無色透明色彩


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 しかし本人も驚いているようなので、いまはまぁいいかと「綺麗だね…」に留めておいた。

「高田っ!」

 そんな最中に再び多摩が現れ、入れ替えで平良が入ってきた。

 多摩さんが「よろしくお願いしますね」とさして感情も込めずに平良へ挨拶をし去って行く背に「いってらっしゃ〜い」と慧は見送る。

「…はじめまして。厚労しょ」
「マトリの平良さんだよ」

 透花はふっと平良に頭を下げる。

「…いつもは海江田が担当なのですが、本日、今だけは俺が担当致します。
 引き続き取り調べ等は海江田が行う予定ですが、もし何か思い出しましたら俺も聞きます…が、まず慧」
「はい?」
「…少しだけ出て…唯三郎さんのところに行ってくれないか?」
「…いいけどいまはヤダ」
「ありが……え!?」
「あ、大きな声出さないでくださいね。いま歌詞思い出したばっかりだから嫌だ」
「……はぁ?
 あのな、こっちは仕ご」
「メイべ〜 ア ドン、リリワナ ノ〜」
「…え?」
「“多分俺は興味がないんだ”!」
「…んな、あのな、そういうんじゃなくて」
「おじいちゃんに状況説明しに行けばよくないですか?」
「…あーもう!わかりましたよ、ったく…俺はお前に強く言えないんだってわかっててそーやって…」
「ネチネチネチネチ〜!」
「…メンタルマジで強くなったなお前っ。可愛気が半減してるっ!」
「いーですよー!カイチョに可愛い可愛い言われて大変なんでー」
「……かっわいくねぇっ!
 はいはい、わかりましたよっ!
 …透花さん、ではまた…」

 ふぅ、と追い返しに成功し「ごめんね」と透花に謝っておく。

「あの人悪い人じゃないけど、目がなんか充血してたから…少し休ませてあげなきゃってだけなんだ。安心して」
「……サト、イさん、」
「っわ!覚えてくれた?」

 頷く透花についつい撫で撫でしたくなるが堪える。

「…僕、捕まるなら、仕方ないです」
「……何言ってんの。
 まぁ、有り得なくはないけど大丈夫だと思うよ。じゃなきゃここにいないよ?
 透花ちゃん、意外と悪い事してないんじゃないの?あまり聞いてないからわからないけど…」
「……僕は…」
「まぁ、信じてあげてよ、自分のこと。リアムも言ってる」
「………」

 浮かない顔の天使ちゃん。
 余計なことは言わないけど、君がそんなんじゃ、いつまでも飛べないじゃないか。

「…泥に汚れてもさ、洗えば白い羽に戻るよ、透花ちゃん」

 なんだって言える、関係ないらしい。それが正しかろうと間違っていようと。そんな唄で世界が熱狂するんだから。

 それから暫く、ふたりで曲を聴いたり話したりした。

 しかし彼は万全ではない。いつの間にか互いに寝てしまっていたが、トントン、と静かに肩を叩かれ振り向けば、知らない…ただ、なんとなく警察だかマトリだかというのはわかった。

 …確か、誠一が刑事のフリをする時「なんとなく現場を走り回っていた感を出すんだよ」と、スーツを緩く着ていたなと思い出せば、優しそうな笑顔で透花を見たマトリ(仮)さんは手帳を出し、しまう。

 厚労省麻薬取締部 坂下俊介

 やはりそうだった。
 その坂下という30代くらいの跳ねっ毛の人は口元に人差し指を当てる。

「……同僚です。寝てますね」
「…はい」
「交代です。あと、平良が呼んでいました。江崎…さんのツレの方なんですね?送ると言ってました」
「あ、はい…」
「あとはお任せ下さい…江崎さんにも世話になったとお伝え頂ければ…」
「わかりました。
 あの」
「はい?」
「…この子は…捕まっちゃうんですか?」

 首を傾げたのは「わからない」というより「心配しないで」と感じられる…ような柔らかい表情だった。

「変なこと聞きましたね、すみません」
「いえ。
 貴方は優しい人ですね。江崎さんが待ってますよ」

 そーっと立ち坂下に席を譲る。
 「ご協力ありがとうございます」と言われたので、「ご苦労様です、お願いします」と挨拶をして部屋を出た。

 平良は唯三郎の部屋に追いやったしなと、慧も部屋に行く。
 振り向いた平良の顔はやはり疲れている。この件は新が動いただけある、きっと事が大きいのだろう。

 側に座れば「坂下か?」と、静かに聞かれた。唯三郎も寝ているのだ。

「うん。セイさんが呼んでるって」
「連絡が入ってな。江崎が、お前を家まで送れと…」

 ドアが開いた。
 海江田が…お土産か何かの袋を持って来たので一礼する。

 平良が明らかに嫌そうな顔をしたし、相手も気付いたようだ…気まずい…。

 あ。
 手に持ってるの…天文台の袋だ…。

 そっか、とひとり安心した慧は先に立ち平良の肩を叩き「送って」と素直に伝える。

 海江田は出て行った時より少し、寂しい目をしていると感じた。新に少々絞られたのかもしれない…と、気まずさはあるが「起きて知らない人がいたら…」平良のことだが「怖いかなっていうやつです」とその場で出た説明をし、先に行くことにした。

 どうやら平良は入れ替わり際に海江田と何かを話していたが、すぐにこちらへ来た。
 何か嫌味を言ったのだろうか、更に海江田さんが俯いている…というより怒っているような…。

「セイさん」
「何」
「もしかしてこの件、横取り中?」
「少し違う。頼まれたんだよ、江崎の仲介をな」

 あ。
 こっちも不機嫌になってる。そりゃそっか。

 「タバコ吸いたい」と言う平良に「早く車に行きましょ?」と促す。
 「そのつもりだけどさ」とつまらなそう。まぁ、別に関係はないけれど。

 そのはずだった。

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