70狐火に、燃ゆる時代の終わり。


幸せに包まれた翌日、モビーちゃんは静けさに包まれていた。


穏やかな、静かさだった。


静かな波音が聞こえる中、沢山のお花に埋もれる様にオヤジさんはとても柔らかい表情で眠りについている。


「なまえ、火ぃ、頼めるかい」
「え…でも…」

「いいんだ、俺の青い炎じゃ…オヤジを送ってやれねぇからよい。エースも、呪いが解けちまったしねい」

なまえ、お前の火で送ってやってくれ。オヤジが気に入ってたあの写真の火で…、とマルコさんが赤く腫らした目で私を見て、エースさんも、うん。と、私に頷き……

私は、皆んなに背を押される形で…オヤジさんの眠る棺へと、手をつけた。



「オヤ、…おとう、さん。…もし、天国でさ、私のばーちゃん達に会えたら、仲良くしてくれると嬉しいな…。あ、あと……すごく、すごくすごく、おとうさんに、会いたくなっちゃった時は…もしかしたら、呼んじゃうかもしれないけど…その時は、会いに来てくれると嬉しいぁ……、おとーさぁん、突然、落ちて来た、私を…娘にっ、してくれてぇっっ、っ、…っありがとうっ!」


いってらっしゃい。






パチ、パチ、と晴れ渡る空に舞い上がる朱色の炎。

一つの、時代が今…終わりを告げた。


うぉおおおん!!って響くお兄様達の声は空まで響いて……島が、泣いている様だった。














オヤジさんの眠るお墓の前、ずらりと16人の男達が盃を手に座り込んでいる。
星の綺麗な夜だ、私はエースさんの隣にちょこんと座ってマルコさんの話を耳にしながら空を見上げていた。

「俺は……この島に残るよい。オヤジが生涯を捧げていた島だ、オヤジの墓もある。俺がここを、この場所を守っていく。」

「…私は、オヤジさんの守ってたナワバリの島を守りたい。島の人たち、みんな笑顔で平和に過ごしてたのに…その笑顔を守りたいの。」
「なまえちゃん、まぁ…止めたところで聞く耳もたねぇからなぁー、ったく。傘下の奴らは、各々海へと戻っていったしなぁ、俺ァー、どーすっかなぁー…」


白ひげ海賊団は解散した。
1600人も居たお兄様達は、故郷へ帰る、と言う人もいれば。
また海へ出ると言う人もいて、皆んな…自分の出来ること、やりたい事、色んなことを考えながら…一人、また一人と、この島を出発していった。

すっかり寂しくなってしまった。
もうモビーちゃんの背中で皆んなと馬鹿騒ぎすることは無いんだ、って思ったら。鼻の奥がツンって痛くなった。

「エースはどうすんの?世間じゃ死んだ事になってるから…あんま目立って動けないんじゃ無い?」

ハルタさんがエースさんにそう尋ねれば、エースさんはぼーっと空を眺めて、そして私を見た。

「んーー…ルフィ、弟の事も気になるが、まぁ、アイツには仲間がいる。ルフィにはルフィの冒険があるから、俺が今出て行ってどうこうする事はできねぇし…、アイツには仲間達との“約束”が2年後に待ってる。まぁ…顔出すなら、そん時かな。」

それまではなまえとこの島拠点にひっそり暮らすさ。
ニシシ、と笑いかけて来たエースさんは、
「能力も無くなっちまったし、俺も2年くれぇ修行でもするかな」
って、…そんなエースさんに私はずっと考えていた事をぶつける事にした。

「エースさん、さ…もし、炎の力が…戻るとしたら、欲しい…?」


え……、と、皆んなが息を飲んだ。

「なまえ…いったい、どう言う…」

グッと手を握り、私は意を決した顔でエースさんを真っ直ぐ見つめた。

「エースさんを、生き返らせる時に…“修復”の力とは別に、“巻き戻し”の力も使ったの。
その巻き戻しの力は、加減を誤るとその人を胎児まで戻せちゃう、そんな力…。多分、その力のせいで、エースさんの身体を“悪魔の実の力が宿る前の身体”まで戻しちゃった。
でも、ね…私も使ってるこの“炎”の個性、エースさんの身体に宿せるかもしれない。
他人に、“個性を与える”ことの出来る個性を、私は持ってるの……」

以前の様に、身体自体が炎になるわけじゃ無い。あくまでも、生身の身体から炎だ出せるだけ。
刺されれば痛いし、殴られればぶっとぶ。それに、私たちの個性は遺伝子に深く結びついているから、エースさんの身体を一度“分解”して“修復”し直す必要がる。成功するかわからないけど、不可能では無い。恐らく、成功する。

