羽虫のキモチ
それはそれは…超、一目ぼれでした。
ふわふわな金色の髪の毛に、ガラス玉に海を閉じ込めたみたいな瞳…。
能力者の方々は、海に嫌われてしまうけれど。
でも、その身を海の底へ…底へ、と引きずり込む様は…私にはどうも、それがまるで大好きな人を離さないんだからね!と言わんばかりな気がして。
私は能力者では無いけれど、あの人の、あの、海の様な瞳に溺れてしまいそうになりました…。
いえ、もう既に溺れているのですが…
「…はぁ、はぁ…そーちょぉ…今日も素晴らしくかぁっこぃい…はぁ…むり…息が苦しい…」
しんじゃう。今日もそーちょーがカッコ良すぎて、目に映すだけでカッコよ死しそう…デス!!
むりむりむり、3秒以上そーちょーを見てると私の両眼は焼かれてしまいます!かっこいい!むり!すき!!!
しゃん、と素晴らしくきれいな姿勢で歩いてるお姿を見るだけでもう私はくたばりそうです!
はぁ…、はぁーーっ、もうこれ国宝!!国のお宝…っいや!世界のお宝と言っても過言ではありません!
なにがラフテル!なにがワンピース!!!この世の全てはココにあるではありませんか!!!!ここ!!!革命軍本部の!!!バルディゴに!!!!
…っぎゃぁああああ!!!!そぉおおちょぉおがぁあ!!!ほほえんでおるぁああ!!!カメラ!!!カメラァア!!!
カシャカシャカシャッ
「ミロ…ちゃん…?え…何してるの、かな…?」
「…はっ!コアラちゃん!あの!これは!その…、あ!ほら!記録当番だから!そう!そう!本部での出来事を記録する係だから!うん!今それに就任したかんじ?うん!」
「…いや、いやいや、ウチにそんな部署あったっけ?どぉーせまたサボ君でも盗撮…、あ!サボくーーん!」
「え!?!?そーちょー!?」
シュババ!!!!!
ええ!もう!光の如くです!!
コアラちゃんめ!!この私がそーちょーの目に移るなど万死に値致しますよ!!私は陰ながらそーちょーを見てるのが至極幸せでありまして!おおおおおおおお話など!!おおおおおおお声を掛けて頂くなどもってのほかです!!そーちょーが汚染されてしまいます!!
「おー、コアラ。…あれ?なんかもう一人居なかったか??」
「…あー、うん。まぁ…うん。」
ひぇぁああ!!どぉしよう!どぉしましょー!!そーちょーが!!こんな!!近くに!!あ!だめ!だめだめ!コアラちゃんこっち見ないで!!しーっ!!しーーーっだからね!おねがい!はやく!!そーちょーを!!私の傍から!放して!!!しんじゃう!!ちょーーいいにおいするぅあああ!!!!!…死…。(合掌)
…さっき、私が、居た所に…、そーちょーが、立っていらっしゃる…。
もう、それだけで幸せでした…。
咄嗟に隠れた木箱の中、私は人知れず涙で顔を濡らして歓喜に胸をいっぱいに…ああ、もう…いま世界が滅んでも…良いくらい……いや、世界滅んだらそーちょーも巻き添えに…っそれはだめだろ!世界め!!!生きろ!!!
はふぅっ、はふぅっ、と、木箱の中は息苦しくて。
木目の隙間から除くそーちょーの麗しのお姿は程よくぼんやりとしていて、あ、これくらいぼんやりしてた方が凝視できますね!、と気づきました!
はぁ…、苦しい、息が、苦しい…、胸が高鳴って仕方ありません。
初めて…、そーちょーを拝見いたしました時から…とても、とてもお慕い申しております…好き、好き…好きすぎてお名前を口にする事すらおこがましく…はぁ…胸が、ちくちくと痛みます…、これが恋…初めて会った瞬間…私の世界はきらめきに満ちております…!わたし!そーちょーの為でしたら火の中水の中草の中!!どこまででもお供致しましょう!!!ええ!!遠目からになりますが!!!
