そのうち来世で会いましょう

そのうち来世で会いましょう


「なーなー財前、ゲームしようぜ」

一人で遊ぶのに飽きたらしい切原が声をかけてくる。

「しつこいわ。せぇへんいうたやん。自分とこの副部長さんにまた怒られるで」

「やりそうなのが財前しかいねーんだもん、しょーがねーだろ」

ゲームは嫌いじゃないが切原とはやりたくない。一度つき合えばいつまでも絡んできてうるさそうだし…つき合わなくても絡んできているが。とにかくめんどくさいので関わりたくない。

「1クエ、1クエだけだからさ。な?」

「そんなん日吉にでも頼んだらええやん」

「おい、俺に押し付けるな」

海堂とどちらでもよかったのだが、日吉の名前が口から出た。

「なー頼むよ日吉、一日一回はやらないと寝れねー」

相手は誰でもかまわない切原は、すぐさま日吉のベッドに腰かける。

「なにが一回だ。俺が見るといつもやってるぞ」

「いーからいーからほらインしろよ」

「勝手に進めるな」

「しめ切っちゃうぜ?」

「ちょっ…待て」

「結局やるんか」

突っぱねて無視すればいいものを、負けず嫌いなのかなんなのか律儀につき合ってやる日吉に思わずツッコミたくなる。
おそらく財前の知らないところですでに何度かプレイしていたのだろう。なら最初から日吉を誘え、ともやもやしながら思う。

「フッ…」

海堂の笑い声が聴こえた。


財前は誰かと積極的に仲良くしようと思う性格ではないし、そもそも他人に関心がない。
しかし合宿所の同室で毎日一緒に生活していれば嫌でも目につく、耳に入る。
日吉は最初の印象とまったく違っていた。
イヤミったらしくてひねくれて嫌な奴で…とネガティブなイメージが先行した。
が、先程のように気さくな一面も見せる。
財前を含め、海堂、日吉と言葉が足りず誤解されがちな三人が揃ってしまって最初は険悪だった。切原がいたおかげで収まったといっても過言ではない。おそらく無意識だろうが、空気を変える能天気な明るさに助けられた。


「てめー日吉!太刀ぶん回すんじゃねーよ!」

「お前がいつまでも突っ立ってるのが悪いんだろ」

だから、切原が多少騒がしくても我慢しよう。





学校ごとの練習スケジュールで切原も海堂もいない静かな部屋の中。
財前がキーボードを打つ音と、おそらく本でも読んでいる日吉がページをめくる音しか聴こえない。自由時間の創作活動にはもってこいの環境だった。普段の学校生活では切原よりの連中に囲まれていたので、少々物足りなさを感じていたが、すぐ慣れた。もともとこちらの方が性に合っている。

「…今日のネタ、なんにしよ」

ブログのネタを探してネットを彷徨ううちに面白い見出しを見つけた。いや、なぜそんなものを面白いと思ったのか、考えるより先にクリックしていた。

『謎の物体、夜空を漂う』
航空機ではない、衛星やロケットやミサイルの情報も入っていない、西の空に赤く煌めく物体が流れていったのを何人もが目撃しているようだ。動画もいくつか上がっていて見てみるが、遠目過ぎてぼやけてしまい、どうとでも解釈できそうな出来の悪い画像ばかりだった。

「未確認飛行物体が全国で目撃されてるらしいで」

独り言のようにつぶやく。

「……俺も気になってた」

日吉の声がする。

(ちょろい)

期待通りの反応が面白くなる。氷帝の先輩たちに遊ばれるのもわかる気がする。

寝転んでノートパソコンに向かう財前の後ろから日吉が身を乗り出してくる。
ベッドが重みで沈んだ。
見られて困るものもないのでカーテンは開けたままだった。

「この動画はフェイクじゃないかと思ってる。もっとよく撮れてるのが――」

(…てか、近い近い)

「ほら、こっちの動画の方が――」

よほど夢中になっているらしく、お互いの手が触れるのもかまわずタッチパッド操作する。

(すかしてる普段とえらい違うやん)

