未知との遭遇

…………すっげぇ…………やべぇ奴に、会っちまった…。


多分イワンコフと初めて会った時並の衝撃だった。


まず初めに何故かソイツはちいせぇ木箱の中にどうやって入ればこれ蓋閉まるんだよ、ってくれぇ身体を折り曲げてそん中で酸欠になって死にかけてた。


朝、コアラが俺を呼ぶ声がしてそっちに向かってみりゃ。振り向きざまにはもう一人気配があったはずの其処にはコアラしか居なくて。

あれ?って思った後に背後の壁際の方に積まれた木箱の陰から異様な気配を一瞬感じ取って。まぁ、気づかないふりをしたままコアラと少し話し込めば向こうの方から俺達を呼ぶ声が聞こえてその場を後にした。

昼前くらいに、やっぱりその気配が気になって。まぁ、なんか動物でも迷い込んだか?って思いあの積まれた木箱の一つを何と無しに開けてみれば…。

もうな、心臓が飛び出るかと思ったよな。

どーーーーーみても人間なんて入れねぇだろ!!って小ささの木箱に、女の子がぎゅうぎゅうに収まってりゃぁ、一瞬死体が隠されてるのかと思うくれェで。
恐る恐る顔を近づけてみれば辛うじて小さく呼吸する音が聞こえて慌てて中から引っ張り出せばにょろっと出て来たその子は見たことの無い顔で。

最近入った新入りか…?しかしなんでまたこんなところに…、いじめか…??なんて、疑問に思考を巡らせていた時、ぱさぱさ、っと抱き上げたその子の服のポケットから沢山の同じ大きさのカードの様な束が落ちた。


「ぅお…、と。…ん?なんだ、写真か………、って…、これ全部俺の写真じゃねぇか!」


え?え?なに??こわ!こわ!!!

思わずその子を床に置いてから俺は落ちた写真の束を一枚一枚見れば…っ、えええ!!!
全っっ然!いつ取られたかも分からねぇ場面の写真ばかりで。
しかも全部俺がばっちり映り込んでやがる!!

最近入った新入りかと思いきやコイツ!そこそこ長くいる奴だ!!
だってなんかガキの頃の写真まであるぞ!えぇ!!


「……こ、こんなヤベェ奴…居たっけな…」

見た感じ、コアラと同じくらいの年頃の女の子だ。
何年も撮りためたで在ろう俺の写真の束は、わりかし奇麗な物から少し古ぼけて四隅が擦り切れてる物まであるし。
なにより写真と共にコトリと落ちたこの小型のカメラが全てを物語っていた。

何年も、俺はコイツに気が付かなかったのか?
今日の、今日まで、俺はコイツの顔を見た事も無かった。今、初めて会った奴が、自分の写真を沢山所持している事に言い表しようのない恐怖を感じて、そぉっと目線をやったコイツはどこか苦しそうな表情で未だ目は閉じたままだ。


と、とりあえず…医務室連れていくか…。

















「この身を全て!!貴方様に捧げましょう!!!!」


やべーー、奴だった。

「弾除けとして!!」

あ。そっちね。



目を覚ましたこの子は、思った通り中々のヤバい子で。

俺を視界に完全にとらえる前にちょっと感心するレベルの身のこなしで逃げようとした所をつい、ベッドに叩き落とすみてぇにして。ついでに逃げられない様に丸っこい頭をがっしりと顔面から掴めば…なんか…匂い嗅がれた…。


きょどきょどと、どもりながら話すこの子は。たぶん、いや、どう見ても俺に好意を寄せているのが言われなくても分かるレベルで。

まぁ、自分で言うのも何だが。そこそこ女は寄ってくる質だし、どうせこの子もそんな所だろうって思ってりゃぁ俺に身を捧げるだの言いだして。

なに?抱かれたいの?、ってちょっと冷めた目でこの子を見下ろせば次に口から出たその言葉に一気に脱力した。


一回だけでもいいから抱いて、と俺にせがむ女は…今まで数多く居た。

俺も男だ。言い寄ってくる女全員を相手にする訳じゃないが、まぁ、いいかなって思った奴とは一夜限りのー、って言ってたくせに後々めんどくせぇ事になる事がしばしばあって。
正直うんざりしてるんだがな。うん。まさかな。うん。



「まさかの弾除け…肉壁、って…まじかこいつ…」

なんか急に嗚咽掻きだして泣き崩れたこの子に、流石に心配になってその小さく震える方に指先をちょんっと触れた瞬間に意識飛ばして前のめりにぶっ倒れちまったのを咄嗟に受け止めれば…、


