7正義とは

今日も午後にヒーロー基礎学がある。
先日の対人戦闘訓練では予想以上にエネルギーを消費してしまったから、今日の授業ではガス欠にならない様に、って。


「……みょうじ、おめぇいつにも増して食うな?」
「んもふなふふふんんふふもも!」
「いや、何言ってっかわかんねぇから!」

んぐんぐと美味しいランチラッシュのご飯を口いっぱいに詰め込んだ。
お昼の時間、限られてるからね!!如何に沢山のカロリーを取れるかが勝負なのだ!

この定着しつつあるお昼メンバーの上鳴くんと切島くん。
女子組は殆どがお弁当組だったりして、麗日さんは緑谷くん達とよくお昼してるし。

たまに耳郎さんがこのメンツに混ざって食堂来たり、お弁当だったりだ。

入学当初、迷子になるから助けてー!って上鳴くん切島くんに泣きついた事もあってか、この二人はすっかり私の誘導係?世話係?みたいになっててちょっと笑う。

私のこの方向音痴はもうクラスのみんなの周知の事だ。
なんだかんだ皆んなヒーロー志望の子達だから、根っからの世話焼き。
クラスから移動する事があれば誰かしら、もう当たり前のように「行くぞー」って私を拾ってくれる。

うん、みんな優しい。嫌いじゃない。


そんな私も、皆んなに頼ってばかりじゃぁ何だから、相澤センセーにお願いして雄英敷地内と校内の見取り図を見せてもらって、頭ン中に地図入ってればテレポで何とかなるからーって説明したら、もっと早く言え。って呆れられた。

だから、まぁ、一人でも何とか登校も下校も、校内移動もどうにかなるっちゃなる!
ただテレポだと移動出来る範囲が決まってるから…何回かに分けて移動しないとダメなのがちょっとめんどくさい所ではあるのだ。

あー、なんか都合よくワープ系個性の人と会えなかなぁー。って言うのが私の最近の願いだ。


ま、その願いはすぐに叶う事になったんだけどね。








「一かたまりになって動くな!!!!!」

相澤センセーの、そんな切羽詰まった叫び声と共に目下の広場に現れた真っ黒なモヤモヤからドパァッて溢れ出してくる様に現れたヤツ等。

午後のヒーロー基礎学で訪れたウソの災害や事故ルーム、通称USJにて行われるはずだったレスキュー訓練は。一瞬で侵入してきた敵達によって修羅場と化した。


ビリビリと、肌を刺す様な…恐ろしいまでの悪意。

オールマイトが居ない、子供を殺せば出てくるかな…、と身体中に手をくっつけた不気味な奴が…首謀者か!、とすぐ理解できた。


街中で暴れる敵は何回も見たことある、テレビでだって、見たことはある、でも、実際に目の当たりにして…自分達に真っ直ぐと向けられた悪意に怯んでしまった。

グッ、と拳を握りしめて、相澤センセーが13号センセーに言ったように皆んなに避難しよう、と。
ここは私達子供が出しゃばる幕じゃない。
プロの邪魔をしてはいけない、と…、相澤センセーが皆んなに外部と通信を試せと的確な指示を各々に出す中、私はセンセーとバチリと目が合い

「みょうじ、何人までなら飛ばせる!」

校舎と離れた、この隔離空間。
校舎まで約3キロ程距離があるこのUSJからセンセーは私にテレポで飛べと言った。

「センセー!!ごめん!10人くらいしか無理!」
「ッチ!行ける奴は応援要請行け!」

「っ先生は!?1人で戦うんですか!?」

緑谷くんがセンセーにごちゃごちゃうるさく言ってる間にも敵は待ってはくれない。
私は近場にいた子達に手を繋いで!、と私が手を差し出して繋いでもらって、その手をまた他の子とて繋いでもらって何人かいっぺんにここから飛ぼうと狼狽える皆んなに「早く!!!!」と叫べば、相澤センセーが広場に向かって敵の制圧にかかった。


