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“無知を使う”手口など、詐欺の基本だ。それをこちらに要求するとは。
あのモグりは一体どんな気持ちでこれに立ち向かっているんだか…対等である意識はあるんだろうが、紙一重にまで来るとは…平良よりも危ういかもしれない。
随分と泥臭いヤツだ。その自覚があるはわからないが。
しかしそれは一つの着信で一変した。
並木からだった。
カーステレオをスピーカーに変える。
「おぅ並木、おはようさん。早ぇな、もう着くがあの女の口座押さえた?」
『おはようございます会長!
いえ、野郎に書類書かせました!今事務所の前に意味わかんねぇ謎の箱があるんで!』
「は?日本語どうなってんだ、バラしたんか殺すぞてめぇ」
『違うっす!血ぃ着いてないっす謎の箱っす!』
「意味わかんねぇんだよ落ち着」
『会長おはようございます、変わりました、柳瀬です』
「おはよう、声でわかるわ。何」
『事務所の前に謎のは…ダンボールが3箱ありまして…』
「はぁ?」
『重いんすよ』
「…お前ら全員バカなんか、普通触んねーだろ死にたいんか」
『あっ、白手はありま』
「ちっげーよ、お前それ爆弾だったらどーすんだバカタレ!」
『えっ、爆弾!?』
ガチャン、と音がする。
「……おい多摩ダメだこいつらバカだ、飛ばしてくれ……。
おいバカ共、俺が行くまで触んじゃねーぞ絶対!何があっても!吹っ飛んでもそこにいろよ責任持って!
あともうその時点で爆弾じゃねーから、んー……防護服か雨合羽でも着て待ってろ!ぜってぇ箱に何も付かねぇようにしとけっ!」
はいっ!という部下たちの返事を聞き切った。
「……俺もうなんか平和が信じられなくなってきたわマジで……」
「……総代んとこ行きます?これは「組を持て!」の暗示じゃないですか?」
「それはお前って決めてんの。だが……土台これじゃまだまだだな……総代んとこ行くなら俺を殺してから行けぇ…それまでにバカ共教育せねばな……まずは国語から」
「……会長、」
「何」
「…本気ですか?」
「何が」
「いえ……」
「……言いたいこともわかるが俺はいーの。どーせ何やったって余らせてのさばらせる気だから、あの人は」
「……そしたら私も本家に行けるんですが…」
「いいねいいね、その強かさ。俺お前のそーゆーとこ尊敬するわ」
「でも、会長が引くなら私はやりませんからね」
「……あっそ」
死んでもヤクザ。仕方なくヤクザ。覚悟があってもなくても関係がないのに。
「……好きな事を好きなだけやれと、拾われた時に言われた。その割に死にかければ助けやがんだよ、あの人。良い加減面倒でな。
ファミリーっつったって、あのバカたち以外皆敵とか、なんかね。だから守るんだけどこれでいいのかわかんねぇよ、俺も」
珍しくこんなことを考えてしまう。
向いてないのは知っている。今やっと、あぁ、保守が一番の防御だと知れたのは慧のおかげ…いや、せいだ。
どうしてもそうしたいのだから仕方がない。それを全うしなければ守れない。
「……そっか、やり方がわからないのか、多分」
ふと、あの外国人子供の気持ちが少しわかったような気がする。ロボットだって今は学習する世の中だ。
「………深入りすると抜けられなくなるのは、もう経験済みでしょうに」
「そうだな。あいつには悪いことをしたけど…。だって、ビビるだろ、ウチまできて「殺してくれ」だなんて」
「あれは驚きましたよね…でも、加賀谷くんくらいですよ、あそこまで覚悟決めるのは…」
「……ただ、飛びたいんだよ、人生最初に作る折り紙は大抵飛行機だろ?多分。本当は足元なんてどーでもいいんだ」
「…会長。ポエム作り始めたらヤバいって昔言ってませんでしたっけ?そろそろオリバー医師のところに」
「ちょーどいいな」
へっへっへ、と笑えば「…まさか今ハメました?」なんて言ってくる。
今だけじゃ、どうにも出来ないんだよ。未来があるからねだなんて、またポエマー扱いをされそうなので言わないでおいた。
事務所が見えれば並木、柳瀬、高田が…お出迎え…いや、まるで追い出された子犬のようにビルの外にいる…。
溜め息が出た。
「…あいつら…」
さっと車庫に車を停めた多摩は助手席を開けつつ「何やってんだ、お前ら」と三人に放つ。
おはようございます!!! と元気に挨拶を揃える部下たちにまず…「静かにしろよ朝だぞ…」と、ぐったりしそうだった。
「…会ちょ」
「雨合羽ねーなら袋でも被っとけよバカ共っ!
何?そこにあんの?普通外で待ってるかっつーの!」
「あ、」
「すませ…」
「…多摩、そこのコンビニで全員分の雨具買ってきて……あと郵便局で着払い用の郵送の紙を…」
「わかりました。宛先はどうします?」
「概ね決めてるけどプラス何枚かテキトーにパクってきて…」
「畏まりました」
多摩にクレジットを渡しまず、3人がいる階段前……やっぱりないな。
「ドアの前か」
「はい!」
自信満々に返事をする高田に一発、それから残り二人も一発ずつぶっ叩き「早く入れやバカ共!」と制する。
「てめぇらパクられてぇのか!どう見てもお前らはヤクザにしか見えないのっ!せめてビルの中にいろよっ!」
「え、でも、」
「爆弾ありますし…」
「俺たちヤクザですから」
「わーってるならマジでパクられたいんだな、あぁ!?
並木はまず窃盗詐欺恐喝暴行傷害誘拐犯罪教唆売春!柳瀬は売春抜き!高田は売春抜きの、昨日の今日だ不法侵入やら違法駐車やら!俺は加えてインサイダーやらマネロンやら脱税もあんだよっ!あと全員銃刀法違反っ!お天道様を見んじゃねぇ!知らんからな!?」
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