そう、エースさんに伝えれば彼は自分の掌を見つめてから…私を真っ直ぐとその目で射抜いた。


「俺は、もうなまえに守られる事は嫌だ。今の俺には力がねぇ…でも、もしまた、力が手に入る可能性があるなら…みっともねぇかもしんねぇけど…俺はそれに賭けたい。」

大丈夫だ、なまえの言う事だ絶対出来る。

そう言ってエースさんは、私の手をエースさんの胸へと当てがった。

「……わかった、でも…身体が拒否反応起こす様なら、直ぐに個性を抜き取る。」
「…ああ、頼む」


火拳のエースは、まだ死んじゃいねぇ。


本当、私って神様への冒涜の何者でもねぇや…。

ごめんね、エースさん。貴方の身体を弄ぶ様な事をしてしまって。




























オヤジが眠ってから、どれくらいの月日が経っただろうか。
つい、昨日のことの様になまえの真っ白なドレスと……オヤジのあの穏やかな顔が思い浮かぶ。

マルコはこの村で町医者をしている。

なまえは……はぁ…言うまでもなく、世界中を飛び回ってはオヤジの守って来たナワバリを荒らす不届き者達をボコしては、そこにデッケェ狐の石像…イゾウ曰く稲荷狐っつーなんだ、神の使い?の狐らしい。なまえのあの面のような顔した狐だ。

その稲荷像を新たなシルシとして、その島を見守る様に怖ぇー猛獣をそこに残し、島を守っている。


世界は俺達の事なんて気にも止めずにどんどんと変わって行った。

茶ひげ、とか言うふざけた野郎も現れ。

黒ひげ海賊団ってティーチの野郎は海を荒らしては能力者狩りとかってのをしていると新聞で見た。

センゴクは元帥を降りて、新たな元帥に赤犬がその席に着いた。

青キジは海軍を辞め、ジジイも…あの戦争以降、隠居したとなまえが世界を飛び回ってる時に聞いたと言われた。



そして、そんな目まぐるしく世界が変わっていく中……俺は、また。

生きてて良かった、と思える日が来たんだ……。





「エースさぁああん!!!!エースさん!!エースさぁああああん!!!エーーーース!!!!ええええええーーーーっっすううううう!!!!!!」

「っだぁあ!!!ウルセェなぁ!!!!なんだよ!!」
「あ、また海に浮かんで寝てたでしょ!!!!もう!!溺れてもしんないよ!それより!!!大変!!!たいへん!!!エースさん!やばい!エースさん!やばいよ!!貴様の命の保証ができねぇんだけど!!それでも良いなら私と来い!!!」

「は?お、おい!ちょ、何だよ、どうしたってんだ!?お前ちょっと落ち着け?な?」

落ち着いてられるかぁ!!!!

血走った目で俺の首を締めてくるなまえにやめんかぁ!!と一発ゲンコツ食らわせてやっとコイツは少し落ち着きを取り戻した。

「はぁ…っ、はぁっ、と、とりあえず…やばい、あの、エースさんのお墓、行こうか」

俺の墓へ行こう、と肩で息をしながら言うなまえ。

この島には相変わらず中身が空っぽの俺の立派な墓がある、なんとも言えない気分だが、まぁ老いぼれた時にでも中に住もうと開き直ってオヤジの墓の隣に俺の墓は未だにオレンジ色の花を咲かせて佇んでいる。