「あ、コアラ。そう言えばよ、下っ端の方の奴らにゴリラが居るって噂聞いた事あるか??」
「なにそれ。ゴリラはサボ君でしょ?」
「どうも恐ろしく怪力で断崖絶壁の崖をパンチ一発で粉砕できるらしいぜ!!」
「や、だからそれ君もできるでしょ?核がどうの、って。…まぁ、私はそのゴリラちゃん、知ってるけどね〜
ゴリラ同士、案外お似合い?だったりして!」
なんだよそれー、って。
そーちょーは国宝級の笑顔でコアラちゃんとお話していて、私は木箱の中からその様子を恐れ多くも覗かせて頂いているわけですが。
いや、すげぇな。
コアラちゃんってばゴリラの知り合いおるんか。やべぇな。しかし下っ端の人にゴリラなんて居ましたでしょうか?
万年下っ端という肩書を頂戴しております私の認識内には把握できていないのですが…うぅーん?
両足を抱え込む様にして木箱の中で小さく小さく身を潜めながら私は頭を捻っていれば、向こうの方ではそーちょーとコアラちゃんが談笑に花を咲かせていて、ええ…ここが楽園かな…?と心がほっこりと満たされていくようで。
そしてやっぱり狭い所は落ち着くなぁ、って。この、なんとも言えない、身動き一つできないくらいぎゅうぎゅうに押し込まれてる感じ…
「はぁ…落ち着く…、この中に居れば、痛い事は無いもんね。」
お仕置きだよ?、と笑顔で言った悪魔は。
狭い所に私を押し込むのが大好きで。
でも悪魔が思ってるみたいに私にとってそれはお仕置きなんかじゃなかった。
閉じ込められてる間は、ただ、唯一の安心できる時で。ちょっと苦しいけど、痛いよりは全然マシだもの。
「あ。だめだめ。落ちない落ちない。」
ちょーーーーっと気を抜くとすぐにダークサイドへ片足突っ込んじゃうのは私の悪い癖ですね!
木目の隙間からチラリと見たそーちょーとコアラちゃんは、何処からか二人を呼ぶ声がして、そーちょーがその、声すらも素敵すぎるお返事をされてからコアラちゃんと共にその場から立ち去って行きました。
「…え?」
奇麗に伸びた背筋をぼんやりとする視界で拝んでいた時、チラ、っと…、
…いやいやいや、流石にそれは無いですね!
まさか!そーちょーと目が合った気がしたなんて!!ええ!きっと気のせいですね!!
去り際、振り向いてこちらを見た様な気がしたそーちょーは何事も無くその場を立ち去って行かれたわけですが。
私の心臓はもう爆発寸前で、暫くこの場から動けそうにないな、って…、先ずはこの暴れん坊のどきどきを落ち着かせることに専念せねば!!、と。結局午前中はずっと木箱の中でぎゅうぎゅうに自分を押し込んでいて…、
「あれ…ここどこ…………?」
気づいた時はなんだかベッドの上で寝てました。
天井を見つめていた目を、ふ…、と横にずらした時に一瞬見えたあのふわふわな御髪。
その毛先数本を視界に居れた瞬間に私は「びゃぁあ!!??」と、マヌケな悲鳴を上げてすかさず身を隠そうとベッドから飛びあがった所ををををををををををを!!????
「なぁお前なんであんな木箱の中に居たんだ?」
まるで!まるで!!!!羽虫を叩き落とすかの如く!!ベッドに!!!!べし!!って!!!
「…あとよ。…………コレ、説明してくれるかなぁ?んん?」
ガシィイ!!っと、顔面鷲掴みにされてベッドに押し付けられてるんですけど!!これ!なんのご褒美でしょうか!?わたし!もう既に瀕死です!!!って、必死に心を落ち着かせようとしていた私に、パサっと投げられたソレは、わたしの大事な大事な大事な………、
「俺ばっか写ったこの写真の束、君のポケットから出て来たけど。どういう事か説明できるよな?ん?」
血の気が引くとはこの事ですね。ええ。
死んだわ。南無三。
一気に慌てていた心臓が、スゥー……と落ち着きを見せたけど。
この…………顔に…………触れている……………手よ…っっっ!!!!
「ふぁ…………いいかほりですぅ……」
「は?きもちわる!」
ふんわり香ったそーちょーの良い香りに、思わず心の声が漏れてしまって……、
きっと、叶う事はないだろうと思っていたそーちょーとの初めての会話が今この瞬間に叶いました。
そのゴミ溜めを見るような視線すらも…とても愛おしく感じております…はい。
すんすんと思わずそーちょーのグローブがされた御手の香りを堪能していれば、パっと放された手に少しの名残惜しさを感じてしまい、しかしこの今までにない距離感からの解放に少しの安堵も感じて、ええ、もう心臓破裂寸前ですからね!!!
