 ピタッと息を合わせ、エレベーター前で足並みが揃った。

 坂下は診察番号とクリアファイルを見るふりをしながら横目でこちらを眺めた。第二外科 43。

 あたりを見渡せば職員用のエレベーターもある。

『いえ、大丈夫です』
『では、許可は』あたりでエレベーターが着く。

 出てくる人を待ってから先に入り「開」ボタンとF1を押し先に入ると、電話が切れた。

 エレベーターには電波がないのか。

 一応、なのかファイルをチラッと見えるようにしてくる。第二外科は2階らしい。

「ありゃ音声録音出来ないカメラだな」

 坂下はエレベーターの監視カメラを目視で確認する。

「そうですか…。
 てゆうかこれ下行きですが?」
「誰も見てないから大丈夫そうですが、おかしいなぁ、電波食い虫でもいる?
 しかもここ、不動産用間取りでは地下、ないんですけどねぇ?」
「精神内科窓口が地下1ってことは、2までありそうですねぇ?あ、私は青木ともーしまーす。海江田って人と待ち合わせでーす」
「どーもどーも、私は田口でーす」

 重い扉が開いた。
 空いてすぐ「ですから、ここにはおりませんって」と揉める声が聞こえる。

 …看護師に見覚え、あり。青木家にいたなあ、拳銃を向けられた記憶がある。

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