あ。

…………やっべぇー……。


「うん。事故だ。これは事故だ。…しかし、デケェな…。」

「…………ナニしてんのかな?サボ君…?」


ふら、っと倒れたこの子、えぇっと確かミロって言ったかな。
咄嗟に出した手で支えた時に思いっきり胸を触っちまって。
体形が分からない様な大きめの服を着たこの子からは想像できないくらい立派な物をお持ちだったようだから。

一瞬。断じて!一瞬!!ほんっと!小指の甘皮程だが!!!ちょっと俺の事好きなら相手してやってもいいかな、とか我ながら下衆めいた思考を一瞬な!!脳内を過ったけども。

いや、やっぱ無いわ。って。

だってこいつ、多分俺のストーカーだわ。


ガチャリと医務室に入って来たコアラに、ゴミを見る様な目で見られたのは解せないがな。


「てゆうか。え?ミロちゃんどうしたの?!」
「あ?お前コイツと知り合いか?」

あわあわと駆け寄って来たコアラがミロって子の身体を俺から奪い取るみてぇに抱きとめて数回頬をぺちぺちと叩いては顔を近づけて「うん、息はある!」と謎に生存確認をし。俺の方をギュン!って目くじら立ててみて来た。

「ちょっと!サボ君なにしたの!まさかこの子に話しかけたとか触ったとか…っは!?まさか…この子の名を…口に、した…とか…?」
「え?あ?はぁ?いや、普通に…、いや普通じゃねぇけど、話し、したけどよ…、なんか過呼吸気味だったから大丈夫か?って肩に触れた瞬間、「それだぁあああ!!!!」…は?」


あー!あああーー!触っちゃったかぁー!ついにサボ君と対峙する日が来ちゃったかー!たいへんだぁーたいへんだぁーー!

あーあー、って一人頭抱えて騒ぐコアラに。まるで意味わからん。って顔を顰めれば、ミロって子をベッドに優しく横たわらせて布団を首元までかけたコアラは。

あろうことかその子の耳元に口を寄せて、

「ミロちゃん。今日起きた事は全て夢よ。夢よ…、夢。夢なのよ…」
「お、おい、何して、?」

「サボ君。この子にとって、今日起きた事は全て幻にした方が…、この子の為なのよ。」


まるで意味わからん。





まるで、意味わからん。


















「えぇ!?あの子!あの後ずっと木箱の中に潜んでたってことォー!?もぉ!全く!!!直ぐに戻ってあげればよかったぁー!」


とりあえず、目を覚ました時に俺が居るのはあの子の命に係わる、と。コアラに医務室から連れ出されて、なんであの子が医務室に居たのか経緯を聞かれて軽く説明すれば、狭い所に隠れるのがあの子の癖だが。
度々、そのまま出てこないで今日みてぇに酸欠で死にかけてる事が多々あったらしい。

そしてあの子は14歳の頃革命軍入りしてきたコアラとは同時期に入った子で、中々の年月をココで過ごしてたと言うのに俺は一度もこの子を、今日まで見たことが無かった。

因みに歳は俺の一つ下らしい。


「まぁーーね、うん。ミロってば隠れるのすっごい上手だし、気配消すのも凄いからねぇ〜。サボ君が気づかないのは無理ないかな。だってミロ、サボ君命!って感じだから。あの子曰く遠目でサボ君を見てないと両目が焼き溶けるらしいよ?ふふふ〜愛されてんね?」

「……いや、重すぎるわ…、すげぇ量の…俺の写真、持ってた、ぞ…、」
「……ありゃ」

ついに見つかる日が来たかぁー、と、他人事の様に言ってるコアラに。
俺はあの得体の知れない、今までにあった事も無いくらいのインパクトを植え付けられた女にちょっとばかし興味が沸いて。

「あの子…俺の弾除けの肉壁になる、とか言ってたんだけど。」

一体何者なんだ、?





「……。そう、そんな事。言ってたんだ。ミロ。」

一転。

真面目な顔になったコアラに疑問を感じた。








「あの子はね。凄いよ…。ほんと、何で幹部じゃないのかが不思議なくらい。…強い子だよ。」


私はあの子の強さが時々怖くて仕方ないもの。



そう言ったコアラの表情は、気味悪い笑みを顔に張り付けた人形見てぇな顔だった。





…強い、のか…?

あの子が。??




俺と目すらも合わせられないくらいにきょどった姿に、全く想像が出来なかった。




「なんだお前ら辛気臭い顔して」

「お、ハック。」
「あ、ハックー!!ミロってば遂にサボ君に見つかっちゃったよー!!」

タタタ、とハックに駆け寄っていたコアラは。さっきまでの気味悪い顔じゃなくて何時ものコアラだった。

って…!