「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん」

その一言が、胸に刻み込まれてこびりついた。
広場へと降り立って次々と敵を倒して行くセンセーが凄くかっこよかったんだ。まじで。


「…すごい、多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」
「っ緑谷くん!!!!早く!!!!」

悠長に広場を見て分析してる緑谷くんを急かすように呼んだ瞬間、ゾクリ…と戦慄した。


「させませんよ…」


ぶわぁって目の前に現れたあの黒いモヤモヤ…、そいつのいきなりの出現に驚いた何人かが繋いでいた手を離してしまって私は内心舌打ちをした。

「初めまして、我々は敵連合…僭越ながら、この度ヒーローの巣窟…雄英高校に入らせて頂いたのは、」


平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして。


ユラリ、と揺れた黒い靄。

視界の横で13号センセーがパカリとコスチュームのグローブの先を開いたのを確認して、私もス、と両手を構えた、その時。


「ッッッバカが!!!!!」
「ダメだ!!退きなさい2人とも!!!」


靄ならブラックホールで吸い込むまで!、とセンセーの思考を汲み取った私もセンセーの個性で靄野郎を吸い込もうとした瞬間飛び出していった爆豪と切島くん!もー!!!おまえらはぁー!!!!

「ッッ邪魔!!!下がって2人とも!!!!」
「みょうじさん!」
「センセ!!2人を飛ばす!吸って!!!」

対象に触れれば私のテレポにラグはほぼ無い、センセーが個性を発動させたとしても前に居るこのバカ2人に危害が及ぶ前に私はこいつ等を飛ばせる!と意味合いを込めてセンセーに叫べば、さすがプロってか!直ぐに意図をくみ取ってくれた13号センセーはその手から個性を発動させた。


が…それよりも、敵の方が動くのが早かった。

目の前をブワァッと広がる黒色、に私は奥歯をギリと噛み締め必至に手を2人へと伸ばしたが間に合うことは無かった。

靄に、包まれ…ひらけた先で、私と爆豪と切島くんは敵に囲まれた。

つー、と背中を汗が伝った。









「っとに!!ねぇ!!何であそこで飛び出してくかなぁ!あんた等先走ったお陰で13号センセー後手に回ったじゃん!もう!」

バキッッッ!!

敵の最後の1人の胸ぐら掴んで思いっきり顔面に拳を叩き込んでやれば、ソイツは白目向いて泡吹いて気絶した。

ドサって瓦礫の上に投げ捨てて、私はバカ2人に向き合ったら切島くんがめっちゃ申し訳無さそうに謝ってから、多分、この施設内で散り散りにされてしまったであろうクラスメイトの心配をし、合流しようと提案する中。
爆豪はあの靄野郎を抑えに行くと言った。

爆豪が言う通り、おそらくあの靄野郎は敵の出入り口…、いざという時、十中八九あの靄から逃げるだろう。

「…ワープゲート、ふふ…ちょーラッキィ」
「あ?何笑ってんだテメェ、頭イかれたンか」

「んふふ、私の個性…忘れないっでっ!!」

BOOOM!!!!!!


「っと、さっすがばっちゃん、ナイス反射神経〜」
「テメェその呼び方ヤメロ!!!んで俺の個性勝手に使うんじゃねぇ!!!」

背後からの殺気に爆豪と共に飛びかかってきた敵を爆破させて、こいつ、戦闘センスは抜群だよなぁーって感心した。

「ッチ…つーか、生徒たちに充てられたのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ。」

「……つか、そんな冷静な感じだっけ?おめぇ…」
「ばっちゃん…成長、した、ね、!」

「俺はいつでも冷静だ!!!クソどもがァ!!!」
「「ああ、そっちだ」」



こいつやっぱおもしろー!!

パキポキって首の関節を鳴らしてから私はぴょんぴょんとその場で少し飛んで身体をほぐした。

「っし!じゃぁ切島くんは皆んなの援護?って事かな、私は爆豪と靄野郎抑えに行く!」
「あ”?テメェも来んのかよ」
「待て待て!ダチを信じる!俺もノったよ!オメェらに!」

ニィイって3人顔を見合わせて、っしゃぁ行くぜ!!って駆け出そうとした2人の肩をガシっと私は掴んだ。
ふっふっふ、君たちは、一つ、忘れていちゃぁ〜ないかぁ〜い?

「おいコラクソ団子、何しやがる」
「みょうじ?どうした?いかねぇのか??」

「いひひ、なぁ、新しいモン…手に入れたらさ、真っ先に使ってみたくなぁい??」

サクッと行っちまおうや?

ぶわわぁ…、と広がる靄に、2人は驚いて私を見る。

「ひひっ、念願の…ワープ個性。いっただきぃ〜!ってね。」
パチリと2人にウィンクひとつ。

「みょうじ…おめぇ…」
「…クソ団子…」


さぁ、反撃開始だ!


