1
「MRに見えますかね?」
本日ついに、団地崩壊薬物事件で入院していた透花が退院する。
安慈は身寄りもなくなった透花の養父となり、引き取ることになった。
そんな、最中。
この、カルテを広げるファミリードクター、オリバー・ブラウンからひとつ依頼を受けた。
「……まずその顔、手。右にして」
「え?」
どうやら自分は左手を頬に当てていたらしい。無意識下の…多分、自然な行動。癖は言われて気付くものだ。
「こう?」と右頬に手を当てれば「も少し目元隠して」と注文される。
「…オマエ髪切ったな、幼くなった。25くらいに見えるかも、新人みたいな」
「それはよかった」
「目と輪郭のホクロ隠しても目立つ顔だなオマエ」
「…確かに」
パッと、透花が顔を覗いてくる。
…キラキラした茶髪碧眼の天使。事件前よりも顔色が良くなった。
「あ、その前に透花は」
「んー、予定通りこれからは通院でOKだけど週一で診たい。この、前頭前野のあたりの傷がまだ薄くあるし…。でも…。
アンジ、また忙しい」
「いや、MRと同じ勤務形態になるというか…」
「丁度いいね、薬の話。
ジアゼパムはウチで一週間診た結果、血中濃度は一定化したけど眠りに変化がない…。
エチゾラムも薬規法がまた変わりやがって薄まったし…」
「あぁ、若者には長期処方は控えるように、ともなりましたね」
「…ソレMRっぽいね。
エチゾラムを一日一錠にして…向精神、眠剤…どちらとしても観察したいかな」
「透花、来週も来るけどこれは…その…まず、一日一回は寝ることを目標にしよう。
この薬はどうしても眠れない時に俺に伝えて。先生はそれも診なきゃならないから、遠慮や無理なく言ってね」
「わかりました」
少し不安そうに俯いた透花の頭を軽く撫でる。
「癲癇の薬は今は処方しない。それで発作が起きたら方針はそっちになる。
一応、入院中に発作はなかった、トウカは眠りが浅いからそこまでの診断出来ないけど、何もないが一番良い」
「…発作というのは一体どんな…」
「難しいけど…自分でも気付けそうな前兆として…例えば少しの震えや痺れ、耳鳴りや頭痛。
気絶までなれば痙攣があるかないか…一番いいのはアンジが三日くらい側にいて様子を見て欲しいけど、今回は私が依頼してしまったから…青空手帳も渡しとくよ」
「何かあったら遠慮せずに連絡してな。俺も手が開いたら連絡」
「あ」
ぽん、と、オリバーは思いついたように手を叩く。
「オマエらの職場にはいられないのか?
私は常にコッチにいるわけじゃないし手術も何件かあって…」
「あ、いや僕は大丈夫です。アンジさんがお仕事中の家事とか」
「いやまぁ…うーん、有難いけど第一優先はじゃあ、来週までは療養ね。家の事は、やりたい時にでいいよ。
…それで、俺はいつまで右の頬を」
「あ、それな。はい外して手」
言われた通り安慈は頬から手を離すが、透花とオリバーは揃って「う〜ん」と微妙な反応。
「顔が目立つ…」
「じゃあ…」
少しだけネクタイを緩めれば「あー…いや、うーん… 」と更に微妙だ。
「…すんませんね…こればかりはちょっと潜入した事がなくて…」
「そのマスクとかは?」
「あ、下げたままだったすません…」
顎まで下げていたマスクをし直すが「輪郭も目もホクロ隠れないな、より目に付く…」とオリバーはじっくり顔を眺めてくる。
試しに輪郭のホクロを指で隠せば「あー…少しは… 」という反応。
「眼鏡とかどうでしょう?」
「あー……眼鏡要員一人いてそれとタッグ組むんだわ…。
整形外科ありましたよね、ここ」
「いやいやオマエのそれは後にも合って良いと思う、モテるだろ?」
うんうん頷く透花を目にし「いや別に…」としか言えず。
「…ホクロが目立って邪魔なのは自覚あるんすよね…」
「うん」
「“The どこにでもいるくたびれた営業新人”ではないですよね…」
「なんかで隠せ。それでも目立つけど、それくらいの上の中はどこにでもいる」
「……褒められてんのか貶されてんのか全くわからないけど」
「アラタと一緒ならもうどっちも引き立たないし下がら」
「いや目立つ余計、主にあっちが」
ヤクザだもん、あの人。目立たないようにしてるつもりだろうけど圧とか、なんか特有のスーツの選び方でわかるもん。あと顔良いし、あの人。
「マスクと…なんか化粧品とかで頑張ります…まずは…」
「だね」
「とにかくどちらも引き受けました。
あぁ、仕事の方は…メールで送ってください、平良さんにも」
「リョーカイ」
オリバーが処方箋を印刷したので「あ」と思い出し「すみません、院外処方箋出せますか?」と聞いた。
くるっとパソコンからこちらを見たオリバーは顔をしかめ「あぁ!?」と…マジで喜怒哀楽以外ないよなぁ…としみじみ思う。
「平良さんの要望でして…なんか一人…職場体験?させたいやつがいるとかなんとか…そのうちこちらにも伺うらしいので一応…はい、これ」
白髪の青年の写メを見せれば案の定「何人?」と聞いてくる。
「あ、薬剤免許はあるらしく、えー、髪を染めているだけの日本人だそうで…。
何年か前にちょっと、下北沢で色々あった」
「売人?闇バイト?」
「江崎さんや慧くんとも知り合いらしいんですが、先生は知らないんですね?」
「………サトイとアラタとセーイチ?」
「平良さん曰く“メチルフェニデート”を大学の薬学部でパクって所持していたとかなんとか」
「こいつ軍人?ナルコレプシー?」
「いや所持だけなんで多分違うかと…」
「簡単な物じゃないよ、ソレ。私は処方出来るけど…そうか、ナルコレプシー…」
- 1 -
*前次#
ページ: