無色透明色彩


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 エレベーターに乗り込み多摩のメールを開いてつい「うわぁっ…」と言葉が出る。
 誰もいなくてよかったものだ…念の為角を陣取りもう少し詳しく眺める。

 キナ臭さは確かにあったが…なるほど始めに出てきた六本木のカモ成金。本当に財布野郎だったな…。

 山ノ井健三(46)、父親の所有していた不動産、これがあの撮影現場とまでは割れていた。
 上物が山ノ井、土地は柏村名義となれば簡単だ。あんなタワマンをぶっ壊すのは現実的ではない。健全なマネーロンダリングを狙い山ノ井を刑事告訴して差し押さえさせれば話しは早い。実質の大家なのだから。
 その材料として、あの変態は怪しいサイトで見せしめ変態兼、見ればわかる、ヤク中だ。しかしバカは使いよう。ヤクを家賃替わりにでも献上され、見事に食いついたのだろう。

 …あのサイトを警察がマークしていればこうして綺麗に流れる訳だが、山ノ井は堅気の素人、正直リスクはデカイ。

 杜撰すぎる。余裕が無いのか、そもそも柏村本人も同類のバカなのか…後者の方が逆に上手く回っちゃったりして?

 程よく引こう、と判断したのだが…。

 それよりも…やはりあの“天使ちゃん”に問題があったなこりゃ…。

 多摩の長ったらしいメールにあったのは青木透花の養父のことだった。

 …これは読みたくないな。取り敢えず家族構成は現在、介護が必要な忠恭の父とインフルエンサーの妻と透花の三人で、昨日襲撃したその公営住宅に住んでいる…。

 多摩は普段冷静で鉄面皮だ。それでも表情がある、今回はどちらかと言えば負というか憤の表情…。

 車の窓を開け「おはようございます、会長」の声色でわからなくなった、恐ろしいくらい“淡”だ。

「おはよう…ありがとう」

 こんな日は「ご苦労」より柔らかくすると決めている。何故なら多摩は冷淡なだけあって…。

「読みましたか」
「あ、ハイ…」

 静かに怒るタイプだからだ。つい癖で部下でなく年上への対応、敬語が出るくらいには。

「ざーーっと、なんとなーーく………」
「では話は事務所で」
「待って!ごめんちょっとしか読めてないっ!」

 ふぅ、と明らかに溜め息を飲み込んだ多摩は「事は重大ですよ会長」と窘めてきた。

「ま、マジ?」
「朝礼で言おうかと思ってましたが、これは先方に行く前に一度総代に相談しに行くべきか聞こうと思ってたところです」
「……わかった、読む…」
「いえ、ではまず簡潔に言います。
 青木透花の養子縁組先ですが、公営の児童養護施設でしたよね?
 その養父は、一審の無期懲役裁判中に死亡が確認されているようです」
「………ん?つまりそんなん、ブタ箱ん中で息の掛かったヤツに殺されたってだけだろ?
 判決が出てるんじゃあ、ハイさいならって首謀者が書類をゴネて死亡金ピンハネしただけじゃなくて?」
「だけですけど?恐らく」
「…いや、ゴネるも何も起訴されてからクスねた方がローリスクだよな…」
「そうですよね。ですが、そもそも判決は保留中なんですよ」

 ……考える。

「……は?えどゆこと?民事カモってこと?無理じゃね?」
「そうでしょうね」
「……まず、児童養護施設って年齢じゃねえよなアレ、多分…あ、成人18になって…いやぁ児童とは言えねぇよなぁ…しかもあれ?幼い頃にパクられてなかったっけ…」
「8歳ですね。一応現在は23歳です」
「……全然わかんなくなってきた。二審三審…やるとしても…」
「一審で控訴した。そこまではネット記事が出てきました」

 墓場から金を取るのもよくあることだが、控訴が認められた公益人相手に、よくもまぁ…。

「…つまり二審待ち中に死んだわけね…。それに手ぇ付けるとかクソ面倒臭ぇ…俺ならやらん。
 あー、そっかそっか、花咲はマトリが持ってたもんな。判決も黒か白かわかんねぇのか、今となれば。
 あの外国人息子もじゃあ、人身売買かなんか?」
「私もどこかでマフィアを経由しているのかと、裏サイトを漁りましたが…」
「…穏健派に吹っ掛けたはいいが、繋ぎたい相手じゃなかったなそりゃ…」
「しかし、昨日行っちゃいましたよね?しかも、高田も途中で帰ったと」
「………今更聞くけど怒ってる?」
「いいえ?楽しかったですよあの陰険クソ腹黒ド近眼サイコ野郎の接待」
「………ちょっと考えるわ…ごめん」

 あんのクソ野郎、見直して損した。随分な博打を打ちやがったがそういえばそういう奴だったよ……!

「まぁ、それで潰れてくれれば別に」

 裏が取れれば一発で潰せるけれど…。

 平良、人のことを気にしてくれているようだが…もし知らないままこちらに振ってきたとしたら正気じゃねぇ、毎度だが。

「…息子くんはじゃあ、なんで今ああなってんの?趣味?」
「知りませんよ」

 グサッ。

 まぁ確かに?足を突っ込んだからには…女には会っちまったし…。いつかはぶち当たった可能性が充分あるし早めに教えてくれてサンキュークソ眼鏡!な案件だが?

 なんなんだこの飛び火は…。

 現在残された息子くん…死後離別、そもそも賠償責務について、知らないのだろうか。まるで奴隷なんだが?

「……小せぇころから働きもんだなぁ。金ドブ大人しか周りにいねぇ」
「ええ。会長より幼い頃からですよ。それっぽい子供を見つけました」
「えっ」
「……海外のスナッフフィルムと腎臓が」
「っわ、言わんでいいわ……なるほど拷問って」

 …慧が言ってたの、それかよ。

「見つけました?」
「いぃいいい、いらんいらん!あと知らん!そこは!
 ……まずちょーっと練ろう…地雷踏みかけてるから、いま」
「わかってくれたならいいですよ」

 …取り敢えず今、新の中で悪人は平良一択だ。

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