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 忙しそうに丸太を選定しながら数を数える柳澤が見える。露が「お茶の用意もしてくる!」と家に入って行った。

「あぁ、タケさん」
「ご苦労様です」
「いやいや、さてそろそろ休憩しようかな…ん?」

 柳澤は栄が抱えた猫捕り器を見、「…なんか捕まった?」と聞いてくる。

「あぁいや、ただ…そうですね、少しそちらにも情報をと。
 あぁ、山菜もお裾分けを」
「どっちもありがてぇや!
 そうだ、こっちも。お露ちゃんの帯解きと言っていたし、短いのも用意しておいたよ」
「ありがたいです」
「あの店主に会うのは気まずいだろうと迷ったんだけど…多分これは直接行かないと売ってくれないだろうと」
「ですねぇ。何から何まで」
「まーまー。こっちも働かせて貰ってるしさ。
 そんで、情報ってのは、その箱かい?」
「そうです。これは恐らく昨日…日にちは空いてないと思いますが…猫捕りのようです」
「…あー、あっちの通りで鼠が流行してんだっけか…。こっちの山まで登って来たってこと?それにしちゃぁ…通りが二本も違う…」
「昨晩猫の鳴き声は確かにしてたんですよね。どうやって来たのかなぁと思っているんですが…。
 最近どうも…見慣れないなめし屋が来るようになっていまして。ただ、質が悪かったりするんですよ。そしてこれがポン、と置かれていたら、違法業者が出入りしているかもしれないなと」
「なるほど…こっちもよく数えとくわ。鼠に齧られてねぇかもよく見てみるか…仲間にも伝えとくよ。
 そっちはそれ以外に荒らされた形跡はあったかい?」
「今のところ目立ったものはこれしかなかったですね。文吉さんの管理のおかげです」
「訳ねぇよ!そりゃあこっちも仕事だしさ。
 しかし誰がどう入り込んだんだか…なんかあったら伝えてくれるとありがたい」
「わかりました」

 栄も家に戻ると、子猫を気にしながら露がお裾分け用の山菜の選別と茶を用意している。

「文吉さんと…そうだった、漁師の八兵衛さんにもよろしく頼んだよ」

 早速子猫を布に包んでマタタビを懐にしまい家を出る際…三味線が目に付く。

 自分のは猫皮だ。故に複雑な心境。
 革張りは大抵、子供を産む前の雌猫の腹を使う。三本糸の横に乳首が来るように貼るのだ。

 鳴き声が弱まっている。

 そういえばそうか、乳飲み子だよなと、栄は布の端に水を含ませ、子猫の口元に持って行く。

 気持ち程度にしかならないかもしれないが、ないよりは多分ましだろうと、そのまま一本先の薬屋へ向かった。

 布の端を吸う猫は腹が減っているのだろう、たまに鳴き、布の端をまた口元に持って行き…と少し繰り返しているうちに薬屋に着いた。

「いらっしゃ」
「珍しい場所にいるもんだな」

 …先客は大いに覚えがある男だった。

「…本当ですね、真庭まにわさん」
「ありゃあ…」

 薬屋がなんとも言えない反応をしたので「先程猫捕り器を見つけまして」と、先客と目を合わさずに話を進める。

「引っ掛かっていたのかい?」
「いえ。別件と言いますか…。
 マタタビが手に入ったのですが…何か、滋養強壮が付くようなものはありませんかね?」
「そりゃあ小さいね…乳の変わりか」
「はい。山で拾ったのでどうにか出来ないものかと」
「皮か?」

 ふっと茶化すように言う先客、真庭に「違いますよ」とつい返してしまったので仕方ないと、「ウチの子が可哀想だからと言ったもので」と口を効くことになってしまった。

「あぁ、売れない役者が置いていった子供だったか?」
「……」

 無視をしようと堅く決め「先生、どうですかね?」と話を戻す。

「そうだなぁ、豆富とうふ屋か寺に行った方が早いには早い。ウチで物々交換するとしても豆くらいしか…」
「あぁ、合ってよかったです。出来れば見合う数だけあればありがたい」
「…わかった。
 今言ったと思うが豆富を作る過程で出来る“豆乳”が良いようだが、大豆を煮込んで潰して液状にするんだよ。
 ウチにある豆で足りるか…マタタビと見合う量、というより売買してその中から豆を買う、なら話に乗れそうだ。それでいいかい?」
「…なるほど、わかりました」
「最近は豆富も庶民に出回り始めたが、作るならその手順で。豆乳を布に含ませて吸わせりゃいいが…ちょっと一緒に作ってみるか?
 大地主さん、あんたも流石にこんな小さい猫は持ってかねぇだろ?少し預かって貰えるか?」
「少々安くしてくれんならいいけど」
「…なら手間賃はこのマタタビからの代金で少し出します。それまで宜しくお願いしたい。悪いがこの場にいて欲しい」
「信用ないなぁ、質になんて流せないよ、こんな小さい畜生は」
「……何を言うんだが、この人は」

 あんた、人間の子供を質草扱いしたらしいじゃないか。

 一応言わないでおいた。これのようにはなりたくない。

 「はい待ってなね、仲良く」と薬屋が道具を取りに下がると、真庭はポツっと「お前は変わらないな、榮治」と言った。

「誰のことですか」
「あぁそうだったな、
「…貴方も呼ばれたくないでしょ、源氏名なんて」
「別に。この辺じゃ知られているし」
「…どうせなら1度聞いてみたかったんですが、何故変名したんですか?昔の名残すら全く、微塵もないじゃないですか、貴方は円満に前線を退いたのに。寧ろ源氏名の方が稼げるような」
「お前だって変名しただろう?」
「本気で言ってないですよね?私と貴方では境遇が違いましょうよ」
「まぁ、確かにお前のように字を取られたわけではないが。こちらにも事情があるんだよ、破門の方がまだいい」
「あぁ、使えなかったんですか。でも生家には」
「帰っていたらこんな、別人程の名になってない」

 …もしかして。

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