ワンダーランドで愛を叫ぶ






ワンダーランドで愛を叫ぶ



日吉のクラスに教育実習生が来た。20代の若い男性だったので、女子から興味津々な質問攻めに合っていた。

「相談があれば男女問わず気軽にきてください。ちなみに恋愛相談も受け付けてます。その代わりといってはなんですが、氷帝のことをいろいろ教えてもらいたいです」

男から見ても外見は良い。いわゆるイケメンというやつだ。ただしややチャラい。
女子が言うには、ガキくさい同級生の男子と違って大人の魅力があるそうだ。
休み時間の廊下で毎日のように女子に囲まれている実習生を見ていたら、なんとなくつぐみが気になった。

…そういえばつぐみもやたらと手塚さん手塚さん言っていたな…

年上の魅力というなら手塚も似たようなものじゃないのか。中学生の手塚で例えるのもおかしな気がするが、少なくとも日吉よりは精神的に大人だ。
つぐみもそういう大人っぽい男に惹かれるだろうか?もしつぐみがこの場にいたら、あの輪の中に混じっていたりして…

「あ、ごめんなさい」

余所見をしていたらすれ違う人とぶつかってしまった。すみません、と日吉も頭を下げる。
隣のクラスに来たというもう一人の実習生だった。こちらは女性で、男子は落ち着かない様子だ。女子のようにあからさまではないが、浮き足立っているのが感じ取れる。クラスの女子が言っていたそっくりそのままを返して、女子生徒とは違う大人の女性の色気にどきどきする気持ちは、日吉にもとてもよくわかる。

そう。わかりすぎる。
女性の実習生を見るとつい妄想してしまう。

……いずれ、つぐみもあんなふうになるのか、と。

つぐみだって20歳を過ぎる頃には綺麗な大人の女性に変身するのだ。たぶん。きっと。
その頃にはどんくさくなくなっているに違いない。
逆に隣に立つ自分が子供っぽいと恥ずかしいので、頑張って大人にならなくてはと改めて決意する日吉だった。





今日は部活が休みの日だ。久しぶりに学校帰りにつぐみと待ち合わせをした。
駅の改札で待っているとつぐみが駆け寄ってきた。

「若くんお待たせ。ごめんね」

「ああ。お前が待つよりマシだろ」

「いつもそんなこと言ってる。…ありがと」

つぐみが手をつないできた。
いやそんな可愛い顔でお礼など言われると胸が痛む。単に、つぐみを待たせてナンパでもされたら嫌なだけだ。

「…行くか」

「うん。どこにする?」

「そうだな……つぐみは何か見たいものあるのか?」

「うーん…あ、雑貨屋さんに行きたい。寒くなってきたからマフラー欲しいな」

日吉は別にどこかへ行かなくても、つぐみと居られればなんでもかまわない。
ショッピングモールの中は混んでいた。こうしてみると、カップル率より女子高生の友達同士らしき客が目立つ。雑貨屋は特にそうだ。