うわぁぁ……、って身を後退させていらっしゃるそーちょー。
もう同じ部屋同じ空間に居るってだけでも死亡案件なのに、その手で触れられたと思うと至極感涙の極みかと!!
「もぅ…むり…、しんじゃう…っ」
「…は?」
この巡りあわせもきっと何かの縁!この機を逃したらきっともう伝える事もままならないだろう。
私は一端の下っ端で、このお方は革命軍ナンバー2と言われる参謀総長!
そもそもこうしてお話させて頂いているのも分不相応!チャンスは逃がさない!今言わないでいつ言うの!?ミロ!!己を奮い立たせるのよ!!ミロ!!!
「あぁああああの!!!!」
「ぅおぁ!な、なんだいきなり!」
「ずっと…!ずっと!初めてお会いした時から、っす!すすすす!!!っ…っ」
す、っ、す、
あと、一言が喉につっかえてしまって出てこなくって。
きっとそーちょーから見たら顔面汗だくだし、目線も定まらないであろう奇怪な人物に見えてるに違いない。
だってめっちゃドン引きされてるもん!!!
ぎゅぅうっと握った拳も手汗が尋常じゃない量を分泌しているし、思わずベッドの上で正座したまま固まる私をどう思っているかなんて…、どう思ってもきっと“変な奴”認定されたのは間違いないでしょう!ね!!
これから私はこのお方に気持ちを伝えようとしていると思うと顔から火が出そうな勢いで恥ずかしくて、その麗しのご尊顔を見て気持ちを伝える事なんてできる訳もなく。
無礼を承知で私は下をうつ向いたまま、大きく息を吸って、吐いて、吸って、吐いて…、
「…っわたしは!参謀総長を…っお、おお慕い申しております!!故に!!!この身を全て!!貴方様に捧げましょう!!!」
「…はぁああ!??」
「是非とも弾除けとして私!ミロを肉壁として使って頂ければ至極光栄でございます!!!」
そーちょーへ向かう脅威は全て私が叩き落としてくれましょう!
こうみえて私はとても頑丈です!力持ちです!万年下っ端ですが、きっとお役に立てる事と思いますよ!
だって、だってだって!私はそーちょーが大好きですから!
大好きで、大好きなんです!
「羽虫程の命ではございますが。わたくし、この身を焼かれようとも命尽きるその日まで総長をお守り致したいと存じております!!ええ!職務の邪魔は致しません!わたくし存在を粒子レベルで消すのが得意であります故!影ながら毎日総長をっ、そ、そうちょうをぉ…っ、うぇっぐ、みまもっでっ…っぐずんっ…っごめ、ごべんだざいっっ…っ」
大好きなそーちょーと面と向かって会話をしていると思うだけで感極まりすぎて涙腺が崩壊致しました。
オロオロとそーちょーが困った様にしているのが空気でもわかります。
違うんです、そーちょー。
わたしは貴方様を困らせたいわけではないのです。ごめんなさい、すみません、うまく、伝えられなくて、!
下をうつ向いてボロボロと泣き崩れる様子はさぞ異様で奇怪でしょう。
すぅ、とそーちょーの御手が視界に入り……、あろうことか……、!!
ぽん、と……、私の肩に触れるのは…っ
「いや、なんつぅか…えっと…、お、落ち着け?うん、落ち着こうか?えぇ、っと、ミロ?だっけか、うんお前なんか今すげぇ顔してっぞ?」
「そ、そそそそそそそぅちょぉに…っ、な、なまえっ、なまっっ、…っ!!
…………この人生に…っ!悔い、無し…!!!!」
「あっ、おい!!!」
ブツ、っと意識が完全にシャットアウトしました。
齢21にして、私は幸せを全うして今、天国へと旅たちます!!
拝啓、参謀総長様。
どうか、どうか…っ、小指の甘皮程でも宜しいので。
どうぞ、このわたくし。革命軍万年下っ端のミロを…どうぞ、よろしくお願い致します。
世界で一番大好きです!