無色透明色彩


7


 ふっと、指先に何かが触れた気がして目を覚ます。

 まだ明るくはない、朝の光。
 じっと見つめる青い目が綺麗でふいに切なくなった。

 多分、何か夢を見ていたと思う、恐らく嫌な夢で…。

「…透花…?」

 首を少し傾げ切なそう、控えめに笑う彼につい「…透花、聞こえる?」と聞いている自分。

「おは」

 アラームが鳴った…。
 「…へ?」と寝ぼけたままああ、どこだっけ…ポケットだ、と取り出し時間を見る。7:50。

 アラームを切れば「おはよう…ございます、アンジさん」と言われハッとしたけれど…これは、恐ろしさと安心が入り交じる困惑だ、ゆったりと握ったままの手を頬に当て…ああ、暖かいな…と胸が締め付けられる思いで「…おはよう、」と返した。

 何故泣きそうなのか…ふっと「ちょっと電話してくる…」誤魔化し紛れに番号を押す、手が震え間違えて平良の番号を押してしまったが即切りし掛け直す。

「あ、所長…おはようございます。すみません、緊急だったので先に夜中メールしました」
『おはようさん、海江田。見た見た。大丈夫か?』
「あぁ…はい、一応今」

 あ、やべ。病室だ。
 てゆうか平良からキャッチ入ってる…。

『帰るところか』
「はい…すみません今日は」
『仕方ないよ。平良には俺から』
「あ、平良さんにもメールはしておきました…」
『お前もまだ慣れてないんだろ、休んどけ。こっちはなんとかする。有休にして一日で大丈夫か?丁度土日入るし』
「あ、すみません…。
 …何かあればまた連絡します」
『お大事にな』
「はい、では…」

 切る。
 仕方ないので平良にも掛れば『あー別に問題ないから。家族の一大事だし側にいろ』と言われた。

 ふと透花を見て「……具合はどう?」と聞いてみた。バッチリ起きているけど…もしかしていつも通り、6:30くらいに起きてたり…?

「大丈夫そうです、すみません…」
「いやいやよかった…透花?」

 試しに曖昧な感じで聞いてみれば「はい。ユリシスではないですよ」とはっきり答えた…あぁ、これはなんという症状になったのか…イマジナリー?

「…覚えてたり?」
「…多分。断片的なんだと思いますが…」
「あ、看護師にも言わないとか…タクシー用意してくれるって」
「はい」

 …さて。

「…バッチリ起きてるね。ちなみに何時に起きたの?」

 側に座って聞いてみる。普通に「いつも通りの時間、ですね…」だなんて…。

「大分起きてたね、ごめん俺出勤に合わせたから…」
「ふふっ、」

 透花が笑い…「起こすの忍びなくて…でも苦しそうだったからどうしようか迷いました…」と、あれ、気付けばいつの間にか毛布が畳まれ、透花の膝辺りに置かれているが確かに起きた時、掛けていた気がしなくもなく…。

「はは…」

 あぁ、なんだか。
 いつも通りなような気がする。

 それから安慈は当直の看護師を呼んだが、「あ、脳波だけはやってけと教授が言ってました」と言われ、それもそうかと検査を待ち、その間にタクシーを手配してくれた。

 すっと12号室を見てみれば、オリバーは最早診察台で寝ていた。

 起こすのも忍びない、確かにそうだなと、エナジードリンクと手紙を添えて帰宅した。

 帰宅すればまた力が抜けたけれど、そういえば寝巻きのままだなと「透花」とベッドを指さす。

「…取り敢えず飯は昨日の残りと…夜は俺が作るから…。
 嫌じゃなかったらやっぱりこっち、ベッドで休んだ方がいいのかも…?
 あ、でもまず風呂だよね、あの脳波のクリーム的なやつ」
「ですねー…これ頑固なんですよね、髪の毛気持ち悪い…」

 ぱっと座らせ「風呂やってくる」と手を焼くことにするが…。
 「あ、シャワーで大丈夫ですよ」と…これは遠慮なのか疲れなのか…まぁ、「何かあったら風呂場コールね」と過干渉過ぎずにやり過ごす。

 そういえば…と、透花がシャワー中にテレビをつけ、動画サイトに飛ぶ。今日はニュースなんて、いい。

 検索すれば…ライブバージョン楓があった。何故聴きたくなったんだろう…。
 たまにあるんだよなと観ていれば自然と泣いてしまった…何これぇ、良い歌だけど、おぉう、良い歌…けど噛み締めるとヤバい…。

 32歳、朝方ひとりで楓を聴いて泣く…こんな時に響くなよ…でも観ちゃう不思議…。

 なんでこれ…。
 あ、あれだプラネタリウムじゃん……ヤバいなこのメンタル…。

 ボケっとリピートして観ていると、透花が出てくる音がしてガシガシ涙を拭く。

「このテレビ、動画サイト観れたんですか…?」
「へ?」

 振り向いてしまった。
 顔を見た透花が一瞬固まったが「これは?」と何事もなさそうにしてくれたので「楓…」ズビッ。

 「あぁ、なんか…飲む?」と立てばスト、と透花が座り「はい、ありがとうございます」と言い再び再生…うわぁまたか…あぁ、しかもカップ、プラネタリウムで買ったやつだぁ…。

 でも、まぁ。
 休日感かも…と、癖でカフェインを入れてしまったと気付いたのはテーブルに置いてからだったが。

「あ、黒」
「…僕のは青…」

 たまには、まあ…と、肩からタオルを掛けた透花の頭を拭いてやる。
 そのうち「……良い…歌ですね…」とズビッとしてくれたのでなんだか…と、ついクイッと抱きしめてしまった。

「…だよねっ……このライブバージョン、ヤべぇわ…」

 なんだかんだでそれからゆっくり……「サトイさんのも聴きたい」と動画鑑賞が始まる。
 そうか、同じ空間と空気とはこれか…と染み染み“有休”を感じた。多分こういう事は初めてだ。

 楽しいことも、悲しいことも、全てこれから。
 過去でなく、始まったばかりでしかない。

「…今日はゆっくりしよ」
「はい」

 気付けば夕方まで、動画を流しながら眠っていた。

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