58好きの魔法


よっしゃG-2いくぜぇーー!って、ワープゲートを展開していざいかん!と片足突っ込んで気が付いた。

「…や、エースさん。え?まじでついてくんの?」
「え?いくだろ?」
「え?」
「え?」


ちょ、ちょっと、ちょっといったん落ち着こうか。と、ゲートを閉じてエースさんに向かい合った。

「まって、えっと…え?私がちゃちゃっと行ってちゃっと渡してささっと帰ってくるけど、え?エースさん、え?海軍だよ?行先?わかってる?」
「や、面白そうだなって。」

お も し ろ そ う !

「………正面玄関の所にゲート開いたけど…閉じて良かったわ…」
危うくイナリ宅配のメモリーと白ひげ海賊団火拳のエースが仲良く揃ってお届け物でーす!とか馬鹿な状況になるところだった…しかもあそこの支部って入り口、船の乗り付けん所から直だったよね……私…ちょっと浮かれすぎじゃない…?脳内フラワーガーデンすぎない?…ちょっと、これ、気を引き締めていこ?ね?なまえ?あなたはプロヒーローなのよ?色恋で頭沸きすぎたかな、これ。

「…ゲートくぐって行くと門兵さん居る所に直接かち合うんだけど。しかも、エースさんと?二人で?こんにちわしちゃったら…私の信用問題がた落ちだよね?」
「まぁまぁまぁ、じゃぁなまえはお留守番っつーことで?そもそも俺が受けた相談だったしな!」
「いやいやいや、私だって依頼されたよ?私が行けばよくない?何の問題も無いよね」
「あ?モーダに命救われてんだ、ちゃんと受けた恩は返さなきゃだろ。」
「あ?てめぇは海賊だってこと忘れてんじゃないの?」
「あ?」
「あ?」


いや、私なんでエースさんとメンチきりあってんの?
そもそも全然引かねぇな!このメラメラめ!!!私が代わりに行くってんだからもうそれでよくない!?なんなん!?こいつ!?
もー!埒が明かない!、エースさん置いて一人で行くから!って、ばっちゃんに乗ろうとした時。
手に持っていたモーダちゃんからのお手紙をエースさんにひょいっと掠め取られた。

「ああー!!!ちょっと!!」
「シシシ、隙ありってな!じゃ!ちょっくら行ってくっから!」

そういうや否や、ぷかぷかと浮かせていたストライカーにエースさんは飛び乗ってあっという間に沖の方へと消えて行ってしまった。

「………は?」








突然の事に、反応が遅れてしまった私は、ばっちゃんの「追わんくてええんか?」の一言でハッと我に返り慌ててゲートを作って潜り抜けた。

で、潜り抜けて思った。
え。わたし、お届け物、エースさんに持ってかれちゃったけど…エースさんより早くついちゃったな?

って、。


「ご、ごめんくださぁーい!」
「っわぁ!…っと、い、イナリ宅配さんでしたか!」

ぶわわっといきなり現れれば目の前にいた海兵さんに大層驚かれてしまって申し訳ない気持ちになる。
毎度の事だけれども、どの支部へ行っても急に現れる私に海兵さんを驚かせてしまうので…最近ではちょっと入り口から離れた空中にゲート繋いでばっちゃんで向かう、とかしてるけど…ぶっちゃけめんどくさい事極まりない。

「あはは…突然すみません、コミール中将にお届け物がありましてお伺いしました、」
ブツはこれから来るだろうけど…と、内心考えながら。
これから、もう間もなく来るであろうエースさんをどうすっかなぁ、と…冷や汗だらだらである。

「それはそれは、毎度ご苦労様です!ただいま、案内の者を呼びますので。少々此方にてお待ちください!」

お願いします、と私は海兵さんにお辞儀をしてその場で待機する。
「あ、イナリさんどうも」なんて、ちょうど寄港した軍艦の方達から挨拶を頂き、私も「お邪魔してます、お帰りなさい」とご挨拶をすれば軍艦の将校さんにちょうど、お願いしたいものが…とご依頼を頂いたので私は軍艦の方へとお邪魔して将校さんのご依頼を承った。


「しかし…案内によこすと言った奴はまだかね?おい、そこの君確認して来たまえ。」

はッ!、と傍にいた海兵さんが敬礼して私を案内する、と、来るはずの方が未だに来ない事を疑問に思った将校さんに命じられて確認に行けば、何か手違いがあったのか…その人は未だ来ず…。