騒めく店内でつぐみに話しかけられ、よく聞こえずに身を屈めるとマフラーで首を覆われた。

「?!おい、ちょっと待て…なんで俺の首に巻くんだ?お前のマフラーだろ」

「そうなんだけどお揃いもいいかなって。若くん寒がりじゃん。…あれ、男の子にはちょっと短いかな」

「勘弁してくれ…」

「うん、言うと思った。いいの、若くんにはマフラーよりこれ!」

そう言って今度は強引に耳当てをかぶせてきた。

「可愛い〜、似合うよ」

「可愛くない、似合わない。お前がしろ」

真っ白でふわふわの耳当ては冗談抜きにつぐみに似合いそうだ。

「えー、私のキャラじゃないよ」

「なんだよキャラって。なら俺も同じだろ」

「若くんは似合ってたよ」

「どんな基準なんだよ…」

その後、日吉に耳当てを買おうとするつぐみとの攻防戦になったが、つぐみのマフラーを日吉が選ぶことで落ち着かせた。

「ありがとう若くん、大事にするね」

「俺はただ選んだだけだ。礼を言われるようなことじゃない」

プレゼントしようとしたが、マフラーの分のお小遣いを親からもらったと言われ、つぐみが受け入れなかった。

「でも嬉しい」

「…ああ」

買ったばかりのマフラーを巻いたつぐみの頭を撫でた。
しかしこんな時、大人だったらさりげなくプレゼントしたりするかもしれない…などと思い、昼間の記憶が甦る。

「…そういえば、うちのクラスに教育実習生が来たんだ」

「へぇ、今の時期ってけっこうめずらしいよね?」

「中等部側の都合らしいけどな。それが大学の方から来た男だからクラスの女子がうるさくてな」

「あーうちもそうだったなぁ。大学生ってすごく大人に見えるんだよね。すぐ好きになっちゃう子とかいたよ」

「…お前は?やっぱりお前も気になったりしたか?」

「うーん、私は若くん一筋ですから。あでも推しは別ね」

「推し?初めて聞いたぞ」

喜びかけてがっくりと躓いた気分だ。

「あれ?言わなかったっけ。リヴァイ兵長!ちょーかっこいい!もう大好き!」

ほらほら、とつぐみがかばんからキーホルダーを見せる。正直そんなもの興味ない。

「…ふん、リヴァイ兵長ねぇ…万が一お前が調査兵団に入れても一日でクビだろ。とろいからリヴァイ兵長にブチ切れられるんじゃないか。それか巨人に食われるかだな」

「ひどい。そんなリアルな妄想しなくても」

つぐみの大好きを奪われてちょっと悔しかったので意地悪してみた。

「若くんは推しいないの?」

「そんなもの別にいない。俺は現実主義なんだよ」

「アイドルとか?」

「いや…遠い世界より身近ってことだ]

「身近?」

「…ていうかここまで言えばつぐみに決まってるだろ!いちいち言わせるな!まぁ正確には推しじゃないけど、つまり俺はつぐみだけで十分なんだよ」

恥ずかしい。きっと顔が紅いだろう。なぜ大声でこんなことを叫んでいるのか。

「…………若くんはいつもそうやって私を突き落とすんだよね」

「突き落とす?!なんか悪い意味に聞こえるんだが」

「じゃあ撃ち落とす?ずぎゅーんてなってそのまま落ちてく感じ」

「微妙な表現だが、意味はまぁわかる」

「ふふふ。若くん大好き」

「ふん。大好きはリヴァイ兵長なんだろ」

「それとこれとは別だよ」

「そこは言い直さないんだな…」

ならばやり返してやろうと、思いついたまま口にしていた。

「だったら俺も推しを作ってやる」

「えー楽しみ!何にするの?」

「まだ決めてない」

楽しみにされるのは非常に困る。何しろ思いつきなのだから。

「あ、リヴァイ兵長は?同担する?」

「嫌だね。絶対嫌だ」

つぐみの大好きを応援なんてお断りだ。

「即答…というか拒絶。じゃあ他に候補は?」

問われてふと思い出した。ピンク色の帽子みたいなうさぎ。あれを見た時からずっと思っていたことがある…。

「あれだ、ピンクのうさぎ。一緒にアニメ観ただろ」

どうして観ることになったのかはよく憶えていない。

「マイメロ?」

「あいつ見た目可愛いけど無神経でムカつくんだよ」

「そう?」

「黒い奴がかわいそうじゃないか」

「クロミね。ていうかムカつくのにマイメロ推しなの?クロミじゃなくて?」

「……いや。つぐみに似てると思って」

「私がマイメロに?可愛いから嬉しいけどなんか変なこと言ってなかった?無神経とかムカつくとか」

「実際そのとおりだろ」

「ひどーい!そんなふうに思ってたんだ」

と、つぐみがむくれるのも想定内だ。

「何がひどいだ。俺の前で平気で他の男ほめたりするくせに」

「ほめてなんてないよ」

「嘘つけ。リヴァイ兵長だとか手塚さんとか」

「…その二人は同じ分類なの?」

「俺以外は全部ひとくくりでいいんだよ」

「若くんてけっこう根に持つんだね…手塚さんはあの遭難の時リーダーだったからだよ。もう会うこともないんだしいいじゃん」

「俺はこれからも手塚さんと大会で顔を合わせるからな…ずっと忘れないぞ」

「いいよ別に。大会で手塚さんを見かけるたび私を思い出してくれるんでしょ」

「バーカ。手塚さんを見なくたって俺はいつでもつぐみのこと……、」

しまった。つい本音が。

「えっ?」

「帰るぞ」

「続きは?」

「さっき言ったから今日はもう言わない」

言いすぎはよくない。何事もほどほどに。実はめちゃくちゃ好きなんだと、バラしてしまうのは抵抗がある。

「いいことは何回言ったっていいじゃん」

「ほ、本屋につき合ってくれないか?」

場所なんてどこでもいい。恥ずかしくて居たたまれないから一刻も早く空気を変えたい。とにかく何かしないと落ち着かない気分だった。

「もー、話逸らして」

腕に抱きついてくるつぐみのぬくもりを感じながら、足早に本屋へと向かうのだった。




2024.11.21


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