無色透明色彩


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 …流石カナダから来ただけはある。メチルフェニデートには特別な許可が必要だ。

「詳しくはまだわからないんでこの後会いに行きます。正直首突っ込みたくないんですけどね…」
「……ま、ガンバレ。はい、院外処方箋。
 セーイチもそいつも狂ってるからついでに捕まえといて」

 ここへ来て早々にオリバーから渡された紙袋を持ち、立つ。
 透花が「お世話になりました、お世話になります」と頭を下げたので安慈もそれに倣って退室した。

「はい」

 透花が持つ旅行用バッグに手を出せば、オリバーから渡された“橋田製薬”の紙袋を見ている…遠慮しているらしい。
 それに構わず手を出し催促をすると「…ありがとうございます」と、素直にバッグを預けてくれた。

「いいよ、そんなに重くないし…。
 ごめんなんだけど…疲れているだろうにこっちもこれからすぐ帰宅、とはいかなくて…」

 事前に会計の「6」に行けと言われていたので、窓口で「すみません、オリバー先生の…」と伝えれば「あー!はい!」と受付の女性は明るく対応してくれたが…紙袋やら患者やら荷物やらを一通り眺め「…確認取りますね、あちらに掛けて少々お待ちください…」と、結局は待たされる。

 少し俯いた透花の表情が優れない気がして「具合は?」と気遣う。

「人が多くて少し…」
「…確かに、ここ凄いよな…」

 すぐに確認が取れたらしい。

「青木透花さんですね、大丈夫ですが一度保険証だけ…」
「あ、あぁそっか…」

 透花がさっと…新しい保険証を出し渡してくれたので「…おっ、ありがとちょっと行ってくる」と、院外処方箋と…更に安慈の免許証やらも出し、漸く手続きを終えた。

「何か、手続きがあればまた書類と共にお持ちください」
「はい」

 書類には、先日亡くなった透花の義祖父、唯三郎タダサブロウの分もある。

 見せたい書類じゃないなと、取り敢えずで橋田製薬の袋に突っ込み、座って待っていた透花に「はい」と保険証を返した。

「行こ」

 まだ慣れない、透花に少し戸惑う自分がいる。

 この子、本当になんというか…別に悪いことをするわけではないが疑いもなくこんな、会って一ヶ月程度の大人にあっさり着いて来て大丈夫なんだろうか。

 幼い頃からこの国に連れて来られた経緯もある、そこから引き取った元養父、青木アオキ忠恭タダユキの時もそう…そうやって生きてきたのだから仕方ないのだろうけど。

 推定20歳、書類上では23歳…。その割に抑制されて生きてきたこの子とこれからを共にする…。

 自分はまだ、ふと見上げてくるその濁りない青い目の感情すら、読めない。

 正面出入口の前で自販機を見つけた。紙コップタイプだ。

「なんか飲み物買ってこ」

 安慈がコーヒーを押すと、目の前で飲み物が出てくる様子に「…これは?」と、透花の声色が少し変わった。

「初めて?もしかして…」
「はい」
「なるほど……。
 じゃぁ、はい」

 コーヒーを取り出し、透花に110円を渡す。
 「飲み物はわかるよね?」と聞けば頷く。そうかこれ、見たことがないとわからないのかもしれないな…。

「お金を入れて、好きなのを押すと出てくるんだけど…。
 ペットボトルも一本買おうか、そっちはわかるよね?」
「はい、そっちは」
「何系がいい?お茶とか…スポーツ飲料かなぁ…。少し走るんだよね、こっから」
「…スポーツ飲料で」
「わかった」

 すぐ隣の自販機で自分のお茶とスポーツ飲料を押しながら、透花を観察してみる。

 ……めっちゃ迷ってる…。

「ふっ、」

 ちょっと微笑ましい。

「種類ありすぎてわかんねーよね、なんかこれ限定!感あるし」
「そう、そうなんです…」
「甘いの好き?イチゴミルクとかどーよ?あんま見ないよね」
「確かに…」

 試しに押してみた。
 「おお…」と眺めているそれが、なんだか可愛らしい。

「さっきはコーヒーが出たのに…」
「な。最近じゃこの機械、病院でもあんま見ない…かも。専らコーヒー系でしか」

 透花は出てきたイチゴミルクを飲み「甘い…」と言った。

「そりゃイチゴミルクだから。ここに来る楽しみその@が出来たね。
 甘くて喉乾いたらこっち、ペットボトルあるから」

 コーヒーを飲みきり、備え付けのゴミ箱に捨てる。
 「なるほど」と言いながら透花もぐいっと飲みきり捨てたので「あ、ゆっくりでよかったよ?」と言っておくけど、きょとんとしたのでまぁ、いいかと車に向かう。

 外に出て少し顔をしかめている…そうか、日光久しぶりだよな…と、スポーツ飲料を渡しておいた。

 後部座席に荷物を置き、ふと助手席を開ける透花は「これからよろしくお願いします…」と頭を下げた。

「…はい。こちらこそよろしくね」

 二人で車に乗り込みまず安慈は、一応再確認として「タバコ吸っても…まぁもうこれ私用車だからタバコ臭いけど…」と断っておく。
 「あ、全然気にしません」と言う透花にまぁ、そうだろうなと…経緯なんかを考えそうになるがそれはそれ、これからはこれ。慣れなければと、ドアを開けタバコに火を点けた。

 過剰な思いは押しつけになる。

 ついでにサンバイザーを立ててやったが「うわぁ光横からで意味ねー」と言うそれに「ふふ、」と透花が笑った。

「使い方はわかりました」
「うん、まぁ」
「暑いけど」
「それなー…車って横弱すぎだよなホント…」

 そんなこんなで、指定された住所をナビに入れ、発車する…これは車で行ける場所じゃなかったりして…と思いながらも仕方なく向かった。

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