57嫉妬の火拳


もう、元の世界には帰れない。

もう、後戻りも出来ない。

それなら、いっそのこと、この世界に骨を埋める覚悟をした。







「うーん、と。エースさん今どこら辺なんだろ」

あんなに底なし沼に沈むような気持も、結局は頭をよぎったエースさんやオヤジさん達にかき消されて。

なんともまぁ、私の頭は単純だった。
いやぁ、ね?だって向こうの世界では私死んだわけでも行方不明って訳でもないんでしょーー?
そりゃぁ…まさかの自分自身がグル?だったとは思わないじゃん?っつーか!じゃああの個性暴走野郎はなんだったの!!?この世界に呼ばれたのと、ほんっと偶然に!いいタイミングで私は爆発に巻き込まれたってわけ?
この件に関しては…もう迷宮入りである…。たすけて…めいたんてい…。

と、まぁ。もやもやは残るが、異世界に来てしまった事に関しては…。うん、割り切ろう。
幸い個性もこの身に宿したまま、若干若返ったのは…花の10代咲き戻り、と言う事でこれもまたよしとしようじゃないか。

この前気が付いた使用に支障が出たいくつかの個性も、普段から大して使ってない様な個性だったし、まぁ、ね。

そんな感じで私はこのあり得ないけどあり得た状況を受け入れた。

この世で起きる偶然は、全て必然だ。なんて、誰かが言っていた。
私がこの世界に呼ばれることは…必然だったのか、何のために呼ばれたのか、何をすればいいのか…。

「ん?あんぱんパイセンみたいなこと考えちゃったな?」

とりあえず!目先の目標はティーチさん拿捕!そして夢の中のエースさん救出大作戦!の二本立てかな!

「ううーーん、やっぱビブルカードだけじゃ方角しか分かんないんだよねぇ」
「ほなら火拳の小僧に使わせたあの隼に居場所きけばええやんな?」

ギュイギュイってばっちゃんが私に言う。

アラバスタで再会し、その後各々別れた時に。
エースさんには内緒で1羽のハヤブサさんを、彼の旅の動向を監視…って訳じゃないけど、まぁ、念のため。と思い同行させておいた。

必要となれば鳥さん伝言リレーで私の耳に情報が入る仕組みだ。

そして、私は…ふふ、とあるアイテムをハヤブサさんに託してあるのだ!ふっふっふ!!


「ばっちゃん…実はエースさんの元へ確実にワープできる手段があるのだ!」
「な、なにぃいい!!!!ワレェあの小僧大好きすぎか!!!??」
「…えっ、ちょっと…やめてよぉ」
「めっちゃ照れとるやんけぇ!!!!!」

ラブラブか!!おどれら!ラブラブか!!

ギョエギョエ騒がしいばっちゃんに、私…もうエースさんへの気持ち、隠しきれない…っ、とめっちゃ今更恥ずかしくなって。
キャーー!って手で顔を覆ってばっちゃんの背に顔を埋めて悶えた。

もうむりくない?むりみじゃない?めっちゃえっちだってしたのに!今更!絶対もうエースさんの目みれないよぉ〜〜!!

「世界帰れんてぎゃーつか泣いとった奴とは思えん切り替えぶりやな…」
「ばっちゃん。私、愛に生きる。愛と、勇気だけがお友達なんだよ。って偉大なパイセンが言ってた。」

うん、超有名な元祖自己犠牲ヒーローと名高いあんぱんの先輩の事だ。間違いはない。

誰やねん。と呆れるばっちゃんを他所に、私はカバンをゴソゴソと漁り。

「じゃぁーーーん!!GPS誘導装置ぃ〜〜!ハヤブサさんに発信機持たせてあるからこの母機でエースさんは何処にいるのか一目瞭然!座標もばっちり!文明の利器!流石!私の頭脳!発目ちゃんに作ってもらった設計図記憶しててよかったーー!」

もともとは、向こうの世界での度重なる私のこの重度な方向音痴に頭を怒りで爆発させたウチのボス。勝己がヒーロー活動のサポート技術部へと掛け合って作って貰った言わば電子地図。

あっちでは軌道衛星から送られてくる地図情報を受信して、知らぬ土地でも座標が表示されることによりワープでの移動が可能になったため、迷子になる事はかなり減ったが。

さすがにこっちの世界に衛星打ち上げられてるとか思えないし…なんたって、電話がでんでんむし!
だからこちらでは母機の電波受信器が子機の電波発信機の信号を探知して、その場の座標を示すようにあれよこれよと改良して部品を創造し、組み立てた代物である!すげぇ私!天才!まさか校長先生の“ハイスペック”が役に立つとはね!!