頭ン中に、記録した敷地内地図のUSJ内見取り図を浮かべる。
ここは崩壊ゾーンだ、広場には程近いだろう。
なんせ初めて使う個性だからね、内心では2人に失敗したらごめんよー!なんて呑気に考えていたのは、うまく繋がった先の光景を目にして…私は、結局たかだか数十人の敵を倒していい気になっていた事を全て吹っ飛ばされた。



目の前に広がった参事に、考えるよりも先に身体が動いた。
それは、爆豪と切島くんも…とっさに判断した状況に飛び出していったんだ。


爆豪があの靄野郎を抑え込み、合流していた轟くんが…なんだか大変なことになっているオールマイトを拘束していた変な奴を凍らせた。

私は…


「ッらぁああ!!覚悟!!!!」

あの手がいっぱいついた奴に拳を振りかぶった、が。ひょい、と切島くんと共に躱されたけど…なんのこれしき!接近戦は私の得意分野だこの野郎!!

ぐりんっ、て身を翻して再度あの手野郎に回し蹴りを繰り出せばソイツは手でガードしたが、まぁ見るからにヒョロそうだもんね!!ドサァアって派手な音立ててソイツは吹っ飛んでいったが、

「…っ!!??」
繰り出した足に走った痛みに私は目を見張った。

アイツがとっさに手を出してガードしたのかと思ったけど、私のふくらはぎ辺りは服も皮膚も、そう、なんだか崩壊しているように裂傷していた。

「…っ!個性か!!」

「あぁあぁーーっ、いってぇー…っっ。出入り口、抑えられたぁ……こりゃぁ、ピンチだなあ…」


ガラガラと掠れた、不気味なその声。
のそりと起き上がったソイツと目があった途端に走るゾワリとした嫌な感じに、コイツ…かなり頭イっちゃってる人だ!って確信した。

ニタァ、と笑った顔が私をみて、ソイツは「よりによって、女の子に蹴られちゃったなぁ…」
情けねぇ〜〜、とかほざいてる。

「攻略された上に…全員ほぼ無傷…すごいなぁ〜最近の子供は…恥ずかしくなってくるぜ…敵連合…!」

出入り口を奪還する、爆発小僧をやれ脳無。

そう言った手野郎の命令を聞くように、あの地面に変な形で埋まってた怪物が己の身体をボロボロと凍らせた部分を壊しながら這い上がってきた。

「身体が割れてるのに!動いてる…!!」
「皆んな下がれ!!なんだ!?ショック吸収の“個性”じゃないのか!?」

オールマイトセンセーがみんなを庇うように手を広げて言ったショック吸収だったはずのあの怪物の個性、しかし、あれはどう見ても…再生してる!!!

私の記録している“超回復”の完全上位互換の…

「別に、“それ”だけとは言ってないだろう?これは“超再生”だな」

「「「「!?」」」」」

“ソレだけとは”…って、!この怪物…!!いくつも個性持ってるって事!?

ズク、ズク、ともげた手足を再生させながら、あの怪物が爆豪を襲いかかろうと物凄い速さで動き、私はテレポで爆豪の元へ飛んで、そのまま掴んで一緒に飛ぼうと思ったけどっ、
「(ッッ早いっっ)」

「かっちゃん!!!!」
「みょうじ!!!!!」

物凄い風圧に視界が揺れ、あ、終わった。って思った直後、私と爆豪はなぜか緑谷くんの隣に尻餅ついてた…。あれ?

「かっちゃん!!??」
「みょうじ!!???」

避けたの!!??って、驚く緑谷くんの声なんて耳に入らなかった。

何も、見えなかった…、一瞬だった…、これが、プロヒーロー…。
オールマイトセンセーに私達は咄嗟に身体を押されてあの怪物から守られた。




加減を知らんのか、とセンセーが言った事に対してあの手野郎は仲間を助けるためだ。と言った。

他が為に振るう暴力は、美談になる。同じ暴力に変わりはないのに…ヒーローと敵でカテゴライズされて、善し悪しが決まる…所詮、平和の象徴なんて抑圧の為の暴力装置。

暴力は、暴力しか生まない……。


手の野郎のその言葉に、私は………平和の為に、と…自分を始末しようとする人達の事を思い浮かべてしまった…。


ああ…どうしよう…、ちょっとでも、その通りだ。って思ってしまった自分がいる。


私を監視している人達からしたら…私は敵としか見られていないんだもの。





ヒーローにならなきゃ…、私は正義の名の下にきっと…消されてしまう…。


私には自分の人生の選択肢が無いのだ。





一瞬でもヒーロー達と対峙する自分の姿を思い浮かべてしまった。