蜂蜜食ってる方が似合うだろ!
おもしれぇおもちゃを見つけた。
ミロ、コアラと同じくらい革命軍に在籍して長いのに俺はつい先日コイツの存在を知った。
いやぁまぁ、すっげぇ、隕石でも落ちて来た並のインパクトで俺の前に現れたコイツは、俺のストーカーだった。
一度存在を認知してからは、今までどうして見つけらんなかったのか?ってくらいコイツは分かりやすく俺を付け回している事に気が付いた。
俺以外、皆コイツを知っていて。
コイツは下っ端の下っ端だったが、そのステルススキルを存分に生かした諜報任務や…まぁ、所謂汚れ仕事って言われてる暗殺とかを主に担ってるとコアラから聞いた。
正直、あんなアホっぽい子に暗殺…?って全く信じられないんだがなぁ。
ま。そんなあの子は名実ともに俺の事が大好きな様で?
しかも大好きな俺が近寄ると、もー、そりゃ面白れぇ位に慌てふためくもんだからすっげー揶揄いたくなっちまって、コイツは俺が小指の先程でも触れりゃぁ簡単にコロっと意識飛ばして卒倒するんだよ!
しかも白目むいて!!ちょーーうける!アホ面ってまさにこの子の代名詞だ、って腹抱えて笑えばコアラにすげぇキレられた。
うん、コアラ、コイツの姉ちゃんみてぇだもんなぁ。
今朝も今朝で何やら視界の端っこで俺をオカズ(笑)に一人悶えてるあの子を見つけて、揶揄ってやろーって話かければまた面白いくらいに卒倒した。
これから、コイツに任務があるのに!と、ぷりぷり怒るコアラ。
ありゃま。ちょっと悪い事しちまったな、ってとりあえずコイツ運んでやるか、とその身を抱き上げるのはもう何回目だろうか。
コイツ意識ない時だけだなー、まともに触れられるの。あー…指先に当たる横乳が最高にやぁらけぇ。
ふにふにと道すがら堪能してれば秒でコアラにバレた。へへ。
「サボ君って結構スケベなところあるよね。」
「や、だっておめぇこの乳はいけねぇよ、うん。」
まるで汚物を見る様な目をくれたコアラがとりあえず医務室へ、と言ったがこれから任務行くってんならコイツの部屋で寝かせてた方がその後の準備もしやすいだろ、って俺はここの奴らが寝泊まりするフロアの方へと足を進めた。
コアラが必死に止めるのを、その理由を知る事になるのはもうすぐの事だ。
「いや、何だこれ…いや、さすがに。ねぇわ…」
「…………ミロ…ごめん…」
つか、下っ端にしてももうちょっといい部屋割り当てられるだろ!ってくらい狭いコイツの部屋は。
ベッドとちいせぇ机と椅子。それしかなかった。が!
「おいおいおい…なんだあの天井のデケェ俺は……いつ撮ったんだよ…」
上裸でストレッチでもしてんのか…なんか、うん、そんな写真が引き伸ばされて天井に貼られてた……ヒデェ…。
ふ、と目線を流して机の上を見ればそこにも写真立てに入ってる俺…壁にも俺、天井にも俺、俺ばかりのこの部屋。
ほぼ、無意識に机の引き出しを何となく開けてみれば…
「“麗しの参謀総長観察日記Vo,13”…………って、1~12まであんのかよ!!!!」
「あぁ!!!ちょっとサボ君!女の子の部屋漁るなんて!!」
「女の子!!ハッ!!完全にストーカーだろコイツ!!!くそ!気味悪ぃ!全部没収すっからな!!」
数個ある引き出しを全て開けて中を見れば観察日記と称したストーカー記録帖が沢山出て来て、壁やら…ってめぇどうやって天井に貼ったんだよ!!ってあのデケェ俺のポスターやら全て押収してやった!!っへ!どーせ俺に近寄れないこのストーカーのこった、返してほしくば俺の部屋まで来ればいいさ!
ぜってぇ返さねぇがな!
…………ま、無理だと思うが、ちゃんと目ェみてお願いできるんってなら、考えてやる。
両手いっぱいにテメェの写真やら変な日記やらを抱えて廊下を歩けば出くわしたハックにめっちゃ引きつった顔されたが…あれもこれも全部アイツのせいだ!