いつまでも待たせるのも、と他の海兵さんに私は建物内へと案内されていった。


本来の、案内役だった方は…
岩場の陰でボコ殴りにされて追い剥ぎされているのを発見されたのは、事が済んだ後の事だった。






中へと案内され、私はまた待機中だ。
コミール中将は只今会議中、との事で私は“海軍珈琲”と掲げられた看板の所にあるロビー?みたいな所で、相変わらず超絶にがにがのコーヒーを啜っている。

しっかし…あのメラメラ野郎…どこ行きやがった…。
はぁー、と溜息をついて。駐屯地内に入った時、やたら騒がしく慌ただしい海兵さん達が館内に侵入者が…それも火拳のエースだ!と、大騒ぎである。
あいつ…なにやっとんじゃ…っ!と頭を抱えたのは言うまでもない。

それにしても…巧妙に隠れているのか、未だその姿は確認できずに私は内心ひやっひやだ。

「(うまく逃がしてあげれればいいんだけど…そもそもアイツ、どこに…)」
コーヒーを啜りながらも、キョロキョロと目線をあっちへこっちへ向けるがエースさんの姿は見当たらなく、そうこうしている間に会議が終わったのか。
会議室からはぞろぞろと将校さん達が現れた。

「やぁやぁ、イナリ宅配さん。すまないね、待たせてしまった様で!」
「コミール中将、どうもご無沙汰しております。相変わらず…コーヒーめちゃニガですね」

ほんと、ワシもこれきらい…。と、言いながらも うぇーーっ て顔しながらコーヒーを啜りだした中将さんに苦笑いすれば、会議室から出て来た将校さんの中に、やたら見覚えのある顔を発見した。

「「(…あ)」」

たぶん、今、同じ事考えてる。 あ って顔してる、こいつ…は?なにしてんの…?


ってゆうか………




「(えぇえええすぅううう??!!スーツかっこよすぎないいぃえええ???)」

むりくない!?むりくない!!?
なんか変なひげ付けてるけど!!むりくない!?ネクタイちょーーまがってんの!上手に結べなかったんだねぇ!かわいすぎない!!??ええええっ!

まじで、むりだった。惚れた弱みって怖いって思った、だってこんなん絶対「にあわねぇーー!!」ってゲラゲラ笑うポイントなはずなのに、めっちゃ…かっこよ…えぇ…えぇ…ほら、スーツって…何割か増しでカッコよく見えるって、言うし…えぇ、むり、すき。


コーヒー片手に内心大荒れだが、どこ吹く風かな?って如く見た目は冷静を保っていれば、エースさんは私と目が合ってちょっと驚いた後に、ぱちん、ってウィンクしてきた。

しんだ。

「メ、メモリー殿?コーヒーが垂れて…!」
「ああ、すみません、苦すぎて。」

だばぁ、っと口からコーヒー垂らしてしまって、中将さんがハンカチを差し出してくれたが。
あんたも口元コーヒーだばだばじゃねぇか!…ってツッコミは私の横を颯爽と通り過ぎてったエースさんのニヤリ顔で全部吹き飛んだ。

「コミール中将!会議お疲れ様です!!間もなく、極秘情報船が寄港するとの事でお知らせに参りました!」
「予定より少し遅れたようだが…あぁ、メモリーさんすまないね度々待たせてしまって、ワシに荷物があるとか?」

「あっ!ええと、何やらお忙しい様なので…中将さんの御用が済みましたらで構いませんよ!」
(だって荷物エースさんにとられてんだよぉお!)

「申し訳ないね、ではもう少々お待ちいただけるかな?」
そう言って、中将さんは支部へと寄港する極秘情報船を迎えるべく海兵さんと共に船着き場の方へと向かって行った。


中将さん達が見えなくなったころ、私はエースさんを探すべく身を翻した途端。
グイっと物陰に引っ張り込まれて壁に背を少し打ち付け、それに抗議しようとすれば顔の横にトン、と手を付いたのは予想通りエースさんだ。

「よぉー、なまえちゃん」
「…あんた…なにやってんの…」

そのへたくそに結ばれたネクタイをグイっと引っ張ってやればエースさんはニシシと笑って、近づいた顔を更に近づけて私の唇をちゅっとかすめていった。変なおひげが少しくすぐったい。

「…っ!ちょっ!!ばか!!」
「なんか、こういう所でイケナイ事すんのも、燃えるな?」

燃えるのはテメェだけにしとけよメラメラ野郎!!!!!!
ゴシィって口元を手で拭えばエースさんは「なに?照れてんの?かわいいね?」って追い打ちをかけて来て、もう、やめてっ、その恰好で迫るの、やめてぇっ!

