王子のうたた寝


王子のうたた寝



ドキサバ





彩夏と協力し合って告白がうまくいって、ルンルンで戻ってきたら不機嫌そうなお父さんが立っていた。手をつないでいる若くんを睨むように見ている。
手塚さんは全員が船に乗り込むまで待機しているみたい。側には忍足さんがいて、お手伝いしているようだ。

「お、お父さん。こちら日吉若くんです。今日から私の彼氏!」

お父さんの機嫌を直そうと思っておちゃらけてみたけど、よく考えたら待っていてくれた手塚さんたちに失礼だったかもしれない。手塚さんの表情はいつもと変わらないのでわからなかったけど、忍足さんはにやにやと人の悪い笑みを浮かべている。

まさか人前で初めての彼氏を親に紹介することになるとは。

「……初めまして。日吉若です」

若くんも普段とあまり変わらない表情で淡々と頭を下げた。

「彼氏?君が?手塚くんのような子なら安心して娘を任せられるんだがね」

と、嫌な目つきでじろじろと若くんを見る。

「ちょっとお父さん変な冗談やめてよ。すみません手塚さん、嫌な思いさせて」

手塚さんと若くん二人に対して申し訳なくて慌ててしまう。

「俺は嫌な思いなどしていない。ああ、むしろありがたいな」

「ええっ?!」

「手塚は天然か?話がややこしくなるから黙っといてや」

「お父さんなんてなによ!私たちを騙してさんざん心配させて。若くんだけが俺がお父さんを見つけてやるから心配するなって言ってくれたんだから。私が落ち込んでないか毎日気にかけて励ましてくれて、こう見えてすっごく優しいんだから!」

「お嬢ちゃんもう勘弁したって。日吉、顔真っ赤っかで気絶寸前やん。手塚は手塚で胸押さえて苦しそうやし」

忍足さんの声でムキになっているのを自覚したが不満が抑えられなかった。

「お父さんなんて最低。人を見た目だけで判断しないでよね!」

握ったままだった手に少しだけ力がこめられた気がした。

「…見た目っちゅーのはつまり不愛想で生意気そうって意味なんやろうけど」

そうそうその通り、忍足さんもたまにはいいこと言ってくれる。

「ま、お父さん。うちの日吉は誤解されやすいけど礼儀正しくて責任感のあるええ子ですわ。この顔見てわかる通り極度の照れ屋なだけで、それを隠すために乱暴な言葉で悪ぶった態度とったり、好きな女の子にねちねち意地悪したり、」

「忍足さんは天然じゃなくてわざとですよね、余分が多いです」

「ええツッコミや」

もう、せっかく見直したのに。
忍足さんはいい人なのか単におもしろがりなのかよくわからない。

「手塚の貫禄と比べるのは酷ってもんやないですか、中二やし。けど安心して任せて大丈夫やとうちの部長も言うとります」

「悪かった、申し訳なかった。彼がこんなにも慕われているなんて、私の見る目がなかったようだ。本当に失礼した。日吉くん、ゆるしてもらえるだろうか?」

「別に気にしてないです」

お父さんやたら感激しているけど、それは忍足さんに対してでは?
お父さんの中で忍足さんの株が上がったのは明らかだ。
まあいいや。若くんの良さはこれからわからせてやるんだから。


「よくもまあすらすらと、口から出まかせが言えるもんですね」

言い方はアレだけど、若くんなりのお礼なんじゃないかと思ってしまう。

「全部が出まかせってわけやないで。それに、跡部がいたら俺と同じようにしたやろうしな」

お父さんと手塚さんを乗り場に残して、私たちは一足先に乗り込んだ。

「忍足さんと同じでおもしろがるだけでしょう」

「あの跡部が日吉が誤解されて黙っとるわけないやろ」

なんだかいいな。部長も部員も信頼し合って、友達とは違うんだろうけど良いところも悪いところも認め合ってる感じ。

「ああお嬢ちゃん、そんな寂しそうな顔せんとって。これからはお嬢ちゃんしか知らない日吉をぎょーさん知れるんやからな」

「忍足さん、余計なこと言うのやめてください」

私だけが知ってる若くん…。泣いた時抱きしめてくれたり虹を見せてくれたり…

「いやらしーな。顔紅いでお嬢ちゃん」

「えっ、ち、違いますよ!変なことなんて考えてません」

「いつまでも手ぇつないだまんまやしなぁ?」

焦って引っ込めようとしたけど若くんが強く握ってくる。

「?!」

「……」

私が見てもなぜか目を合わせてくれない。

「俺にかまわず好きなだけいちゃついてかまへんよ」

「いえ。まず先輩の力を借りなくても、お父さんを納得させるくらいになってみせます」

照れくさいのか、窓の外を見つめたまま言った。

「ほぉ」

「下剋上だ…」

「なんでやねん。そこは汚名返上やろ。……だそうですお父さん」

忍足さんの言葉にはっとして振り向くとお父さんが立っていた。

「いつの間に来てたの?!」

「そうだね、楽しみに待っているよ。だが…娘をやるのはまだまだ先だぞ」

「だ、誰もそんなこと言ってないでしょ!もうさっきから変なことばかりやめてよ!」

そんな遠い未来の話して、重いからってふられたらどうしてくれるのよ!
他人事だからって忍足さんは笑ってるし。…あれ、若くんも笑ってる?
なんだか二人とも本気で笑ってて、私一人でムキになってた。




20240520


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