61花舞う戦地に狐が1匹
エースが政府に捕まった。
処刑が確定された、と新聞で見た時はこれは夢か…と絶望した。
なまえちゃんが居なくなった。
3日間、エースの部屋に閉じこもって…ドア越しで聞こえたのは悲痛なまでの泣き声。
4日目…、これ以上はなまえを甘やかせねぇ。とマルコが蹴り破ったドアの向こうはもぬけの殻。
メモ一枚残して、あの子は居なくなってしまった。
海軍の監視船を全て沈めた。
傘下の奴らを集め、マリンフォードへとエース奪還作戦が始まった。
ナース達を船から降ろし…、居なくなったなまえをナース達は最後まで待ち続けたが…その姿を現すことも無く。
彼女らは涙を流していた。
船をコーティングする。
俺達は海の底へと、時が来るのをじっと待つ。
この悪夢の始まりは……そうだ、俺が………。
「おい、サッチ。テメェ今何考えてやがる。」
「…マルコ…俺ァ………。」
俺の、せいで………
「サッチ、バカな事考えないでよ?僕たちは今、エースを取り戻す事だけ考えればいい」
「あと……あのじゃじゃ馬の妹もねェ。ったく、こんな時に家出たぁー、全く…ウチの末っ子共は手がかかって仕方ねぇ」
「グラララ!!手のかかる子程、可愛いって言うじゃねぇか!!だろう?息子共よ」
違ェねぇ。、と誰かが笑う。
「さぁ、バカ息子を迎えに行くとしよう。」
ドォオンッッ!!…と、オヤジが大気を揺らし、大波が立つ。
俺達の視線の真っすぐ先、エースが処刑台に繋がれ、膝を付き世界にその身を晒されている。
なぜ見捨てなかった、…と、エースがバカな事を言う…。バカが…見捨てる訳ねェだろうが、っ!
「いや、おれは行けと言ったハズだぜ、息子よ。そうだろ?マルコ」
「ああ、おれも聞いてたよ、とんだ苦労かけちまったなぁエース!!この海じゃ誰でも知ってるハズだ。」
「おれ達の仲間に手を出せば、どうなるかって事ぐらいなァ!!!」
「お前をキズつけた奴ァ誰一人生かしちゃおけねェぞ、エース!!!」
「待ってろ!!!今助けるぞオオオ!!」
攻め入るは、俺達「白ひげ」率いる新世界47隻の海賊艦隊…
…迎え撃つは、政府の二大勢力。「海軍本部」と「王下七武海」
どちらが勝っても、どちらが負けても…この時代が変わるのは目に見えた。
勢力と勢力のぶつかり合い。
正にこれは戦争だった…。オヤジが能力で起こした「海震」による津波は、海軍大将青キジによって氷漬けにされたが…まぁ丁度いい足場だ!、と俺達は海軍本部へと攻め入る。
ジョズが鷹の目、マルコが海軍大将黄猿と応戦し…ジョズが投げ飛ばしたデケェ氷塊を海軍大将赤犬の手によって溶かされた。
赤犬の能力によって飛ばされてきたマグマの塊を、オヤジは何ともなく翻し…マグマが静まった湾には、敵味方入り乱れての壮絶な乱闘が繰り広げられた。
そんな中、頭を過るのはあの泣き虫で可愛い俺達の妹…。
なまえちゃん…君は、今どこにいるんだ…?
エースはあんなにもボロボロで…今にもその炎が消えちまいそうだ…、なぁ、なまえちゃん、早く…アイツに顔みしてやってくれよ…?な…?
そしたら、きっと…エースは、あんな泣きそうな顔。すぐに吹っ飛んじまうからよ…。
激化する戦いの中、オーズが湾内への突破口を開いた。
しかし、エースまで、あと一歩。、と言うところで王下七武海共の力の前に、オーズは敗れた。
七武海のドフラミンゴが言った、「勝者だけが、正義だ!!!!!」…と。
そういやぁ、なまえちゃんが言ってた事があったな。って、こんな時に思い出しちまう。
「私の同期にね、“助けて勝つ!”って奴と、“勝って助ける!”って、なんともまぁ両極端な奴らが居ましてねぇ〜」
「ふーん、なまえちゃんは?どーいう正義を掲げてるの?」
「んーー?私はぁー…」
“守って、助けて、完封無きまでに勝つ!!” かなぁ〜〜!!
