69愛しの我が子等よ
「「「「なまえ!!!!」」」」
「うえぇーーーん!!!!おねえさまたちぃーー!!!!!」
両手を広げてナースさん達との再会に喜び駆け寄れば、すさまじい衝撃を受けた。
ほっぺに、バチィイイイン!!!!、って……いたい……。
「「「ええぇえ!!??」」」
「……りりーしゃ、え?……いたい…」
私のほっぺを見事にフルスイングでシバき倒したリリーさんは、その手を振り切ったままプルプルと肩を震わせて、私をキっと睨みつけて来た。
その目には、大粒の涙が流れ落ちていて…
「なまえのバカ!!!!あんた!!あんな!!!!バカ!!!バカ!!!!」
「なまえちゃん…私達、あの映像を……新聞を…どんな思いで…っ」
「リリーさん…サリさん……、っ、うぇ、っうぇぇんっ、ごめっ、ごめなさいぃっ」
生きててくれて良かったッッ!!!!
エマさんと、エルさんが両っ側から、私をぎゅうぎゅうと抱きしめて来て、他のお姉様達も押し寄せ、私はもうもみくちゃだった。
エースさんの、お嫁さんになるの。と、私は船から降りたというナースさん達が居る島を教えてもらって、無事の報告もかねてその島を訪ね、彼女たちと再会し、この滝の裏の島へと連れて来た。
白ひげ海賊団、傘下のお船も含めて総出で行われることになった私と、エースさんの、その。け、ケッコン式は。
世界に知られる事なく、ひっそりと、この島で行われる。
日々、着々と準備が進む中。私は毎日むずむず、もやもや、と心を震わせていて。そんな時、マルコさんが…きっとナース達も心配している、それにお姉様達も、れっきとしたオヤジさんの娘たちだ。って、末妹の晴れ姿を見せてやんなきゃ俺達一生呪われる。って、少し顔を青ざめさせて言うもんだからちょっとその顔が面白かった。
そうと決まれば、と私がワープゲートを開いて連れてきた次第である。
そして、冒頭の愛の暴力を頂いた。
あの戦争が終わってから、何日経っただろうか。
昨日の事の様にも思うし、何か月も前の事の様にも感じる。
世界は着々と変化を見せて行き、私はお尋ね者(しかも生け捕り!)になった。
オヤジさんが名を掲げていたナワバリの島々は、オヤジさんの死が世界中に広まった途端、そこを侵略しようと悪い海賊さん達が押し寄せ……、たのを、私が許す訳もなく。
世界中の動物さん達の手を借りつつ、オヤジさんの容態をマルコさん達と診ながら日中はナワバリの島を駆けまわっていた。
奇しくも幸いにして、私の能力はあの頂上戦争での映像が世界中に流れていた事もあり、小娘一人で海軍相手にケンカする姿と、初頭で10億叩き出した手配書、そしてナワバリを荒らしに来た不届き者達を容赦なく叩きのめしてやり、オヤジさんの名を掲げている島々におっきなお稲荷様の石像を建てて行けば。
この島に手を出せば稲荷に祟られる。、と噂が広まり、まぁ、なんとかそれでオヤジさんが大事にしていた島々を守ることが出来た。
それでもなお手を出してくるおバカさん達は、島々へと残ってもらっている神獣、とも言えるような、あの戦争を共に駆け抜けた、海軍さん達からは“猛獣”なんて失礼な事を言われた子達に島守として頑張ってもらっている。
たぶん、私より容赦ないから、あの子達…。
そんな忙しく、慌ただしい毎日を過ごして居て。
エースさんとは殆ど夜にしか二人ゆっくり過ごす時間がない。正直言って寂しい。
そして、まぁ、そんな白ひげの元ナワバリを狐火の宅配屋が日々書き換えて行くように暴れるもんだから。
世界に私の生存は認知…つうか、生け捕りで手配書出てるくらいだから生きてるって確信もたれてたっぽいけど、まぁ、戦争以降は行方知らずになっていたのがちょこちょこ世界を駆け回るもんだから。
中々に生きにくくなってしまったものだ。
連日、新聞をにぎわせてはマルコさん達にゲンコツくらってる。
白ひげ海賊団は、解散した。
ティーチさんを許すことは出来ない、と何人かの人達は落とし前を付けに!、と声も上がったが…。
今は、皆、オヤジさんとの時間を一分、一秒も無駄にしたくない。と、未だこの滝の裏の素敵な村に滞在している。
ちらほら、とオヤジさんのナワバリを荒そうとする奴らを懲らしめに海に出て行く傘下の皆さんも居るが、また、私がゲートを繋いでまたこの島へとひっそり戻ってくる。
世界は、オヤジさんと、エースさんの死亡を完全に信じ込んでいる。
でも、私は……あの場に居たセンゴクさんや、赤犬さんは…完全に信じているとは思えなかった。
しかし、世間にはそんな曖昧な事公表しても、世の中を大混乱にさせるだけだから…恐らく、“上”の判断なんだろうな、って思ってる。
