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パケックスは900程あった。質屋を脅しても1本1,000円程度だろうしそもそも売れないのは承知なので、やはり組対に送り付けた。
2日後の朝イチ、なんとなく聞いたことがあるようなないような声の主から電話があったが、多摩が対応したようだ。
対象の青木透花が病院に運ばれて3日目。漸く目を覚ましたとの情報が入ってきた。
「…慧」
この2日間、忙しくて死にそうだった。
それ故慧とは寝る時間と起きる時間がなかなか合わなかったが、本日漸く起きる時間が重なった。
「はい?」
呼んだだけでぎゅっと抱きしめてきた慧の目は、明らかに期待している。
「…天使ちゃん、いたじゃん?青木透花ちゃん」
そう言うと離れ「はい」と少し声を下げる。これは…用が済んだら構ってやらねばならないやつだ…。
「あの子、目を覚ましたらしいんだが」
「はいはい」
しかし慧は新よりも若い…。
インナースウェットに潜り込み顔をひょっこり出す始末。肌がくすぐったい。なるほど多摩、嫉妬とはこれか…。
髪をゆったり撫でてやれば下に潜ろうとしたので「一緒に会いに行かないか?今日」とさり気なく制する。
「…え?」
「目、覚ましたんだけど…ヤク漬けだったんだけどねあの子」
そう言えば、ふっとインナーから出てきて「はい」と真剣になる。
「…3日寝っぱなしだったせいかショックかはまだわからんが、声が出ないんだとよ」
これを言えば一発だ。慧はこういう話に弱い。
案の定、ばっと新の両腕を掴み「行く、」と言ってくれた。
「…よかった」
そう言えば「もー、」と…顔をバシッと挟むように叩いてくる。
「…あの子可愛いからつい…」
「んなわけねーじゃん?ただ、お前がそう言ってくれてよかったよ」
「…そんな顔して言われたら断れない」
それは…。
「どんな顔?」と横にゴロンと寝かせれば、ふっと頬に手を当て「優しいけど寂しい顔」と言う。
慧を軽く抱きしめ「ただ、気に入らねぇんだよ」とつい本音が出る。
「大人が子供を支配するってことが」
「…新さんヤクザ屋さんより、慈善団体とかの方が」
「それも嫌いなんだわ」
スウェットの中に手を入れ背を抱きしめてくる慧を見れば…こいつはそう、同じような過去を持ち…非常に脆い分、優しい子なんだよなと少し、こちらまで疼く。
「そうなんだ」と胸に額をぐりぐりする慧に、まぁいっかと、ケータイに手を伸ばし「午後からそっちの病院に行く」と多摩に送信し棚に置いた。
「……お前は良い奴だよ、ホント。綺麗でさぁ」
「…この前は怒ったのに?」
「怒ったんじゃない。ただ…まぁ、忙しくて」
「…そういう所は優しいけど」
上に乗ると「少し、怖い」と言ってくる。
何が怖いのか。ただ、しがみつく慧の肌触りも温度も忘れたくないと思った…それは確かに怖いことだけど、と今回は珍しくこちらが考えている。
俺、これで死んだりして…と一瞬過ぎった頃に多摩から連絡が来た。丁度のタイミングだ。
「悪ぃ、飯はコンビニ寄ろ」と言わずとも「新商品のサンドイッチ食べたい」と要求されたので、まぁいいかと整えて2人で部屋を出る。
気を使ったのか、多摩は珍しく少し遅かった。まぁ、急ぎの用事という訳じゃない。
車に乗ってすぐ、慧は多摩に「あの、新商品の…クッキー入りのパンが食べたくて」と進言した。
随分打ち解けたなぁ…というか何そのパン。マジで食いたかったのか…。
いつか自分が死んだ時…。
なんて、考えない方がいい。多分。マイナスなことは無くした方が。
慧が新の何かに気を使っているのは感じられる。
病室の「面会謝絶」と下げられた札にも動じていなかった。
事務処理は「親戚」としたが、もしかすると寛解とはいえ慧のPTSDだって再発する可能性がある、と、ワンクッションで先にジイさんの元へ行った。
…始めの反応でなんとなく感じた。ジイさんは恐らく「ヤクザ」と接したことがある。
事前情報、少ないものから引っ張り出す。
ジイさん…青木唯三郎についての印象は正直こちらも良くはない。
第三者として見れば…とっくに縁が切れている“孫”、つまり忠恭の特別養子縁組である透花を財布にし介護までさせているジジイだが、彼の「孫は…いない!」の声色で、印象が変わった。
…もしかすると。
「…ジイさん、改めまして。あんときのだ。
何、あんたと孫にちょっかい出す気はない。何かの縁だ、顔を出しに来たんだよ」
ふいっと、そこで慧を出した。
効果覿面だったらしい。若いのを見た唯三郎は「…ん?」と反応を変える。
「…俺のまぁ、アレだ。お宅の孫と歳が近そうだったんで。
病状を聞いた。本当はこいつも…昔似たような状態だったから迷ったんだが、まぁ、お宅の可愛い孫の手助けになればと」
「……この子が?」
「…詳しくは言わない。こいつは治ったばかりでな。傷を抉りたくないと…ここまで言うのも、俺だって勇気がいる。
慧、今んとこ大丈夫か」
「…こんにちは、おじいさん」
「こんにちはぁ…」
「…あの、その…でも、」
「わかった。大丈夫そうなら病室入って来い。どの道…マトリの兄ちゃんが来るらしい。俺も用事があるからお前に構ってはいられないんだ。無理そうなら多摩に」
「…うん、」
「ジイさん。あんたが思っているより事は大きいかもしれない。それを潰すということをあんたも考えてくれ」
「あんたが透花を」
「いや、そこまでアコギなクソ野郎じゃないさ、別に信じなくてもいいが」
ふっと名刺を見せ、老人がよーく見たところでしまう。
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