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波瀬が「裏口…の前に看板か…」と言ったので「あ、クローズにしときますよ?」と透花は自ら席を立ち、ドアに掛かる板をOPENからCLOSEにくるっと変え、内鍵も閉める。
波瀬がふ、と嬉しそうに「さぁおいで」と手を差し伸べ、裏口の外階段に案内してくれた。
思ったよりも窓から音が…と思ったと同時に「ドア開いてるし」と波瀬が言う。
踊り場、ドア前でタバコを吸っている…多分、バンドさん達がいる。ギターのTシャツを着た少し猫背の男が「あ、波瀬くん」と、低い声で言った。
「呼びに行くところだったんだけど、」
…切れ長の目…猫背さんがタバコを噛みこちらを見て「ん?」と言えば、残り3人もひょいひょいと覗き「ついに彼女出来たんだ」だの「えナニソレかわぃーね」と舌足らずだの「ソレ呼びは失礼だろ」だのと盛り上がっている…。
「あーどうも…」
小柄で綺麗めの…舌足らずさんが“Electric Rainbow”というシンプルな英語のTシャツを着ていた。これも波瀬作なんだろうか…?
電気の…虹?
「あれサトイの先輩…ちょっとやかましい方」
「あ、そうなんですね…」
コソッと小声で教えてくれた波瀬はすぐ「…思い出した、アンプでしたっけ?」と、登って行く。
「俺もタバコ吸いたいんで…そこに4人って…よく立ってますね…」
「あ、ごめん。俺達吸い終わったからあとはこの狂犬とどーぞ。ありがとね波瀬くん。
はいマキ、戻るよ」
舌足らずさんを…こちらは多分外国人さんだな…背が高い金髪さんが連れて行こうとするが「えでも待って波瀬彼女かわいくない?お名前はー?」と絡まれたので「青木です…」と答えておく。
「オニンギョさんってよりぃ、天使みたい。俺アマアキマギ」
…酔ってる?
波瀬はアマ…さんに「あまちゃん飲んでます?」と苦言を呈した。
「強いの出してるんで酒控えてくださいねー、そろそろ身体にガタきますよー」
「うっさいなぁ!どこで口説いたんっ」
長身さんが「はいはいマキ、お前はよパート撮ってマジで。波瀬くんよろしくね」と半ば強引に中へ引っ張り入れたその「マキ」さん…綺麗な人だけどギャップが凄いなと圧倒された…。
残った猫背さんは「あーそうそう」と再びタバコに火を点け、波瀬もそれに倣いタバコを吸い始める。
「昼だからワットわかんなくて、アンプ新しくしたし。うるさかったっしょ」
「…いや、ウチそんなに使ってないし電気屋じゃないんで…配線程度、しかもラキストレベルのバンドのしか弄った事ないんで…上の人に聞いた方が…」
「ソネさん今空けてくれてんのよ、俺たちツアーでしか活動しないから、今の期間だけね。あとソネさん根っからのハコバンだから。愛しのサトちゃんも呼んで………」
…睨んでいるわけじゃないのだろうが、前髪から見える目が鋭い…。
目が合い「あ、なんでもない後半」と言ったが「いやこの子恋人でもないしサトイはオーナーのなんで」と、波瀬が少し押され気味だ。
「患者というか、患者です」
「……何それエモい」
「いやよくわかんねぇっすその感性」
「あ、ごめん君、タバコ大丈夫な人?」
「え、あはい…」
「じゃ、落ちちゃうから上おいで」
…ゆったりした口調と程よい低音と晴れの陽気に眠くなりそう…目付きは怖いけどなんとなく良い人っぽい…。
「あ、ごめん」と波瀬が引き上げてくれ、3人位置が近くなる。
猫背さんがじーっと…無言で見てくるので少し居心地が悪いが、ジャパニーズ挨拶だと「こ、こんにちは、ハジメマシテ…」と硬くなってしまった。
「……こんにちは」
終わった。会話が。
「フミトさん、そんなにじっと見ると目ぇ怖いんすよ」
「あら、波瀬くんに言われたくなかったな。
ペルシャ猫みたいで綺麗だなと」
「そーいえば最近、猫迎えたらしいですね」
「そう、ミケだけど。君は天使をお迎えしたのね?」
「飼いたいっすけど、鎖に繋いで」
「もうそこまでしたの」
「違いますよ、誰から聞くのかなそれ…」
「サトちゃん」
「…やっぱりかー」
「この子はどこの子?」
「…珍しく人間に食い付きますね…厚労省の子です」
「あそうなの」
なんだか、なんだろう。
雰囲気が独特の足し算かも。
タバコを吸い終えさぁ、というタイミングで「俺が飼いたい」と猫背さんが言うのに「向いてそうだけどあんた多分廃人にするからダメだと思う」と会話している、多分自分の事だ。
中は…似た景色、見た事ある…柏村の物件?か何かで…何もないに等しい空間。
柏村の部屋@はもっと何もなく、むしろ電話しかなかったけれど…。
さてさてと波瀬が猫背さんに奥へ連れて行かれ、機械を弄り始める。
「俺思いついちった」
椅子に座りギターを抱えていたマキがジャラーンと鳴らせば「うるさいマキ。今こっちやってる」と猫背さんが振り向き苦言。
「なんでー、俺シャチョーなんだけど」
「こっちのアンプ聞こえな」
チャラーンと勝手に弾き始め「ふんふーふふふふふてーんし」と唄うのは確かに…クセは強いが上手だなぁ…と思った。
「て〜んしっ天使て〜んし、て〜んしっ天使てーんしー、てーんしせーやーく〜〜ぅ」
CMか何かで聴いたことがあるようなメロディ…。
「あまちゃぁあん!マジでうるせーっすこっちやってるから!」
「ん〜〜〜」
「楽しそうですね」
波瀬は悪態を吐きつつ…輝いていて。勿論バンドさん達も輝いていて。
ふいっと、さっきの長身さんが…たくさん太鼓がついたやつ…確かドラムという楽器。
一定のリズムで叩くのが凄い…手、二本で出来るんだ…と見ていると、片方前髪のギターを持った人が「暇なんでなんかやりましょ」と提案した。
「あんか好きな唄ある?」
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