spinnengewebe7


罪悪感がちくちくと肌を刺す。
元気が取り柄のお前が具合が悪いだと? ――なんて、すぐにばれそうな予感があった。しかし木から落ちたのを見られていたせいか、思った以上に心配させてしまった。
嘘でしたと言えば、なぜ嘘をついたか話さなければならなくなる。
いつもどおり部屋に行って普通に振る舞えば、もう終わった話で済んだのだ。少し距離を置きたくて躊躇っていたのが悪い。
リヴァイは、病人を労わるよう一切触れることなく隣で寝ている。どんな顔をしているのか、目を開けて確かめられない。
罪悪感ばかりでなく、今までどおりにしようとするほどリヴァイの気持ちを感じて胸が苦しい。痛い。リヴァイはずっと同じ、まふゆの感じ方が変わってしまったんだ。
何かを考える暇もないくらい自分勝手に振り回してくれた方がいいのに。

「……」

リヴァイが自分で言ったのだ。ゴミで元気づける奴がいるか、と。じゃああのチョコレートはゴミじゃなかったんだ。
照れ隠しかと疑ってみるが、キスしたり抱っこしたりびっくりするくらい平然としておいて、なぜ元気づけるのに照れるんだと思わないでもない。
…それなら、どうして拾ったなどと言ったのだろう。

「兵長…?」

「どうした?」

即座に返ってきた声で、ずっとまふゆを見守ってくれていたのがわかる。

「……私のことはいいですから、寝てくださいね」

「それはこっちのセリフだ。雑念を捨てて寝ろ。頭の中を空に……ああ、もともと空だったか。空だから雑念が湧くのか?」

「もう…」

聞こうとして、聞いてもおしえてくれないだろうとあきらめる。まふゆ自身も嘘をついている後ろめたさがあるので深く追求できなかった。
疑問に思ったことはすぐに確かめたい性質だが、今回ばかりはやめにした。

リヴァイのしてくれたことを、大事に受け止めればそれでいいんだと思えた。

「……」

静けさが戻ると、また落ち着かなくなる。自分のベッドなのに居心地が悪い。
なんだか変な感じだ。何もしないで並んで寝るのが変だなんて、変だな。
拍子抜けしたような寂しいような気持ち。


……何を言ってるんだ。
心に蓋をしようと自分で決めたのに。
今のうちに。大きくなってしまわないうちに。


「おい」

「……」

「便所に行きてぇならさっさと行ってこい」

「あ…じゃあ失礼して…、なんて違いますよ。行きたくなったら自分で言えます」

「冗談だ。あんまりもぞもぞしてやがるから言ってやっただけだ」

「乙女に向かってそんな冗談やめてください」

「乙女?お前の冗談の方がきつい」

リヴァイがやれやれとため息をつく。

「こんなことやってたらいつまでも眠れねぇだろうが」

――自分からやっといて。
まふゆも、もうとため息をつく。

「兵長が変な冗談言うからじゃないですか」

「お前も乗るな。一瞬本気にした」

「つい…」

条件反射のようなものだ。勝手に口から出てしまう。

「まぁ多少は期待してたがな。…寝ろと言いながら邪魔してるんだからしょうもねぇ」

ふいに伸びてきた手に髪をかき上げられて、びくんと身体が跳ねた。
驚いたわけではない。
寝乱れた髪を直してくれる記憶が感覚となって甦った。

「ご…ごめんなさい、ちょっと…びっくりして…」

「……」

動きを止めた手はめずらしく躊躇っているように感じられた。
リヴァイは黙ったまま返事をしてくれない。ただじっとまふゆを見つめている。
こういう時の無表情な眼差しはいまだに慣れなかった。心の奥まで探られる、そんな気がして。
目を逸らして逃げたくても、それを許さない力に捕まる。少し前までは隠すものなど何もなかったけれど、今は知られたくないことも、恥ずかしいことも暴かれてしまいそうだ。
抱き合うのと似ている。身体のすべてを探られて暴かれて――と、よけいなことを思いつき、じわりと身体が熱くなった。

「……そういうことか。俺の我慢を無駄にしやがって」

リヴァイは身体を起こし、まふゆの顔を覗き込む。

「してほしいのか?」

悪戯するように髪を梳かれ、感触に震えながらぎゅっと目を閉じる。
ばれた。びっくりで押し通せなかった。それとも顔?顔に出ているんだろうか?どれだけいやらしい顔なんだと、見せたくなくて両手で覆い隠した。

「…病人じゃ、ないので…」

トイレは言えるがしてほしいとは言えない。それが精一杯だった。

「まさかお前の方から言い出すとはな」

顔を覆う手を外され、見下ろされる。
まふゆだって考えもしなかった。けれど、自分でも驚くくらい急激にあふれた欲求を抑えられそうになかった。

「慣らされた身体が疼く、か」

「――――」

違うと言うつもりが、途中で言葉を飲み込んでしまった。
問われると、自信を持って言い切ることができなかった。意識し始めた想いからくるものだと思っていたが、単に馴染んだ感触が欲しいのかもしれない。ぬくもりだけじゃなく、明らかにその先を望む自分がいる。

「否定しねぇのか。…相変わらず正直だな」

掴まれた腕ごと仰向けに倒され、口づけられた。

「なら、ねだってみろ。俺が自惚れるくらい欲しがってみせろ」

深く舌が入り込んだかと思えば促すように唇を食まれる。熱に浮かされ溶けそうな意識の中でリヴァイの声を聴く。

「愛だと勘違いするようにな」

首筋へと移る唇は笑いを含んでいるように感じられた。
きっとリヴァイ自身に向けての、自虐的な笑い。いつまでたっても応えないまふゆへの皮肉。

愛じゃなきゃだめなんだ。
愛じゃなきゃ。






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