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間に撃ち込んだつもりだったが、手の平に誤射したらしい、「いでぇぇぇっ!」とのたうち出てきた柏村をぱっと取り押さえ、検査キットを口に突っ込む。
逃げようと身体をズリズリ出来る体力はあるらしい。
体重を掛け検査キットを顔の前で振ってやる。その隙に念の為ポケットを確認すれば…空の注射器が出てきた。
「MET…」
手錠を掛けた。
「何をした、透花にも……ジイさんにもっ!」
走るような音が入口まで聞こえ振り向く。
坂下を視界に捉え……仕事に心は関係がない、だから必要なんだと、高揚、興奮を抑え冷静に「………19:24…麻薬取締法違反容疑で現行犯逮捕する、」規定に添う。
泣きじゃくるのか嗚咽かわからない柏村の髪を引っ張り顔を見れば殴られているようで、顔がぐしゃぐしゃだ。脳震盪とかもあるかもしれないな。
さっと、坂下が側で転がっていた偽看護師に手錠を掛けながら「ふたりともヤバい」と言ってきた。
「江崎さんが…ジイさんは部下に運ばせたらしい、泡吹いてたと、」
「…はっ、」
はー、と息を吐いた坂下はケータイを出し「所長、現場です」と報告する。
「現在、首謀者候補の柏村と部下ひとりを逮捕しました。
…拘束されている青木紀子…多分、打たれたと思われますね…生きてはいますが意思の疎通は難しそうです。
もう一人、関与したと思われる看護師らしき男の身柄を現場にて確保…っと、覚醒剤と…モルヒネ…まぁ、じゃあ現犯ってことで。あと…」
坂下がふと見てくるので「柏村のポケットから」と注射器を渡した。
「諸々ありますので鑑識を大至急お願いします。
ですがそんなことより取り急ぎ、丸被の青木唯三郎氏が大量に薬物を投与されたのか泡を吹いたそうで、現在協力者により別の病院に搬送中です。
青木透花も保護致しましたが、…点滴からベンゾジアゼピン…問題は更にメタンフェタミンとバルビツール酸の反応があり…。錯乱や昏睡状態に近く、一人付け、透花もそちらへ搬送致します。
星の引き渡しは私ともう一人で行います。
という訳ですぐ、一緒に行ってくれ…」
坂下はケータイをしまい「江崎さんも一緒に」と言った。
「所長は手筈通りに行動中、もうすぐ到着だそうだ。
こっちはやっとく、そっちは…しっかり頼んだ」
「…はい、」
柏村から降り、再び江崎と透花の元へ向かう。
江崎はこちらを見る余裕もなさそうに透花の両肩を掴み「しっかりしろ!戻ってこい!」と…ずっと声を掛けてくれていたらしい。
「…江崎さん」
…透花の意識レベルは確かに低そうだが思ったより…。
目に光はないが、泡を吹くほどではないらしい、それを確認し振り向いた江崎に「行きましょう」と伝えた。
「……裏に、ウチのドライバーがいる」
肩を押さえ立ち上がった江崎へ「無理に」とは言ったが「大丈夫だ、お前の相棒がやってくれたんで」と透花を見たので、しゃがみ、透花の方へ手を差し伸べた。
だらんとはしているが、まるで反射だ。手を伸ばしてくれたのでぐっと引き、おぶる。
江崎と顔を見合わせ「弾は…?」と聞きながら歩く。
「…あのヘッタクソ、抜けてなくてな…」
「急ぎましょう。病院にアポ」
「は………、ドライバーがすでに…取ってる」
「ゆっくりでいいですからね、」
「いやそれどっちだよ……っ、ツッコませんな痛ぇんだから…」
「あ、すみません……」
「んなことよりそいつだよ…、」
「…少しは聞きました…あと、ラミネート身分証も平良さんから…」
「…そっか、よかった……まぁ、」
「そうですね………はい、」
「ダメだなお前……んな顔してんなよ、」
……だろうな。
顔に出てるだろうとは思っていたが、「よくやったよ……」と、気も抜けたのだろう一言にふっと…堪えているものが溢れそうになるけど。
「……っ、」
…やっぱ、何も言えないな。口を開いたら出てしまいそうだ。
裏口を出ると運転席から…普通の会社員みたいな見た目のヤクザと、助手席にはあのツレがいて、どちらもかなり驚いている。
「っあ〜…わり、言うの忘れてた今日はツレの受診日だったもんでついでに平良を」
「江崎さん、喋んない方が良いっすよ、」
どこに乗れば…と、一応助手席を開けたが「わり、タマ」と、江崎がすすっと乗ってしまったので仕方なく……ツレが張り付くようにいる後部座席へ行けば一応席を開けてくれたが「ねぇ大丈夫!?」と、更に透花を見て「ねぇ!大丈夫なの!?」とパニック。
「……すんません、大丈夫じゃなくて…」
透花を降ろせば抱きつくように支えてくれたツレは安慈を見る……随分綺麗な目だからか、ただそれだけで責められた気になってくるけど…。
「…お疲れ様です、」
そうは言ってくれた。
安慈も車に乗りドアを閉めるついで、ドライバーがあからさまに溜め息を吐く。
「…責めんなタマ」
「…いえ。ただ…」
すぅ、と一息吐いたかと思えば「だから始めから私はあのマトリはどうかと思っていたんですよ会長はすぐホイホイとアレに乗りますがなんなんでしょうか今回この件でまさかの、事務所完全不在ですよそれなら良い加減に組を作れやら人を増やせやらどうたらこうたらと言われるでしょうし流石に今回はバレます私は決めました今回ばかりはご自身で総会に出向いてください」と息継ぎもせず淡々と言うドライバーに「待った!」と江崎は制した。
「…タマさんそんなに喋るんだ…」
「悪ぃって、ごめんって!ちとシクったんだよ、あ、相手は素人だし」
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