海から引っ張られる様になまえに連れられて俺はあの小高い丘を目指し歩く。

道中なまえはずっと俺に覚悟しておけ、だの命の保証はできねぇ、だの腹括れ、だの不吉な事ばかり言いやがる。

一体全体、なんだってんだ……

俺は前を歩くなまえに着いていく……

訳はねぇ、コイツを前に歩かせりゃいつまで経っても目的地に着くわけねぇんだ。


案の定、なまえは丘を目指してるんだろうが…ココは反対方向の森の方だ。

「…おい、どこ行くっつったか?ん?なまえちゃん?俺の目が確かならココは森だな?ん?」

「……最初からワープしてけば良かった。…いや、私は君に心の準備をさせようとだなぁ、うん、そう言う事だ。さぁーて、お散歩は終わりだぁ〜」
「……よく言うぜ。」


ぶわわ、とあのモヤを出してからなまえはまたしつこく俺に準備はいいか?と聞いてくる。

「だぁー!もう!しつけぇ!先行くぞ!」
「あっ、ちょ!ちょ!!まってよぉ!!」



ぶわわぁ、と、この未だ慣れない変な感じを通り抜けた先。

少し眩しくて目を細めた見慣れた風景の中、誰かの背中が俺の墓の前に見えた。


「おーいなまえちゃん、いつまで待たせ…ん、だ…………、」

くるり、と、振り返った誰か……に、俺は……時間が、止まった気が、した……。




「「……え、……」」

「いひひひ!ね!ね!驚いた?驚いたっしょー?」



ああ、この女は…っとに、いつも俺の予想外の事を平気でしやがる……。





「エー……ス、……か?」
「サボ……?サボ、なの、か?」


「なんだ、貴様ら。兄弟の顔も忘れたか?ん?ん?ねぇ!ほめて!ほめて!」

なまえが、俺達の周りをうろちょろとしててウゼェ、が…。
今程コイツを愛してる!!って思った事もねぇ、いや、ある。俺は毎日なまえを愛してるわ。うん。


「ちょ、えっと…なまえちゃん、俺、幽霊見てるわけじゃねぇよな?」
「ふひひー、サボくん!本物!本物!」

「なまえ…じゃぁ、俺がユーレイ見てる、ってわけでもねぇんだな?」
「おいおいー兄弟考える事一緒か?この!この!仲良しめ!」


ほらよ!!

そう言ってなまえは俺の手と、そいつの手を取り、そしてグイッと両方引っ張って、触れた。


「「触れる…」」
「あったりまえじゃん!二人とも、生きてるんだから!」


じわり、と目の前のソイツの目から涙が溢れて……、俺の頬にも温かい何かがつたった。



「「エース!!!!/サボ!!!!!!」」


覚悟しろ、と散々なまえがうるさく言ってた意味がやっとわかったが。
こんなん…覚悟してようがしまいが……無理だろ。っ…!





「いひひ、後はルフィくんだけだね?」



っとに……お前ってやつぁーっ!!最高の女だぜ!!










「って、言う事で。このお墓、うっかりぽんちな赤髪さんがはやとちって建てちゃったのー!」

散々みっともなくサボと抱き合って泣いた後、俺達は墓の前で話に花を咲かせていた。

なまえは、世界を飛び回っている最中に偶然革命軍と出会う機会があり。
そこでサボと会ったと言った。

サボは俺達がまだガキだった頃に一番最初に海へと出て……貴族の船を横切ったから、とその砲弾にやられ死んだとばかり思っていたが。
ルフィの親父に運良く助けられ、だが…怪我のせいで記憶を失っていたと言った。


「俺はよ、エース。お前が死んじまったって新聞の記事を見て、その瞬間に記憶が全部戻ったんだ…ひでぇ話だよ、ったく…あの時は絶望しか無かった…だが、そんな時になまえちゃんと偶々会う機会があってなぁ。ほら、この子もあの戦争にいたろ?しかも火拳のエースの女だ、って世間じゃ騒いでるしよ。」

「そんでねー、サボくん、私とエースさんの事すっごい勢いで聞いてくるからさ!私ってば、エースさんのファンなんですかー?って聞いたら、もーびっくり!エースさんがよく話してくれたもう一人の兄弟ってサボくんの事だって知った時はもーね、これ二人絶対会わせなきゃ!!って」


そんで、なまえはサボに俺の墓がある場所まで案内し、先ほどの再会に至るわけだ。


「はは…まさか、エースが生きてるとは、思わなかった」

「こっちのセリフだ…お前はとっくに星になったと思ってたぜ、」

こりゃぁ…

「「ルフィが知ったらアイツ泣くぞ」」

「「……、ッブ!!」」

「あはははは!!!!息ピッタリ!!さすが兄弟!!」


ゲラゲラと腹抱えて笑うなまえを、俺はグイッとその肩を抱いて引き寄せた。
慌てるなまえを他所に俺はサボに言ったんだ。


「コイツ、俺の嫁さん。」
「あ、どうも、えぇーと、お兄様?いつも主人がお世話に…?ん?お世話なってた?」

「……はぁ???え、ちょ、はぁああ??!」



お前ケッコンしたのか!!!????

って、驚くサボに、二人してにしし、と笑った。







狐が嫁入り!

……ちょっと狙ってたのに。

ボソリと聞こえたその言葉をゴングにサボと取っ組み合いの喧嘩が勃発した。

腕に宿る炎はアイツの前髪を少し焦がした。

っへ、ざまぁみろ!