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「楓、聞きました」
……「うわぁ、マジかよぅ…」と、自分が案外ダメージを食らっていたやつだ…。
「みんな、楽しそうでいいなって…」
「みんな?」
透花がふと振り向いたので、なんとなく安慈にも波瀬や慧や…テナントのことだろうとわかるが「今日みんなでバンドやってて…」と話し始める。
コミュニケーションについては少し考えようと思ていた矢先だし…と、だが慧が言うようにこれもいつも通りな気はしてきたが…。
「うん、そうだったんだ」
「はい。なんだか、ああやってやりたいことをやって、みんなでその空気に浸って…て、独特だけど、いいなって、思った…」
いつも、そうか。
「…どんな感じだったの?」
多分透花はこうして気持ちを伝えるのが少し下手くそな面があるけれど。
「先輩バンドさん?の機械を波瀬さんが直してあげていて」
「あー、波瀬くん得意そうだよね、確かに」
「音を出すやつ…」
「アンプかスピーカーかなぁ?俺あんまり詳しくないけどさ」
「そう、多分それです!
音を出して確認するみたいなんですが、なんか、勝手にみんな楽器弾いちゃったりして…仲良さそうで。
でもサトイさんもそういえば僕の入院中にギター弾き始めちゃったこと、あったなって…みんなああなのかな…いいですよね、なんか。なんて言っていいかわからないけど…」
「なんとなくわかるよ、相手が楽しそうだとこっちも楽しいな、ていうのさ。
…透花も、ジイちゃんがいいなら…て、よく言ってたよね」
「あ、はい」
「俺はあんな風になれてるのかな?透花」
駐車場に着き、車を開けるタイミング。
聞いたはいいが…透花がハッと見ているのもわかるのに、目が合わせられない心境だけど。
ふいっと目を見れば透花は「…わからない…ですが…」と…不安な返答。
「…僕は、どうですか?アンジさんには…」
「…あっ、確かにそう返されるとそうか…」
発車し「いまのところは、先々も、どこかには頭に置いていてさ」と言葉を考える。
でもそれって。
「…目先で言えばそれまではちゃんと…寛解だとかなんだとかしてね?これは、設計でしかないから気持ちとすればさ……でもそっか、俺はここまで君を考えてはいる」
「………そうですか」
なんとなく声色が下がったけれど「僕はやっぱりそしたら働きたくて、」と返ってくる。
そう言われると、ハッとする。
「スーパーの、あの」
「焦る必要はないと思っているよ。
先を見ればキリがないけど…わかった、なんとなく透花が少し焦る理由が」
「…んえ?」
声色が上がった。
「俺も焦ってるからかも。俺は家族でいられてるかなって…それが…やっぱりあの時からずっと忙しなく思ってるから…かも」
「…家族」
「まず俺ら…はは、書類上では親子なのにさ、」
「歳が…」
「だよな。そもそもイレギュラーだよなっ」
話していればわかってくるような。
「……シンプルに言えば、俺も今やりたいようにやってんだよね。ごめん、業務的っつーか一般論みたいなこと言っちゃったけど」
「…あ、そうだったんですね」
「そう。透花といたいと思ったからこうなってる…んだと思う。だって、他にも例は見てきたわけで」
「……それなら、よかった」
「だよな、多分重荷だと思っちゃったんでしょ?」
「え、あ…」
「それとも何かある?」
ユリシスと話したことがサーっと思い出されていく。なるほど…と。
「ユリシスに言われたんだよね、あんたおかしくない?て」
「え、そこ記憶ないかも、」
「あるところとないところがあるのか……。
ごめん、多分俺ユリシスが言いたいことはわかるんだけど…なんというか俺の問題で、そこが一番疎いと言うかイマイチ掴めないところでさ…。
俺なんか、先生曰くその…LGBTQ?に当てはまるかわからないけどデリケートなヤツらしいんだよね」
「…LGBTQ…?」
「うん。なんて言ってたかわからんけど…愛と性が上手く結びつかないんだ、昔から」
「…なるほど…でも、愛と性って必ずしも…」
言ってすぐ透花はあわあわしたらしい、「あ、ゆ、ユリシスが無礼をしたのはホントにすみませんあれは…っ」と顔を伏せる…うわぁ気まずいとこ残しやがったなあのクソガキ人格…。
「あ、それ言ったら俺もだしそこ気まずいからまず一瞬忘れよっ!な!」
「あはぁ……いやもう…」
「……とにかく、だ。ゆっくりでいいからまず整理して行こうな…ちなみに時計の意味は調べた…あの後…」
「へ?」
「あ、うん覚えてないなら」
「……〜〜っ!それが気持ち悪いんですよ〜〜っ!
でも波瀬さんに、一人として見るなら全部に干渉しなくてもって言われたんですぅ〜!」
「なるほど波瀬くん、上手いこと言ったな…。そうだね、透花はまずユリシスをどう考えるか、もだから…。
それも治療の一環かも。俺は別になんか、悪いことしなきゃいいんじゃね?平穏なら、と思ってる」
「……はい」
「透花は大変だなぁ。パンクする前にこうしてやっぱり話をしような。
あ、覚えてないかもしれないから透花にも言っとく。ユリシスと交換日記出来るようにあの部屋の机にノート置いとこうかと。ケータイでもいいけどまずユリシスには、現れたらまずそっちに行けって誘導も込めて言った。
自分の気持ちを抑え込まず、不調には気をつけて」
「…なるほど」
たまに俺も覗く、は言わないでいこう。
さて、たくさん買い物があるな、坂下家にも寄らねば…と張り切る透花を見て、この生活…手離したくないかも、と過ぎった。
これから暫くはこの調子のはずだから。
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