「ハックもあの子知ってるのかよ!!!」

「おぉ。ついにバレちまったか!こりゃ夜は赤飯か?」
「んふふ〜〜、多分ね、サボ君だけだよ?あの子に合った事ないの、って。」


何年越しの邂逅かしらねぇ〜〜。なんて、ニヤニヤと俺を見ながら目を細めて笑うコアラに、ハックは何故かその目に涙すら浮かべてた。えぇ…。


「やっと…!やっと…!報われる日が来たんだなァ…っ!!」
「報われる、って言っても。やっと会話したくらいだよ!ちょっとばかし会話してあの子失神したんだよ!?やっぱまだ早かったのかなぁ、サボ君と会うのは…」

「いやいやいや!お前ら、ちょっと待て、え?なんなの?あの子、完全に俺のストーカー…」

「……うん、まぁ。実害は、ないでしょ?…え?下着無くなったとか…いや、流石に一線は超えないか。うん。…多分。」
「まぁなんだ…遠目からおめぇを見るくれぇは許してやってくれよ。悪い子じゃないんだ。」



え…………あの子俺の下着狙ってんの…???


「いや、なんか、めっちゃ俺の写真の束…持ってたけど…」




「「…………あーー…。」」




え?待て?頭いてぇぞ?








俺を好きだと言う女は今まで何人も相手して来た。

割り切った関係を望む割に、結局女はめんどくせぇな、って冷たく接すれば金切り声でうるさく騒ぐあの生物に嫌気がさすが。結局俺も男なんだよな。


今回も適当に相手してやればいいかな、なんて思ってたあの未知の生物は。
おれの予想を遥かに超えるヤバい奴で。

ただ…、あの胸は……。

「…申し分ねぇな…」

「ん?なんか言ったサボ君?」

「いや、なんも。」




ちょっとばかし、面白れぇモン見つけちまったかなー。なんて。

隠れるのが上手だと言うあの子。


長年、その存在に気づけなかった俺。


聞いた感じだと、四六時中。本部に居る時は俺を付け回していると言うその子は、本当に気配を消すのがうまいな、って。そこは感心した。


「あ。そういえば。サボ君が気になってた下っ端のゴリラ。因みにミロの事だから。」
「……はぁ??!」

「あの子、片手で巨人族投げ飛ばせるよ。」
「うそだろ…」


あんな、ちっこいのに、かぁ!?

あまりにも信じられない様な話に、もやもやを抱えたまま翌日。

本部があるこの島でちょっとばかし大規模な落石事故があり、現場に足を運んでみれば、






「ミロちゃーーん!たのむ!こっちも!」

「はぁーーい!っと、よっこいしょーー!っと…、えぇーーい!」



自分の身長の何倍もあろう岩を、まるでビー玉投げる見てぇにポイポイと崖の下に投げ落としてるアイツが居た…。




「……マジかよ。」




土や泥に汚れた顔で、にこにこと笑うアイツは……ちょっと、可愛いじゃねぇか、って…。


「いやいやいや、無いわ。変態だぞ、アイツ。」
「……サボ君限定に、だけどね。普段は普通の女の子なんだけどね!」

そう言ってコアラは、「ミロ〜〜!手伝いに来たけど、私“達”いらなさそうだね〜〜!」と、あの子の元へ駆け寄って行った。




「あ!コアラちゃぁ〜〜〜…、ん”っ!!????ってそぉちょぉおお!!!?うわぁあん!!こんなバッチィわたしをみないでぇええーーー!!!!!」
「あっ!!おい!!ミロちゃん!!!そっちは崖っ!!!」

「ぴゃぁーーーーー!!!!」

あ!おい!!、って驚く俺達の横をすり抜けて目にもとまらぬ速さで駆け抜けていったあの子は、崖からぴょーんって飛び降りたかと思えば


「おいおいおい!結構高さあるぞ!!!」

「……ほら…ミロって、ゴリラだから…丈夫なのよ、カラダ…」

見てみ?、と言ったコアラの言葉に崖下を覗き込めば見事に着地したあの子はダダダダ!と土煙巻きながら走り去っていった…。まぁーじか。


「あー…ったく、なんで総長来ちまうかなぁ。ッチ。おーーい野郎共!ミロちゃん居ねぇが作業すすめっぞー!」

え?舌打ちした?


総長来るんじゃねぇよ。

コアラなんでコイツ連れて来たんだよ。

誰かミロ探して連れ戻してこいや!

そういや遂に昨日ミロの奴サボに見つかったらしいぜ!!!



落石事故の作業に追われる野郎共が口々に俺をジト目でちらちら見ながら文句垂れられた…。

そしてここでも、アイツの存在を知らなかったのは俺だけだったみてぇで。
本当、コアラが言う通り軍の中では俺だけが、あの子の存在を知らなかったんだ。



なんか…面白くねぇー……。








かくれんぼの達人。