自室のドアを肘でどうにかドアノブをいじって足で開けて入る。
ベッドにドサっと抱えてたもんを投げ置いて改めてアイツの気持ち悪りぃコレクションの山に頭を抱えた…、あの、初めてアイツと会った時に押収した写真も中々の量だったが……
「アイツ…やべぇよ…なんで気付けなかったかなぁー…」
パラ、パラ、と俺だけが写った写真を一枚一枚見てみりゃ、10代の頃の写真とかも出てきて…まじか、って。
ふと、アイツはなんで俺にこんなにも病的に夢中なんだ、って気になって。
あの謎の俺の記録日記とやらの1番古いであろう少し黄ばんで古ぼけた1冊を手にとってページを捲った。
◯月◯日(晴れ)
今日から日記をつけようと思いました。
それと言うのも、昨日とても素敵な事があったからです。
革命軍の方に、保護されてからも悪魔からの呪いが私を蝕む中
私はとても素敵な殿方と出会いました。
ふわふわの金色の髪は、陽の光を取り込んでキラキラと眩しくて、
まるで海を閉じ込めたようなあの瞳に、能力者でも無いのに私は溺れてしまいました。
一目惚れ…と、言うのでしょうか…。
生まれて、初めての感情に戸惑いを隠せません。
こんな…薄汚れて汚い私でも人並みの感情があった事に…
「…泣くほどかよ、」
続きの文章は、アイツ泣きながら書いたのかインクが滲んで読めなかった。
その後もペラペラと流し読み程度に見たその日記のような俺の付きまとい記録は、最初頃こそ謙虚な文章だったのに冊数を重ねるにつれて、まぁー、きもちわりぃ内容になってて見るに耐えなかった…やべぇよ…抜けた髪の毛拾ったとか書いてあったぞ…まじかよアイツ…
そしてそんな見るに耐えない内容も、多々気になるワードがちょいちょいあって、
「アイツ…軍の奴に保護された、って…悪魔とか、呪いとか…何があったんだ、アイツに、」
なんとなく、過ぎった仮説。
でもそうだとしても俺がアイツに気付いてからアイツはいつもニコニコと底抜けに明るくてちょっと鈍臭いアホだ。
そんなアホに…あまりにも重すぎる過去を想像してしまった。
「……こればっかりは、聞ける話じゃねぇよなぁー…」
ここにいる奴らは、なんかしら過去に問題を抱えた奴が多くいる。
打倒世界政府。
打倒世界貴族…。
ぼふ、とベッドに身を沈めて天井をぼーっと見つめた。
「虫も殺せねぇような顔してるくせに…、アイツに殺しなんて、出来んのかよ…」
「あー!サボ君やっと見つけた!」
向こうの方からコアラが駆け寄ってきて、どうやら俺を探していたらしい。
アイツから押収したやばいコレクションを適当に仕舞って部屋を出た俺はアイツが参加する任務に後々俺も関わるかもしれないと小電々虫から連絡があり、作戦会議へ向かうべく歩いていたところを、
どうやらコアラもその件で俺を連れに来たようだ。
廊下を二人並んで歩きながら大まかな流れを聞けば、どうやらアイツ、ミロは先遣隊が手こずってるターゲットのアジトを突き止めるべくアイツの諜報スキルを買われて抜擢されたと聞いた。
そしてそのままアジトを発見次第、殲滅にかかるとか…。
「…俺ァ、どーもあの子が殺しとか出来る様には見えないんだがなぁ」
「ミロは…、あんなんだけど。仕事はいつも完璧にこなすよ。失敗した事なんてない、全部、完璧…。」
「……コアラ?」
たまにアイツの事でコアラは塞ぎこむような表情をするのには気づかないほど鈍くねぇ。
やっぱり、アイツの過去と何か関係があるのかとか、コアラは…確実に、アイツの過去を知っている。確信めいたそれについポロッと聞いてしまった。
「…アイツって…うちに来る前は…」
「ごめん、サボ君。」
あの子の事は、私が簡単に誰かに教える事はできない。
真っ直ぐと俺を見たコアラに、ストン、と立てていた仮説が確信に変わった。
……あの能天気なちんちくりんに、そんな過酷であっただろう運命は似合わないと思った…。
島の港に寄港している一隻の商船はこれから例の島へと向かう謂わばカモフラージュ用の商船と見せかけた船だ。
あれに乗ってアイツは任務へと向かうらしい。
港では何人かの同胞達が見送る中、俺は遠巻きからアイツの事を見ていた。
俺とは全くもって口もまともに聞けないくせに、コアラが言ってたとおりアイツは他の男相手には臆する事なく普通に会話してるのがちょっとムカつく。
しかも普通に!!肘とか小突き合ってっし!
俺が見るアイツは、いっつもオロオロとキョドッては目も合わせてくれねぇし。
触ろうもんなら指先が少し触れただけでも失神するくせに…まぁ、そういうのが楽しくてからかってんだが……なんか面白くねぇなぁー…。
壁にもたれて腕を組みながら影から覗き見るアイツはなんか、ふわ?ぽわ?…まぁ、なんかとにかく、
「普通にしてりゃぁ、ちったぁ可愛いじゃねぇか…」
チッ、と舌打ちをして。どーせ行き着く先は同じ場所なんだ、後から行こうが、今行こうが変わりねぇだろ。って
港から出航した船めがけて思いっきり走り抜けて飛び乗った。
背後からコアラの怒る声と、目の前でびっくりしすぎて目ん玉溢れちまいそうなアイツ。
やめときゃいいのに、つい、コイツを前にするとからかいたくなっちまうのは、何でだろうかねぇー。
ポン、と肩に手を乗せればバタンと倒れたコイツを俺はまた抱き上げて船内へと連れてこうとした時、仲間の言ったその言葉に俺の中の何かが軋んだ。
色の……仕事、って……はぁ?