「と、言うわけで。エースさんの元へはこれでひとっ飛びできるってぇ〜わけよ!」
「…お嬢、それ、すとーかーちゃうんか」

うるせぇ!!爆発怪鳥!私も作ってるときちょっと思ったわ!!

「…えふん、も、モビーちゃんにも?子機?置いてきた?し?」
べ、べつに!エースさんの為だけに作ったとか違うし?もともとモビーちゃんの帰還用に作ったんだし?

「へーへー、わかったから、ほなら一気に小僧ンとこまでいくでぇ〜愛しのダーリンに会いにいこなー」
「っば!!!だだだっだだだーりんとかじゃないし!!!!!」


ばかばか!とばっちゃんを軽く叩いて私は受信機で拾った座標の位置を確認してゲートを作った。

エースさん!エースさん!今あいにいきます!




ぶわわ、と飛び出た空から見つけた見覚えある人影に、私はカッッと目を見開きばっちゃんの背から身を地上のソイツに投じた。

「っば!お嬢何してんねん!!!」

ばっちゃんの驚く声なんか私の耳には入らなかった。

だって!

だって!!!!エースさんが!!エースさんが!!!あそこにいる!!



ビュンビュンと風圧を感じながら落下する私は、目下に居る彼へ飛びつくように両腕ををばっと広げ…






「テンメェエエエエ!!!何浮気しとんのじゃァアアアアアア!!!!!くらえ!!!火拳!!!!!!!」

ドゴォーーーーン

「ぎゃぁあああああああ!!!!!!!っちょ、え!!!????なまえ!!!!????」
「きゃぁあっっ」


燃焼の個性と、ワンフォーオールの5%くらいの力でエースさんの代名詞の火拳をぶち込んでやった。







「………」
「だ、だからな?なまえ、俺はただこのお嬢さんに助けて頂いただけであってだな?」

むっすぅーー、とぶすくれる私を宥める様にエースさんがこの状況の説明をしている。
ワープで飛んだ先で目に入ったのは、随分とラフな格好のエースさんと、これまた随分と可愛らしい…私とは正反対な朗らかでぽわぽわした女の子と楽しそうに(見えた)見つめあって(そう見えた)話しているエースさんの姿だった。

「あ、あの、ええと、申し遅れました。わたしモーダと申します」
「………メモリーです、お庭焼いちゃってごめんなさい」

すぐに直します、と緑化の個性で焼き禿げてしまった奇麗な芝生の緑地を私は地に手を付けて直して行った。

「……なまえ、?えっと、?なんでまた、ここに?」
「何?私が来ちゃまずい状況だった?ん?モーダちゃん、私と違って素直でかわいい子だね?」

ぺたぺたと地面に手を付いてしゃがみ込みながら緑化していく私に、エースさんが近寄って来てしゃがみ込めば、
私の顔を覗き込むようにして目線が合う。

「だ、だからぁ、俺川に落ちて溺れちまった所をモーダに拾われて助けてもらったんだって!それだけ!」
「ふぅーーん。」

ふぅん、と立ち上がってエースさんの頭の先から足の先まで見れば、
「帽子、アクセ、ベルトもしてないし。靴もサンダル…何、脱いだの?脱いで何してたの?ナニしたの?ねぇ?しかもシャツ、誰のソレ?ねぇ?したの?あの子と、したの??」

っどーーーみても!ズボンだけでベルトもポーチもアクセも外したその恰好は、私と寝た次の日のエースさんの定番の恰好だ。
こ、このやろぉーー…いや、いや。わかるよ?わかるよ?溺れたんでしょ?そうだよね、服濡れちゃうもんね?それで脱いだんだよね?わかるよ?でもさぁーーでもさぁーーーーー。


めっちゃ、あの子と…いい雰囲気で笑いあって(そう見えた)たじゃぁーん!!!
ミルクなんか飲んじゃってさぁーー!いつもは飲まないくせにさぁーー!!!!

ーお前のミルク、おいしいぜ?ー

ってかぁぁ〜〜〜???あああん????

キィイーー!!!女狐め!!!!!

