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「先に曽根崎さんがその、ね、相手の保険会社へと申し出たので、曽根崎さんがここへ通院する、という考えが先にとなったわけですよ…。
 …そうすると平良さんはどうなんだ?というのを意思確認したかったわけでして。あとは、脳神経科のかかりつけがあったわけですから、そっち一本の方が安心なんだろうか、とかね」
「なるほどなるほど、この件に関しては、先生のオススメ通り、こちらでみていただいて、それでも何かあればかかりつけに、て感じですよね?」
「そうですそうです」
「わかりました〜。
 あ、じゃあ面会も拒否った方がいいですね」
「わかりました、受付に通しておきます」

 カタカタと先生はパソコンをやりながら「もしかすると今回の件と関連する場合の検査をかかりつけで受診なされると…保険会社さんによってはショウカイジョウがあってもバイショウセイキュウが通らない…とかあるので、」と、またこいちゃんの方を向いた。

「そのへんはジムや保険会社にくわしく聞いてみてください」
「あ、わかりました」
「で……そうだ、入院か退院かでしたね…」
「あそうだった。どちらでもいいんでしたっけ」
「まぁはい」
「えっと…まとめると佐藤さんはここに通わない、て今なったんすよね?」
「まぁ…ですね…。お二方から、なのでショウカイジョウを書いて転院をウナガす方向で進めます」
「…ちなみに聞いていいかわからんですが佐藤くんは大丈夫な感じですか?」
「結構すっぱりあっさり即日退院でした。確かに動画でしたかね?あれ見ると心配はあると思いますが、それはそれ、でいいと思いますよ」

 先生がこっちを見て「とにもかくにも、まずは学くんのことですね」と言った。

「…こ、こいちゃん、」
「ん?どうした、学」
「ここ、こいちゃんの、ぎたぁ…」
「あー、まぁこんなもん、」
「こんなもんじゃないよっ!」

 少し頭の右の上がピンッと痛くなりぐっと親指で押さえると「え、学?」とか「どこか痛いかな?」と聞かれるけど。

「痛い、心が、痛い」
「……学、」

 こいちゃんがふっと両腕を掴み「大丈夫、あたしも心は痛いから、」と言ってくれて。

「……今のは、コメカミ?」
「………んん?」
「ここ?」

 こいちゃんも自分で、目の横あたりの…ツボ?を親指で押さえたので「うん、」と答えた。

「……3日、入院しときましょうかね…。
 学くん、いま、大きな声出したと思うけど」
「あっ!ご、ごめんなさ」
「いいんだよ。喉や首は?」

 言われてみれば「痛い…か、かも…」と思えてきた…。

「まずは治してから考えようね」
「………で、でも」

 ギターはもう、直らないよ。こいちゃんの大切なギター…。
 ボクはどうしてこいちゃんのギターで人を殴ろうとしてしまったんだろう。

 涙が出てきた。
 少しみんなが黙っていたけど「学、」とこいちゃんが言う。

「……人を殴るって、そういうことなんだよ。
 でもあたしの中ではギターよりも、まぁ、本当はさ、あたし、やめたし。ただ、どんなギセイをはらっても友達の大切なものを守れるヤツで良かったなって思ってる」
「ぅうでもぅ、」
「そうだね。じゃあ退院したら……いや。
 幸村くんが明日来てくれるって。お父さんと一緒に。幸村くん、元気だよ。それを確認しよう」
「……ホントに…?」
「うん」
「よ、よかっ、」
「だーかーらー!
 あんたも少しはマシになってないとね、幸村くんが心配しちゃうよ!わかった?」
「………わかった、」
「よし。
 先生、任せます。
 あ、ダンナなる人があらわれるかと思います。メガネじゃない方。それと手続きするんで…夕方くらいかな、来るの」 
「あ、わかりました。海江田さんでしたっけ……正直驚きましたよ、我々医師と近いようで遠い人で」
「…まぁ、はい」
「では、病室に行きましょうか。
 お母様」
「こいちゃん」
「あっ、学…」
「……こいちゃん様、夕方でしたら…準備などを」
「わかりました。また来ます」

 それからこいちゃんと一緒に病室へ行き、こいちゃんは準備をすると言って一回帰った。

 その間ボクは看護師さんに「紹介状、委任状、血栓、追及、経過、原則、賠償請求」を教わった。

「…今日の会話で覚えた言葉なの?」
「うん…」
「学くんスゴいね…」

 ばいしょうせいきゅう、字がムズかしい…。
 海江田さんが言っていたとおり、委任状、は、かわりに、という意味らしい。血栓は血が固まるやつ、追究は追い研究、経過は様子を見る、原則は規則、賠…償、請求、悪い事をされたからお金をもらう手続き…。

「ムズカしい……」
「そうよね…」
「ぼぼボク、も、わ、悪い事…ししたと、思う…」
「そう思えるのは良いこと…なのかも?」
「ムズカしい……」

 ドアが開く音。

 「あ、どうもはじめまして」と海江田さんの声がしたので「てん…」違う、「お父さん……?」と言えば「ははは〜…」と笑ってくれた。

「あれ、あか…あの、お母さんは?」
「茜」
「あ、そこはそうなんだね…ムズカしい…」
「ムズカしい!」

 と言えば去る看護師さんを見送り「そうだね〜…」と言いつつ机を見て「えっ!」とおどろいた。

「…何これ、漢字練習コウトウテクすぎない?」
「コウトウテクってど、ゆー字?」
「あ、はい…」

 高等テク。
 「意味は?」と聞くと「ん〜〜高度なテクニック…スゴいワザ」と考えている。

「……エリック・くクラプ…トンっ、レイラ、みたいな?」
「あ〜…わかんないけど多分そう…」
「ヴァ、バイオリンみたいな、音する…こいちゃんの、ギター…エリック・クラプトンのやつ、だった…」
「あ、そうなんだぁ…」
「レイラ、よく、な流られる、よ?」
「へー…調べよ、聴いたらわかる?」
「うん、CMとか、いっぱい流れ、てる、どこでも」
「……あ、世界2位の人なんだ…わかったかも」

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