こんなアホにハニートラップなんて出来んのか?
つか!はぁ!!色気もクソも無いようなコイツに!!?確かに乳は立派だがよ!!いや!無いだろ!!!
思わず力のこもった手でコイツの肩を強く掴んじまって、少し呻き声が漏れた腕の中のコイツを見た。
仲間の言う事も、理解はできる。
正直こんなマヌケが寄ってきたところで警戒なんて誰が持つだろうか。
誘えばホイホイと付いてきたら尚の事、そして意外にもコイツはそう言った情報を聞き出すのが上手いらしい。
は?は…?
コイツ、人の事散々ストーカーして?お慕いしてますー、とか言ってるくせに?任務とありゃぁやる事やってんのかよ。
イライラ
腹の底で、黒いもんがゴプリと湧き出た。
コイツはこれから俺の知らない男に抱かれに行くのか。
いや、つぅか……
「俺もお前の事、なんもしらねぇや……。」
見れる様に化けさせとけ。とは言ったものだ…
女ってやつぁ、っとに化けるから厄介だ。
「ミロー、あんた普段からもっとこー言う服着なさいよ!いっつもあんなダボっとした色気もない服なんか着ちゃって!一生彼氏なんてできないわよ!」
「うわぁーんっ!めっちゃお尻スースーする!姐さん!これ短すぎない!?てゆかおパンツひもーー!!!!防御力ゼロじゃないですかぁ!!」
アイツが失神するから近寄るな!って言われちまった俺は遠目から見たアイツに目が離せなくなった。
いっつも寝癖がぴょんと跳ねたあのタワシみたいな頭は艶のある綺麗な髪に整えられてっし、顔だって化粧して…あのオッドアイが更にクリッと大きく見える。
服も、いつもと違って……アイツ、やっぱり乳デケェ…しかも、腰ほっそ……。
つか!!スカート短すぎるだろ!!!見えるぞ!!そしてその下はなんだ!紐なのか!紐の奴なのかよ!!!まじか!
……無いわ。無いわ、無い。
今すぐにでもさっきみたいにアイツをぶっ倒れさせてこの作戦の使い物にならないお荷物にさせたかった。
ス、っと身を乗り出せば掴まれた肩。
「総長、頼むからアイツを使い物になんねぇ様にすんのは勘弁してくれや。」
「……、本当にあんなのがハニートラップなんて出来んのかよ。」
「……ミロが関わった任務で、失敗は一度も無い。それが答えだ。」
自分でも不思議なくらいに頭にカッと血が上って、つい側にあった樽を蹴りとばせばバラバラに砕けたそれが床に転がった。
面白くねぇ、っとに、面白くねぇ…!!!
ヅカヅカと足を踏みならして船内へと消えていった俺の背後で「まだまだ青いな」、とか聞こえた気がしたが……、うるせぇよ。
「ったく…うちの総長もまだ青いわねぇー、ってゆうかアンタも意地が悪いわ〜」
「ハッ、ミロが遂にサボに見つかったんだぜ??アイツら見てっと面白くってなぁー、ククク、サボのやつ…あれ絶対ェミロが男と寝てるの想像したろ?」
「あの子にそんな度胸あるわけないじゃ無いのねぇ〜?事を致す前にあの怪力でぶっ飛ばされる男がカワイソーよねぇ〜」
バンッ!!
派手に音を立てて開けた扉の先で数人の仲間が今回行われる作戦の最終確認をしていて、
俺はツカツカとその机に広げられた資料を見てから、なんだなんだと少し戸惑っている仲間に言った、
「おい、これからアイツ…、ミロが色かけるターゲットの情報見せてくれ」
「え!?あ、ちょっ、総長!?」
これか、とひったくる様にファイルをひっ掴んで中身をペラペラと確認すれば、
「…よりによって海軍将校かよ、ッチ」
「そ、総長…?」
「これからの大まかな流れ教えろ。特にこのアホが色掛ける時の作戦だ。」
あ、はい!、と、俺はこの作戦の概要を仲間から聞いて頭に叩き込んで行った。
くっそ。
なんなんだよこのイラつきは、ったく…っ、
さっきから頭ン中チラつくのはずーっと、アイツの女を匂わせた姿だ。
くそムカつく。
知らない顔の“オンナ”のオマエ