いや、狐は私か。

「…はぁ…、なまえ。仮にもモーダは恩人だ。変に思うのはやめてくんねぇか?」
「……ッ、」

聞き分けの無い私に、エースさんがちょっとイラってしながら呆れた…。
ちがう、そんな顔してほしくて会いに来たんじゃない…もん…。


「………ごめんな、さい…。…嫌いにならないで…」

段々と、消え入りそうなか細い声で。

嫌いにならないで、と。エースさんの手を取り、俯きながら私は言った。

「バカ、なるわけねぇだろ。ったく、焼くのは餅だけにしろってな、シシシ」

バッ、と顔を上げてエースさんを見れば、私の頭をよしよししながら「なまえちゃんってば、妬いちゃった?」と意地悪な顔で覗き込んできて、ちゅっと軽いリップ音を唇で鳴らしてから離れて行った。

「さぁーて、嫁さんのしでかした事は俺も謝ってやんねぇとなぁ〜」

頭の後ろに手を組んで、上機嫌にエースさんはモーダちゃんのおうちのある方へと軽い足取りで向かって行った。

私は、というと…

「よ、よめ………えーす、さんの、およめ…さん…」
カァーッ、と全身が焼けた様に熱くなってその場で立ち尽くしたのであった。







「あの、モーダちゃん、ほんとに酷いことしてごめんなさい…。そしてエースさん助けてくれてありがとう」

頭を深く下げて謝れば、モーダちゃんはあわあわと私の身を起こしてくれて、

「いいえ!びっくりしましたけど、牧場も奇麗にしてもらって!牛さん達も喜んでますから、きにしないで?」

それに、噂のイナリ宅配さんに会えるなんて感激です!!、と握手を求められて両手でがっちり握られた手をブンブンとモーダちゃんは興奮気味にふってきた。え?かわいいな?この子。

「それで、あの…!イナリ宅配さんって、その…お手紙も届けて頂けるんですか…?」
「え?もちろん!ご依頼あれば何でもお届けしますよ!」

パァアと花が咲くように喜んで笑うモーダちゃんに、改めて内心でひでぇ事しちまったぜ…ヒーローとしてあってはならぬ事や…、と自己嫌悪した。

「そういやぁ、おまえさっき届けてぇもんがあるって言ってたもんな?っし、命の恩人だし、コイツが迷惑かけちまった事だし…俺達がソレとどけてやるよ!」

「わぁ!ありがとうございます!!…あの、つかぬ事をお伺いしますが…イナリ宅配さんって、その…火拳さんとは…恋人、さん?とか…きゃぁ、私ってば!ごめんなさい!」

「…え?」
急にきゃあきゃあと照れだしたモーダちゃんが、「先ほど…お二人が、その、キス…しているところ、見ちゃって…」、と頬を赤らめておずおずと聞いてくるもんだから、私も赤くなっているであろう顔を両手でバっと覆ってから気が付いた。

…お面するの忘れてたーーー!!!!

「シシシ、そうだ。コイツ、俺の女」

「…え?」

きゃぁあ!やっぱりー!とぴょんぴょん跳ねてるモーダちゃんを横目に私は何ってんだコイツーー!!!と内心大慌てである。

「わわわわわ!!!世間には秘密って言ったじゃんかー!!ももももモーダちゃん!!今日!!ここで!!見て!聞いたことは!!!どうぞご内密に!!!!!!」

ずさぁあぁあっと床に土下座して懇願すれば慌てたモーダちゃんに引き起こされて、彼女は絶対に秘密にしますぅう!!と、私の勢いに気圧されたのか半泣きである。

「ったく、どーせいつかはバレるんだから、別に隠さなくたっていいだろうが…」
「もー!!海軍相手に仕事してんの!やりにくくなんじゃん!!!!お尋ね者になんてなった日にゃヒーローにとって赤っ恥も良い所だわ!!!」


へーへー、そうですかー。って、軽くあしらわれる私。解せぬ。

「あ、そう言えば。お届け先はどちらで?」
「えっと、ココに…海軍さんの、G-2支部にいらっしゃるこの方へ、」
「あ〜、はいはい、この人ね。」

G-2支部ね、はいはい、あのコーヒーがめっっっっっちゃ苦い所ね〜

「ん?お前、知ってる奴か?」
「うん、何回か行った事あるところー。モーダちゃんこれ急ぎ?そうだったら今すぐにでも届けて来るよ!」

「ええ!いいんですか!」

パァと表情を綻ばせたモーダちゃんに、私とエースさんは顔を見合わせてから

「「任せとけ!」」

って、おめぇはお留守番しとけや!!






嫁の早とちり

モーダちゃんのおうちを出た私達はG-2支部へ向かうべく、ワープゲートをぶわわと展開していれば
「そういや、なまえ。突然どうした?なんかあったか?」、と少し心配そうにエースさんに聞かれて。
私はボソっと、「…会いたくなって、」と言えばエースさんに突然身を引かれて耳元で「今夜覚悟してろ」と悪い顔で言われた。

お腹がきゅぅんってした…。