どの世界も、知らなくていい事を隠そうとするのは変わりないな。
そして、ルフィくんにもまだ…エースさんの生存を知らせては居ない…。
エースさんが、“まだ”知らせる時期じゃない。と言ったから、私も野暮な事はしないと決めた。
「なまえ、そう言えばアンタ。ドレス、どうすんの?」
「あー…どうしましょ、…まぁ、作ろうと思えば、創れますけども、うぅーん」
しばらくこの島へ滞在する事となったナースさん達と、モビーちゃんの女部屋の広間で色んなお叱りや、エースさんとの事をひやかされたり、と話に花を咲かせていた時、ふと、リリーさんが言った一言でお姉様達の何かに火が付いた。
「……これは、あれね」
「私達の腕の見せ所ね」
「明後日、よね?あんた、こんなところで寝っ転がってる場合じゃないわよ!!」
何やら、「うん」、と顔を見合わせたお姉様達が
「「「「「磨くわよ!!」」」」」
そう言って、私の両脇抱えて連行された。
えぇー……。
磨くわよ、とは言ったもので。それはまぁー、見事なまでに磨かれた。
磨き倒された。
「……エステ、あったんですね…モビーちゃんに…」
「女は美しくあれ、ってね」
うふふ、と奇麗に笑うサリさんに、何やらいい香りのするオイルをひたすら塗り込まれている私…。
つい先ほど私を探しに来たエースさんに、お姉様達は容赦なくエースさんにこう突き付けた。
「エース、あんた3日間なまえとの接触禁止。見るのも禁止。」
まじ、エースさん、めっちゃキレてたかんね。ココまで声が聞こえたかんね。
突然発令された、私とエースさんの接触禁止令は、あっという間に皆の所にも情報がいきわたって。
なんでも3日後に最高な状態に仕上げた私に驚いてもらおうって魂胆で始まったコレは、悪い事好きなお兄様達が黙ってる訳もなく、クルー総出で私とエースさんを合わせない様に、ってめっちゃ張り切りだしたもんだから…。
毎日どこかしらからかエースさんの怒号が聞こえてた。
「……なまえちゃん、せっかく綺麗な髪だったのに…こんな時に残念だわ、ふわふわに編み込んで色んなお花を差し込めばきっと素敵だったのに…」
「あはは、皆さん残念がるんですけど…私からしたら、まぁ、ちょっとは名残惜しいですけど、そろそろ切ろうかなって思ってたし…まぁ、あまり気にはしてないんですけどね。」
「あんた、頭は気にしてないって言うけど…こっち、は……?」
こっち、と。リリーさんが悲しそうな顔で私の脇腹をするりと撫でた。
「……ああ…」
エースさんの、シルシを刻み込んだソコは…すっかり元の肌色だ。
戦いのさなか、お腹を抉る様に大きな怪我をしたソコは。怪我の治癒をしている時に元通り“修復”されてしまった。
だからもう、エースさんのシルシも残っていないし。
それはまた、エースさんの背中の、オヤジさんの誇りも…私が消してしまった。
「また…彫ろうかな…」
「ふふ、大好きね、エースが。」
「……うん、」
照れちゃって、可愛いんだから。、とサリさんが優しく笑った。
ナースさん達の手で奇麗にされていく中、目を瞑ってエースさんを思い浮かべた。
好き、エースさんが大好き。
そんな大好きなエースさんの背中の誇りを私は消してしまった。
誇りと……貴方の、美しく燃える、その炎も…。
私は、消してしまった…。
「なまえ、凄く、綺麗よ。」
温かい日差しが窓から入る中、私は今真っ白なドレスを身に纏い。サリさんがふわり、と小さなカスミソウがあしらわれたふわふわなベールを私の頭につけてくれた。
つくづく、この船のナースさん達は凄いって思う。
まさかあの3日間でウエディングドレスを縫い上げるとは思わなかった、まじで、やべぇって思ったもん。
真っ白で、ふんわりとした、シンプルなドレス。
「ほら!なまえもたもたしてないでっ、もうオヤジ様が首長くして待ってるわよ!」
「はぁーい!」
よいしょ、と、着なれないドレスのふわふわに少ししどろもどろしながら立ち上がれば、目の前の鏡に映る自分に少し照れくさくなった。
「ふ、あ、サリさぁん…馬子にも衣裳だって皆に笑われないかなぁっ」
「バカね、そんな奴が居たらナース総出でいたぁいお注射ブチこんでやるんだから!」
ほら、背筋伸ばして!
トン、と背中を優しく押されて私は部屋のドアをくぐった。
白い大きな鯨のお船、にこりと笑ったモビーちゃんから外へと出れば、港から真っすぐと続く1本道の先の、小高い丘の上。
そこでエースさんが私を待っている。いやさ、何が面白いかって…だって、教会とかじゃないのよ。
まさかの墓前!墓前式!やばない?笑っちゃうよね。私、オヤジさんと、エースさんのお墓の前で、エースさんに誓いをたてるんだよ?やばない?