シャラ、と音を立ててお面を少しズラして私の顔を見るエースさんは、ニタァってした悪い顔をしている。

「おめぇ、顔まぁっか」
「ううううう…っぅるさぁいっはやくモーダちゃんからの手紙かえせ!」

やぁだね、っべー。って、エースさんが私から身を離したと思えば物陰から堂々と出て行って、翻した真っ白な厳ついコートの背には、いつものオヤジさんの誇りでは無く、“正義” と書かれた二文字が誇り高く刻まれていた。

エースさんが…もしも、あっちの世界でヒーローだったら…きっとビルボートチャートの上位に入っちゃいそうだなぁ…って、ちょっとありもしない事を妄想してしまった。

轟くんのパッパと個性被るけど。ふふ。


「いや。ふふ とか笑ってる場合じゃねぇ!」

こらまてーー!!と物陰を飛び出したはいいが……

「………ど、どこいった!!どこだ!ここ!!!!」

方向音痴の私には、この施設内を1人で出歩くなんて無謀が過ぎた。










「ったく!!!おめぇ寄りにもよって海軍の奴らん所で迷子になんじゃねぇよ!!バカタレ!」
「………エースさんのせいじゃん…」

あの後、機密船が海賊の腹いせ放火に合いG-2支部はてんやわんやの大騒ぎとなってしまった。
大事な情報が!と皆一様に頭を抱える中、あろうことかエースさんが燃え盛る船へと飛び込んでいって逃げ遅れた海兵さんと、機密情報が入ったアタッシュケースを持ちコミール中将の元へと行けば。

まぁ、バレるよね。

支部総出の鬼ごっこをおっぱじめたエースさんに途中ばったりと奇跡的に出くわしたと思えばそのまま掻っ攫うように抱えられ、

「おらぁ!人質がどうなってもいいのかぁー!!」って、ちょーー棒読みで海兵さん達から私を抱えて逃げるこの野郎。

「宅配屋が人質にされたぁーー!!なんてやつだ!火拳のエースめぇ!!!」と、大慌てで私を救出しようとする海兵さん達を飛び越えて、エースさんはコミール中将へ「いっけね、忘れた!」とモーダちゃんからのお手紙を渡して、速攻トンズラこいた。

で、今に至る。


ストライカーで颯爽と大海原を駆ける中、ばっちゃんは上空で並走して。
私はストライカーの先の方でエースさんに向き合う形でブスッとほっぺを膨らませて抗議の眼差しを向ける。
ローブとお面は脱いでばっちゃんのカバンの中だ。お面をしてると下の方でしか結えない髪の毛を海風にバサバサと撫でられながら私はいつもの適当お団子スタイルへと髪を結いあげながら、エースさんに「派手に暴れすぎだバカ」
と、呆れ半分で言えばエースさんはニヤリと笑って紙束を出した。

「…なにその書類の束。」
「極秘情報船からかっぱらってきた…ティーチの情報だ」
「ッッ!!!」

「俺は、これから“バロナ島”を目指す。そこに必ずティーチは来る」
「私も行「おめぇは来んな!」…は?」

「…これは、二番隊で頭はってる俺が、片付けなきゃなんねぇ。なまえ、おめぇの気持ちも分からねぇわけじゃねぇ、だがな…俺が、やんなきゃいけねぇんだ。わかってくれ」

真っ直ぐと、私を射抜くその目に何も言えなかった。

分かってた。
エースさんが、ティーチさんの居場所を突き止めたとして。私が介入する事を拒むだろうって。

でも、いざ、その時が来たら来たで…胸が張り裂けそうな思いだった。

「大丈夫だなまえ、必ずオヤジん所帰るから。おめぇはモビーで待っててくれ、な?」

ストライカーを止めたエースさんが、私の傍に寄りポンポンって頭を撫でた。
…まってて、って…エースさんは、私の事待っててくれなかったくせに…ずるいよ。

私は、俯いて。ぐぅって下唇を噛んだ。

世界に帰れない事が分かった。
それならば、いっそのことこっちの世界で生きてやろう、って。
ずっと、ずっと、いつか来るお別れが辛くて口に出して言えなかったエースさんへの思いを、早く、早く伝えたくて…、衝動に任せて貴方に会いに来た。



「…、……き、…」

「ん?なまえ、?」

「…す、き…。好き……、エースが、好き…、あ、あい…、愛してる……っ」
「………、え…」

「好きなの!!エースが!!愛してるの!!だからっっ!絶対にっ、ッモビーちゃんに帰って来て!!」





広い海に抱かれて

折れちゃうんじゃないかってくらい抱きしめられながら私は彼に愛を謳いつづけた