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いつも通りの時間に出勤すると、珍しく所長が一番乗りで出勤していた。
「あぁ、おはよう海江田」
「おはようございます」
「ところで、これ…」
ふと、1枚ハガキを渡される。
「…は?」
送り元は…知らない住所だが地元県内であり…海江田良優、と見覚えがある。
コンビニで買ったのだろう“喪中はがき”に二重線が引かれ、横に「三回忌」と心許ない字で書かれていた。
祖母、イサの三回忌の知らせだった。
…なるほど、三回忌ということは2年前に逝去している訳だが…。
「あぁ、すみませんね…」
「…昨日の夕方来たようで…」
「訃報連絡、来てないですよね?」
「来てないし誰からも聞いてない」
「…なんで俺の職知ってるんだろ…」
しかし宛先はアバウトに「厚生労働省麻薬取締部」とある。部署や課すら記されていないのに、よくここまで通ってきたものだ。
「日付も…うーん3日後とか、なんのつもりだよ…」
「渡そうか迷ったんだが…」
「ズラして…うーん…逆に行くのやめた方がいいのかなぁ…。
社宅に届いてないし、そんなに警戒の必要もないものなのか…」
「確かに…。行っても別にいいけど、有給まだあるよな?」
「ありますね。…何するかわからないからなぁ、こういうタイプは。筆跡はわかりませんが多分本物です。秘密保持書類持って」
「あ、それなら別に、親父さんの本人確認さえ済めばこっちで送る」
「あ、わかりました」
「お前確か、ばあさんと暮らしてたんじゃなかったっけ?」
「同居していただけですね。そもそも三回忌ってのを職場に送ってくるような非常識親なんて、どうでもいいかな…もしかしてそれで早くご出勤を?」
「あいや、単純に仕事もあったから、ひまわり会の」
…「仕事“も”」だなんて…。
気を遣ってくれたのだろうが、別に電話でもよかったのになと思いつつ「なんかすんませんね」とハガキを受け取りデスクにつく。
「ひまわり会はガサ段階に行った感じですか?」
「というより鴻池を…という方向に話が進みそうだと連絡が来た」
…それでは根本的解決に至らない気がするが…確かに、こちらの仕事はそれかと理解し「了解です」と、書類をじっくり眺める。
「海江田」
「はい?」
「お前、本当に大丈夫か?実家のこともそうだが…」
「父親の怪文書についてはすみません、ホントに」
「…怪文書…まぁ…それについてはノーコメントにするが…」
「自宅のことはこの生活基盤で行かなくちゃならんので…慣れないのは今だけですよ。
養子とも互いに手探りですが、そういう方向です」
「まぁ、そうだな…。
いざって時もまぁ、充分に金は入ってるだろうからこそ、無理せずに」
「流石にそこまで社畜じゃないです。有難いことにデスクワーク気味ですしね…」
大捕物でモグった後はこうして少しの期間、内勤になることがある。それは前から変わらないけれど…まだまだ事件は残っている。また不規則な生活になるだろう。
それも引っ括めて、慣れるなら今が一番良いのかもしれない。
「…1年。
平良が申し出てくれた。平良の任期が伸びたから、ある程度引き継ぎとかもな」
…1年?
「…なるほど…」
自分は4年コースになり、平良の異動が伸びた…。まぁ確かに、平良の実生活を聞けば、利害は一致していそうか。
案件的にはまた現場仕事になりそうで…平良は暗黙で江崎を情報屋にしてる…顔合わせのような意味合いもあったのかもしれない。あと一踏ん張りで部長に昇進出来そうな位置を確保していそうだ。
ふ、と、少し気持ちが紛れたような。
「色々ありがとうございます」
再び資料に目を通す。
…たまには、所長も言うように、自分事にも向き合うべきか。
毒親子については「なんなんだよ」と思ったが、まぁ、これが人生の分岐点と思えばいい…くらいには気を向けてみるか…。
透花には良くも悪くも見識は広げて欲しい…こんな形もあるんだよという形にはなるかと…最近、私生活を考える機会が圧倒的に増えている。
どうやって切り出そうかなと考えた結果、取り敢えず「今日は外食にしよっか」と透花にメールを送信。
先日丁度、これからの話や…家族の話をしたばかりだ。
「俺ん家なんて絶縁状態だったし、透花だって複雑な訳で…。ちゃんと、世の中にはなんとなく、家族ってこういう形もあるよって例がたくさんあるのにね」
「……そう、なのかも…」
「先を見ればキリがないけど…これから透花が結婚したりだとか就職したりだとかを、当たり前に考えたりするし、」
「……ごめんなさい、僕は先々とかまだ考えられてなくて…でも、いずれはアンジさんの元を去り一人で…アンジさんだって結婚したりするでしょうしね…」
「…うーんまぁ、俺はいまのところそれは考えてないけど…まぁ何があるかわからないから、今はない、くらいで…」
「おじいちゃんやお父さんと、アンジさんとの…感覚?は僕の中では違くて……比べるのも変なんですけど、なんというか…」
「うん、そりゃそう」
「なんだか違うけど一番……えっと、嫌じゃない…いや、みんな大好きだけども…上手く言葉が見つからないな…」
わかるような、わからないような。
…透花の表情にはどういう意味があったんだろう。
でも、自分だって言葉にしてすぐハッとしたし、それを汲むかのように俯いて控えめに…何かを抑え込んだような表情をさせたことには少しは驚いた。
少なくとも、透花も透花でこちらのことを考えてくれている…。
それ故にもどかしさも、温かさも感じていて。
自分は親からそこまで思われていたか…わからない、としておこうと思ったが、そもそも自分には今の生活がある。
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