地獄。閻魔殿にて。
えっちらおっちらと資料を抱えたひとりの鬼獄卒が、鬼灯の執務室へ向かっていた。あらかじめ扉が開いていたため中にいるであろう鬼灯に向かって呼びかける。
「鬼灯さーん、これ頼まれてた資料です」
「ありがとうございます。すみませんが、そこに置いててくれますか」
「了解です」
失礼しまーす、と鬼獄卒は執務室に入り、机の上にどさりと資料を置いた。一仕事終えた鬼獄卒はふうとひと息つく。
「にしてもすごい量ですねー 何に使うんですか?」
今しがた持ってきたばかりの資料の山を見ながら鬼獄卒は鬼灯に尋ねた。鬼灯は書類に走らせるペンを止めることなく返答する。
「まあ色々ありまして。上手く行けば大幅に人手不足が解消されるかもしれないんですよ」
「へえ! それはすごい」
そう言いながらもう一度ちらりと資料を見るが、あまりにも古い文献で内容の想像ができなかった。タイトルからして主に妖術や呪術に関することのようだけど……。一体何をするつもりなんだろう。きっと俺には想像もつかないようなことなんだろうな。そんなことをぼんやりと思いながら鬼獄卒は頭を軽く搔いた。短く切りそろえた色素の薄い金髪がさらさらと揺れる。
そこでふと思い出したように鬼灯に質問を投げかけた。
「そういえば、霙さんは最近どうなんです? ちょっと前に現世から帰れなくなったって聞きましたけど」
特徴的な青黒髪をなびかせながら元気に金棒を振るう彼女の姿を頭に思い浮かべる。彼女とは随分前に飲み会で知り合って以降、時々刑場で顔を合わせて挨拶を交わしたり、たまに都合が悪い時にシフトを変わったりする程度の仲だ。だから彼女が帰れなくなったと聞いた時からそこそこ心配していたのである。
鬼灯は涼し気な表情を変える事無く言った。
「彼女なら現世で元気に頑張ってますよ。こちらに帰ってくるまで、もうしばらくかかりそうですけどね」
「へえ……」
なかなか大変そうだな、と鬼獄卒がぼんやり思っていると鬼灯が小さくつぶやく。
「呪いの王が獄卒に……とは。なかなか面白いことになりそうですねぇ」
ほとんど独り言のようなそれを、鬼獄卒は完全に理解することはできなかった。
他の雑務の関係もあったため、鬼灯に一礼してから早々に部屋を立ち去る。
……彼女がひとりの見慣れない男性と共に地獄に帰ってきたのは、それからしばらく経った後のことだった。