他人の領域にどんどん踏み込んでくる様子は、まったくらしくない。興奮で我を忘れているとしか思えなかった。
財前が本気で興味を持っていると思って嬉しいのだろう。

(意外と単純やな…)

動画に見入っている日吉の横顔を眺める。
至近距離にいる財前をまるで意識していない。
もっと他人に対して警戒心の強い奴だと思っていた。

(…その前髪うっとうしくないんか)

などと思いながら、吸い寄せられるように頬にキスをしていた。
日吉はびくっと身体を震わせて、そしてようやく財前に目線を合わせてきた。

「お前……なんのつもりだ?」

「いやいやいや…自分でもようわからんわ」

強い目つきで睨みつけられて恐縮してしまう。何を言っても下手な言い訳になりそうな気がする。

「ニュースに関心があったんじゃないのか?!」

「——は?!…怒るとこそこなん?」

「あたりまえだろ。人を釣っておいて」

どう考えてもあたりまえではない。が、ふと気づいてしまった。
キスされて驚いてはいたが突き飛ばすでも罵るでもなく、ある意味冷静な態度。似たような経験があるのだろうと察しがつく。

「……慣れとるんや、男にされんの」

「…、別に慣れてない」

今、少し動揺した気がする。
らしくないのは日吉だけじゃない。財前自身も――ショックを受けていることに驚く。
興味がないはずの他人の事情に胸が騒めくなど。

「あー疲れたー、腹減ったー」

空気を破るように大きな声を上げながら、切原が部屋に入ってきた。日吉は弾かれたような勢いでベッドを離れる。

「くっそー、俺ばっかしごきやがって。なぁ日吉、なんか食いに行かねぇ?」

「あいにく俺はこれから練習だ」

「あそっか。氷帝は俺らの後だったな。…じゃ財前」

「切原と違って年中腹減ってへんわ」

「ちぇ、誰かいねぇかな」

「そのうち海堂が帰って来るだろ」

「おいおい。あの顔に睨まれながら食えっつーのかよ」

「食いすぎ防止でいいじゃないか」

日吉は軽口を叩きながら部屋を出ていった。

「……なんだよ気持ち悪ぃな、人の顔じろじろ見んな」

「あ、すまん」

最近親しげな切原が日吉の相手ではないかとつい様子を窺ってしまった。
変な奴、とつぶやいて切原は自分のベッドに横になる。
だが感情を隠せない切原とわかりやすい日吉では、何でもないフリをするのは無理がある。




「財前も打ちに来たんか」

コートへ出ると謙也と白石がいた。四天宝寺の誰かしらいると思っていたのでちょうどよかった。

「ま、そんなとこっすわ」

氷帝と不動峰が二面のコートを使っている。

「おお、侑士もやっとるな」

氷帝の忍足と向日。あの二人もよく日吉と一緒にいる。それと、日吉がよく口にする『跡部部長』。尊敬と憧れを抱いているのはわかるが、はたして恋愛感情も含まれるのだろうか。

「——、財前」

「はい?」

「なんやボーっとして。ネットのしすぎで寝不足か?」

一瞬、謙也の声が聴こえず反応が遅れてしまった。

「ま、そんなとこっすわ」

「心ここにあらずやな。…なんか心配事でもあるん?」

白石はちょっとした変化も見逃してはくれない。気遣いの人であるし誤魔化しのきかない人でもある。テニスの実力だけでなく、部長に抜擢される理由なのかもしれない。

「あるわけないやないですか」

心配事ではないので嘘はついていない。と、自分に言い聞かせる。

「そうか?ならええけど……」

白石の向こうにラリーを終えてコートを出る日吉の姿が見える。特に誰と会話するわけではなかった。あからさまでなくとも、何かしら雰囲気を感じ取れるかもしれないと思ったがのだが。
このまま気まずさを無視して忘れてほしい半面で、何事もなかったように終わらせるのは惜しい気もする。財前ばかりが意識していて感情を掻き乱されるなんて癪に障る。

――しかしあの時。日吉がどんな反応をしたら満足したのだろう?何を期待していたのだろう?

財前は自分自身に問うが、答えは見当たらなかった。
歌詞のように明確に言葉にできないこの厄介な気持ちをもう少しだけ感じてみようと思った。



2024.6.9



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