ウチの、末妹は。とんだ欲張り娘だった。
この乱戦に動きがあったのは、空からエースの弟がジンベイやら元七武海のクロコダイルやら引き連れて降って来た時だった。
荒れ狂う戦場の中、響くのはエースの「帰れよ!!ルフィ!なぜ来たんだ!!!」、と叫ぶ声と。
「俺は弟だ!!!海賊のルールなんて知らねぇ!!!」
って、エースに啖呵切った麦わら坊主の声。
海軍元帥のセンゴクが言った。
あの麦わら坊主は革命家、ドラゴンの実の息子だと…。おいおいおい、エーステメェ、とんでもねぇ兄弟持ちやがって…!!
テメェはあの海賊王ゴールドロジャーの実の血を分けた息子で、弟は革命家ドラゴンの息子ときた。
んでもって…、「っは、!未来の嫁さんは、っ、異世界から来たお嬢さん、って…!」
「サッチ!、俺達の末っ子はとんでもねぇモン持ってやがんなぁ!!」
もう笑いが込み上げて来たってもんだ!
オヤジが言った、あの麦わら坊主を死なせんな、って。
「「了解」」
ニヒルに笑うマルコにつられて、俺もニヤリと笑い、あの麦わら坊主を見据えたんだ。
残るはなまえちゃん…君だけが、居ない。
時は少し遡り…、海軍本部マリンフォードから避難してきた人達が、避難先であるシャボンディ諸島にてひしめき合い、皆一様に大きなモニターを見上げていた。
これからの結末に、不安を滲ませた人々は…、この時代の変化を目に焼き付けようとしている。
「…お嬢、エースが出てきたで。」
ばっちゃんの声に、私は目部下に被ったフードの下からモニターをチラリと見上げた。
そこに映ったのは、鎖に繋がれ…傷だらけの痛ましい姿の彼。
処刑台へと跪かされ、その首には二つの刃…。
影を落とし、表情が見えない彼の姿に、心臓を握りつぶされるかと思うくらいに痛んだ。
シャラ、と鈴が鳴る。
人ごみにあふれる中、私はモニターに釘付けの人々に気付かれることも無く。その場から消えた。
ヘマはしない。勝負は一度きり。
救助対象者は、火拳のエースと…白ひげ海賊団、傘下の海賊艦隊含め多数。
向かう相手は世界政府の二大勢力。
ガリっと、口の中で3色の飴玉を噛み砕いた。
「………お嬢、食い過ぎや…死ぬつもりか?許さへんで。」
「ん、ばっちゃん、ぶっ倒れたら宜しくー」
「あほか、こちとら“全勢力”かけて守り抜いたるわ」
ニヤリと笑う。私の相棒は頼りになるねぇ〜、と顔がほころんだ。
ざわざわと声が聞こえる、脳に、直接響くような声。
「みんな、準備はいい?」
頭ン中で咆哮が響く。
目指すは海軍本部、マリンフォード上空。
被っていたフードをばさりと脱いだら、現れるは狐の面。
正義と正義のぶつかり合い、私の正義…あなたたちに負ける気がしないんだよねぇ〜。
私から大事な物を奪おうとするあなたたちは許さない、だから、全部返してもらわなきゃ、ね?
ぶわわ、と…“各地”一斉にゲートを繋いだ。
「ばっちゃん、行くよ。
泣くのはやめた、めそめそもしない。私はヒーロー、助けを求める人の手は絶対に離さない。
守って…助けて…んで、完封無きまでに勝つ!あの世界を震撼させた私の個性、どぉーんと見せてやろうじゃない?
“私が来た”、って知らしめてやんの!記録ヒーローめもめもメモリー!今日この日を持ちまして!異世界デビュー致します!!」
メモちゃん!いっきまぁーーっす!!!
