無色透明色彩


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 “起きろ、Wake Up!”

 その一言で一日が始まるらしい。
 始めは、怒声で起きる、程度の認識だった。

“おはようございます、Good morning Ulysses.”
“昨日は良く眠れたかい、Did you sleep well last night?”
「こんにち、わ、ミスター・エフレム」

 間が出来る。
 この反応は大体、間違った返答をした時だ。
 エフレムの顔がみるみると茹でダコのようになり
“Je ne comprends pas la langue? Vous ne comprenez pas la langue?”と語尾上がりになる。
 恐らく母国語になった…のだろうから、共通英語で答えるのが正解だが、何を言われたかわからないから、答え方もわからない…。

「ソーリー…ごめん」
“I asked him if he didn't speak English!”
「ごめん、なさい」
“You、are、 supid,You are Connasse,You are bitche!! Fuck you!!!”

 その場にあった何か…不衛生な物が入った食器…器を投げられる。

“お前はお仕置だ、You're an idiot, Je vais te punir maintenant !”

 僕はお仕置をされながら、“おはようis グッドモーニング、グッモーニンis おはよう”、“申し訳ございませんでしたis アイプロミシッウォンッハッペナゲンI promise it won't happen again. is con comme moi, je ne ferai plus jamais d'erreur, is 申し訳ございません!!”と怒鳴られ、頭を床にぶつけられる。

 私のような雌犬はもう過ちを犯しません。大変申し訳ございません。

 吐くまで言って、吐いても言って、喉も痛くて。

 でも、同じような境遇の子を助けることは出来ない、許されない。

「ねぇねぇロスキー」

 そろそろ着くと言われた頃に初めて、同じ船に乗るインディアンの女の子にキラキラとした目で話し掛けられた。

「貴方、綺麗な青い目をしている」

 それが新鮮で、素直に嬉しかったのに。
 彼女は陸へ上がれなかった。


「アッハハハハハ!」

 甲高い笑い声で目が覚める。
 …頭痛が、酷い。けど…。

「ねぇねぇこれ、本当に美味しい!」

 ……忘れていた!
 昨日、出勤前の母に言われたママ友の“お茶会”だ。

 慌てて起きて目眩…ステレオグラムの景色からジワジワと日常を映し出すのを待つ僅か数秒。
 ベッドから起き出、茶の間に「…おはようございます…」と挨拶をした。

「あらとうか。おはよう」

 ママ友…見たことある、最近よく来る2人と御新規3人と…。
 あれ。

「よ、お邪魔してます」

 隣人、海江田がそこに混じっていた。

「え、あ、は、え?
 すみませんおはようございます」

 …昨日手作りするはずだった“お菓子”はとっくに並んでいて…最近仕入れたのか、見慣れない黄色の飲み物まで配られている。

「とうかも来なさいな。顔洗って歯を磨いてね」

 母の声はいつもより穏やかで僅かに高い。機嫌と…偶像とが入り交じっているような。

 と、いうか。

 「あ、うん、お見苦しいところをすみません!」と謝りつつ、頭はギリギリと音を立て廻りだす大変だおじいちゃんをファミレスかどこかに連れ出さな……。

 自分は、どうしてここで寝ていたんだ?あれ、おじいちゃんのベッドで…。

「…母さん、おじい」
「とうかちゃん、ハロー?」
「あっ!」

 立ち上がる海江田に声を掛けられたが、当の本人はママ友から「海江田くーん!」と絡まれている。
 大して気にもせずテキトーに挨拶をした海江田はこちらに来て「ジイさんはビジホだよ」と耳打ちをしてきた。

「…え、」

 …ギリギリと、巡る…。

 「大変、迎えに行かなきゃ!」と、歯だのなんだの言っている場合じゃないが「まーまー落ち着け」と、クルッと体の向きを変えられ洗面台に入る。

「あれ、ジイさんにはうるせーだろ」
「え、えっと、あの」
「まぁまぁ、ママに言われた通り歯ぁ磨いて顔洗って。したら一緒に行くから」
「……」

 確かに。
 少し急いで朝の用意をし、マルチタスクで着替えるとうかの様に「とうかちゃん器用だなおい」と、脱いだ服を洗濯機に入れてくれる様。

「あっ、あっ!」
「まぁいいって」
「海江田くぅ〜ん!」

 黄色い…とてもとてもハイな奥様の声が響く。

 海江田は仕方なさそうに洗面所からリビングを覗き「はいはい静かにね〜」と窘めてくれた。

 準備をさっさと終わらせ、聞こえないかもしれないが一応リビングに「おじいちゃんとこ行ってくるね!」と声を掛け、玄関に向かう。

 「とうかちゃんは流石に若いけど海江田さんなら私大丈夫よね〜」と聞こえる最中。
 キーケースの傍にある探知機が赤く光っているのが目に付いた。

「…誰だろ」
「どうしたの?」
「誰か、盗聴器か何かを仕掛けてる…」
「え、」
「…母親が疎いので…こうしてわかるようにしているんです」
「あっ。
 そうだよな、ビックリした。紀子さん、美容系インフルエンサーなんだね」
「はい。
 まぁ、これあるから、まだマシですけども…」
「…探知機?」
「も兼ねた電波妨害のヤツで…」
「…そういうのって、高そうだよね…?」
「お金を貯めて買っておいたんです」

 マダムたちの談笑が響く中、海江田は「どこにあるかわかるもんなの?」と聞いてきた。

「ん?」
「いや、どうせならぶっ壊してから行けばいいじゃんって思って」

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