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 …何が気に入らないんだろう。
 いつも通り、音楽室の前に来ただけだったのに。

 階段を登ってすぐ、同じクラスの佐藤と、オレのギターケースを抱えイカクするように座り込むまなぶ学くんが「これ、は!ゆ幸村、くんの!」と佐藤に言ったのが見えた。

「何言ってっかわかんねー。いーから貸せよそれ!曽根崎そねざきのなんだろ?俺ダチだし」
「ヤダ、ダメ!
 ぼぼ僕の、今、持ってく、から、」
「ぼぼぼ僕の〜って、はは、なになに?もっかい言って」
「どうしたの佐藤くん」

 泣きそうになっている学くんに「大丈夫だよ」と手を差しのべに行く。

「あ、曽根崎?なぁこいつおかしいんだけど」
「…何が?」
「つーか、それ貸してくんね?オレもやってみてー」
「…嫌だけどいいよ。
 学くん、ありがとう。大丈夫だよ」
「ゆゆ幸村くん、いいいいいの?い、嫌なら」
「うん、大丈夫」

 うつむき、ギターを抱きしめてくれていた腕を緩める学くんの頭をなで「本当にありがとう」と受け取ろうとした時。
 佐藤がひょいっと手を伸ばしたので「あっ」と、反射的にギターを掴んで阻止する。

「……ちょっと待ってよ」
「なんだよ貸すって言ったじゃん、」
「どうしてこんな事するの」
「は?だから、」
「怖がってるだろ!」

 ギターを離せば予想外だったらしい、佐藤は「おっ、」と後ろに少しよろけ、反動でギターが落ちてしまった。

 ガツン、バラン………。

「あっ!!」

 学くんがパニックになりかけ「それ、幸村、くんのっ、大切なぎぎ、ギターなのっ!!」と叫ぶように言う…。

「幸村く、くんの、お父、さんが、くれたのっ!!」
「うるせーな騒ぐなよ3年のクセに!」
「学くん、お…落ち着い…」

 そうだ。
 それは父さんが「お父さん記念…」と、わざわざその年のモデルを探して買ってくれた物で……でも。
 こんなとき、父さんならきっと。

「…落ち着こう。オレは大丈夫だから…。
 佐藤くん、それいいよ、使って。でも謝って学くんに。それからね。
 音楽室に練習用もあるよ?使うなら少し大切にして欲しい」
「そーやって済ましてんのがホント、ウザイんだよねお前」

 学くんをなだめ落ち着かせ、音楽室のドアを開ける。
 …何が気に入らないんだろう、ホント。

 「別にじゃあこれ、持ってこなくていーじゃん、何ジマンだし、どーせ由亜センパイにカッコつけてんだろ?ちょーしこくなし!」と言う佐藤のBGMはどうだっていい…。
 少し息を乱している学くんを座らせ「大丈夫?落ち着こう」と声を掛ける。

「ゆ幸村くんんっ、ぎたぁっ、」
「うん、ありがとう。後で取り返すし佐藤とはやりたくないし、今はやり過ご」
「あっっ!」

 また廊下を見て叫んだ学くんに続き「え?」と振り向くと、佐藤は「こんなんっ、」と、落ちたギターを蹴飛ばし始めた。

 つい「やめてよ!」と回収に向かってしまった。
 「うるせえ!」と佐藤が勢いあまってオレを突き飛ばしたことも原因だと思う。
 「わー!」とパニクった学くんにあ、どうしよう、この状況、と頭が回らないまま、学くんは……とっさだったのかもしれない、元掃除用具入れに隠してあった自分のギターを振りかぶる…。

 学くんは2歳下だ。
 大振りしてしまい転けそうになる前にギターが手を離れた、ボンッと、俺のギターより嫌な音がするなんせ学くんのギターは剥き出しだ。

 バタバタバタ…と聞こえる…。

 気がそがれたうちに「いって!」と…どうやら佐藤の胴にギターが当たったらしい、少しすっ飛ぶように横に転けたがそのまま反射的に学くんのギターを奪……。

 ベキッ、バラン。

 佐藤が振ったギター…丁度ボディのくぼみ部分に学くんの小さい頭が当たった……。

「……学くんっ!」

 弦でこすったのだろう、手からも血が出ていて「っえっ!」どうしよう、一瞬にして頭から血の気が引いてゆく…。
 「ひっ、」と佐藤はひよったが…学くんは「この野郎ぉぉお!」と…何故だ、どうして動けるのか…佐藤の胸ぐらを掴み…だけどその状態で気を失ったらしい、佐藤の胸にガツッと頭が落ちた。
 佐藤は廊下に頭を打ち付けたがそれよりも学くんを引っ叩くように退かせ「いでぇぇぇっっ!」と胸をぐっと掴んでいる。

「大丈夫!?ちょっと!」

 苦しそうに胸を押え足をジタバタする佐藤とそれに蹴られてうなる学くんを引き離し…大変なんてものじゃない、えっとこれは救急車なのか先生なのかと考えがまとまらない中、「何してんのっ!」と…聞きなじみのある女の子の声がした。

 見慣れた女の子…由亜ゆあちゃんが来てくれたからだと思う、腰が抜けかける。

 由亜ちゃんはケータイをこちらに向けていた。

「どういう状況なの!?」
「ゆ、由亜ちゃん、」
「先生…いや、幸村、学を起こしてその人は…わかんないから今すぐいちいちきゅー押して!早く!」
「へ」
「二人とも死んだらどうするの!先生は後!」

 そう言いながらケータイのボタンを押し耳に当てた由亜ちゃんは「もしもしパパ大変!人死ぬ!」と対処をしてくれたので、オレもわけがわからないまま119を押し何を答えたらいいかわからないうちに「センセー呼んでくるから!」と去った由亜ちゃんの背を見て……。

 気付けば救急車に乗っていた。

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