状況は最悪だった、赤犬にそそのかされたスクアードがオヤジに刃を突き立て…しかし、オヤジはスクアードを許した。
傘下の奴らが混乱する中、オヤジはそんな状況でも俺達を鼓舞するかのように声を上げる。
「海賊なら!!!信じるものはてめェで決めろォ!!!!おれと共に来る者は命を捨ててついて来い!!」
そう言って、大気を掴み、島ごと…海をも揺らすそれはまさに世界最強の男と謳われた力だ。
その衝撃波は島の街を破壊しながら、真っすぐとエースの居る処刑台へと向かったが…、それも三大将を前に止められてしまった。
そして、三日月型の港は立ち上がる鉄壁によって俺達は袋のネズミとなってしまった。
追い打ちをかける様に、赤犬のマグマが空を埋め尽くし…俺達へと降り注ぐ。
ああ、こりゃぁ、やべえかもな…。
頭を凄い勢いで過るのはこの船で過ごした数々の思い出。
一番真新しいのは、モビーの背中に降り落ちて来たなまえちゃんの事。
氷の足場が崩れていく、目の前は鉄壁、俺達は袋のネズミ…。
モビーにそのマグマの拳が降り注ぎ…、もう、どうにもできない状況に…ふわり、と花の香りが辺りを漂った。
「………花…びら…??」
俺の手に一片の花びらが舞い落ちた瞬間、海が轟いた。
俺達の、目前に迫ったマグマが、一瞬で俺達の遥か後方の海へと落ちて行った、
突然の出来事に、誰もが目を見張り、マリンフォードは静けさに包まれた…
「なにが…起こったんだ…っ」
「赤犬の攻撃が、一瞬で消えたぞ!!!」
段々と状況にざわつく中、仲間の誰かが叫んだ!
「空…っ空をっっ!!空を見ろぉおおおおおおおお!!!!!!」
「…グララ、ようやっと、お出ましかァ…あんのじゃじゃ馬娘が!!!!」
空を!!空を!!!、と次々に皆伝染される様に上空を見上げ、そして涙した。
俺は、そのあまりの神々しさに…天使が舞い降りて来たかと思う程だった。いや、まぁ、あの子は天使だがな!
野郎共の喜びの咆哮が空気を揺らし、海軍共はその異様な光景に慄いていた!見ろ!!!ウチが大事に大事にお前らから隠した可愛い妹だ!!!
「ったく!!!!くそ!!!マルコ!!!!!!あんなに目立つことはすんじゃねぇ!!って言ったのになァっ!!!!ぐぞ!!ぐぞぉ!!!!」
「あんっッッのじゃじゃ馬娘が!!!!!!散々心配かけやがってよい!!!!」
ふわり、ふわりと花が舞う。
空から舞い落ちてくるあの子は…無数の動物を引き連れ俺達の前に舞い降りようとしている。
大きな鳥の背に乗り降下してくるは見た事も無いような獣達。
どよめきに沸く中、シャン…と響いた鈴の音。
そして…静かに響く、あの子の声だった…。
「“花嵐”、ー花鳥風月ー」
瞬間、ぶわああっと咲き誇った花々は…酷く美しく、酷く恐ろしかった…。
「う…海が…」
「………花畑に、なっちまった…」
海が凍り、足場になっていたが…崩れたそこに、咲き誇る色とりどりの花群。
そこに静かに降り立つなまえちゃんの足元を支えるかのように花々が彼女の足元に伸びて、そしてその一面花まみれになった所にストン、と静かに舞い降りた。
彼女の周りにはドサドサと舞い降りた獣達が使える様になまえちゃんの周りに降り立ち、鳥たちは上空を真っ暗に埋め尽くす程の数…。
唖然とする、海軍たちと、海賊達。
くるり、と振り返った彼女は、トレードマークの狐面に…臙脂色のローブ。
シャン、と鈴が鳴る。
「ヒーローってさ、遅れて来るもんっしょ?…って、私ほら、年頃だからさぁ〜ちょーっと準備に時間かかっちゃった!」
おにーちゃんたち!!おまたせ!!!
そう言ったなまえちゃんは、ふわりとその身を消したかと思えば…ふわり、と処刑台の上に現れ。
エースに刃を向けていた兵士二人を拳で殴り飛ばしたかと思えば、狼狽えるセンゴク横目に、
「ったく…見せつけてくれんじゃねぇか」
エースの首に腕を回してあっつぅーーーいキスをした。
全員大火傷だ。
二人の再開を祝福するように、処刑台の上に花が舞う。