真っ直ぐ丘の上のお墓の前まで続くこの道を、両側から囲む様にズラリと並んだ沢山のお兄様達と、ナースのお姉様達と、傘下の皆さん。
モビーちゃんから出たすぐそこには、車椅子に乗ったオヤジさんが私を見て優しく笑った。
少し、小さくなっちゃったオヤジさん。
マルコさんが車椅子を押して、私の方へと近づいて来て
「こりゃぁ、エースの奴、卒倒しちまうよい」
「グラララ!!!ちげぇねえ!俺ァ、今…こんなに幸せなこたぁねぇ…なまえ、あぁ…綺麗だ…」
呼吸器を鼻に付けたオヤジさんが、その大きな腕を私へと伸ばし、やんわりと頬を撫でてくれて…たまらず涙がポロリと溢れた。
「おいおい、せっかくの顔が台無しになっちまうだろ、ほらマルコ、行くぞ。エースが待ちくたびれちまうぜ」
早くこのじゃじゃ馬をくれてやらないとなァ?
そう言って笑ったオヤジ様に手を取られて、マルコさんが車椅子を押し私達は真っ白な絨毯が敷かれたエースさんの元へと続く道を歩き出した。
ばっちゃんが、上空をキラキラな羽から綺麗な光を私達の元へと降らせていてとても幻想的で綺麗だ。
遠目でエースさんの姿を確認出来た頃、オヤジさんの手でふわりと降ろされたベールが顔に少し当たってくすぐったかった。
ゆっくりとエースさんの元へと歩き出す。
道すがら見たお兄様達は強面のお顔をさらにしかめながらめっちゃ号泣しててちょー怖かった。
ハルタさんなんてお顔が溶けてた。うん、溶けてた。おまえ、私の事、なんだかんだ大好きだったもんな?って、その顔が可笑しくて思わずププって吹き出したもん。
「なまえよ、あのバカ息子を、頼んだぜ。」
「ふふ…オヤジさん、それじゃぁまるで私がエースさんをお婿さんに貰うみたい」
どこからか鐘の音がカラーンカラーンと響く中、オヤジさんがぽつりと言った。
「出来れば…孫の顔、拝んでから…逝きてぇんだがなぁ…、さすがに、それはちと贅沢言いすぎだなぁ。」
「……っ、その時は、絶対に…真っ先にオヤジさんの元に、連れて来るよ。」
「ああ…約束だぜ?」
ぴたり、と歩みを止めたそこには鼻垂らしながらお顔が大洪水なエースさんが居て、ちょっと引いたのは内緒だ。
そして…まさかの、
「ブッフゥ!!!!ちょ、!!サッチさっ!!!だめ、っ笑う!!笑う!!!」
墓前の前で変な司祭みたいな恰好したサッチさんが居て、私の腹筋死んだ。
ひーひー、と笑いをこらえる中、オヤジさんが私の手をそーっとエースさんへと渡す様に差し伸べて、
ぐずぐずに泣いているエースさんは、差し出された私の手を優しく包み込むように手に取った。
「お、おや、おやじぃ…っ、うぐぅ、っ、おで…っ、おでっ…!ぜってぇ、なまえをっ、じあわぜにっずるっ!!!」
「えぇ…いや、エースさん、泣すぎぃっ…っ」
「なまえぢゃぁあぁんっっ、えーずぅぅあぁぁぁっっ」
もうね、ちょーカオスだった。
エースさんも、サッチさんも、めっちゃ泣いてっし。つられて私も泣いちゃったじゃん!
「ほら、おめぇらいいから進めろよい、っ…」
マルコさんの声に、私はエースさんに向き直ってから少し頭を下げる様にすれば、エースさんの手がベールをふわりとめくりあげた。
サッチさんが、もー、ね、もー、何言ってんのかわかんなくて、お兄様たちからもちょーヤジ飛ばされてんの。
かろうじて、聞き取れた「誓いますか?」の声。
私と、エースさんはもう涙まみれの顔をお互いに見合わせて、そして二人、声を揃えて言った。
「「誓いますっ」」、って。
そしたら、うわぁーって、野太い声が湧いて。
エースさんは私を抱き上げて、ちょー幸せ!!!って感じの、キスをした。
ひらりひらり、ふわりふわり、って、真っ白な薔薇の花びらが舞って。
サッチさんが言った通り、すーっごい大きな、そりゃぁもうオヤジさんみたいにおっきな真っ白なクリームたっぷりのケーキをみんなで食べて。
一晩中、顎が痛くなるくらい、皆んなと笑って、泣いて、幸せの時間を過ごした。
そして……
翌日、オヤジさんは……ニコニコとした優しい顔で、沢山の家族に囲まれて……その生涯を、おやすみなさい、……って。
おやすみ、世界
今日もこの島は、優しさに溢れていた。