吾輩は転生者である。
名前はもうある。門叶ハルという。
……なーんてありきたりな挨拶は置いておいて。
どーも皆さんハジメマシテ。人生ハードモード確定な転生者お兄さんだよ〜(白目)
突然だけどみんな、これまでの俺の話を聞いてくれないか。そんなに長くないと思うからさ。いやマジで。
始まりはこうだ。毎週ジャンプを楽しみにしているようなどこにでもいる普通の男子大学生だった俺はある日、連載作品で一番好きだった『チェンソーマン』の世界に転生した。話題()のトラ転とかじゃない。気づいたら赤ん坊だった。……意味がわからない? 奇遇だな、俺もだ。赤子のちいちゃい自分の手を見ながらかなり戸惑ったのを覚えてるよ。「急に何?? ここどこ?? ジャンプは??!」って。それでしばらく赤ん坊生活をして、テレビで悪魔被害のニュースを見た時に気付いたんだ。
「(ここ『チェンソーマン』の世界じゃん!!!)」
と。
ああ、そうだな。知らない人のために軽ーく説明しておこう。『チェンソーマン』っていうのはジャンプで連載されている漫画で、チェーンソーの悪魔の心臓を宿した主人公が文字通りチェンソーマンに変身し、デビルハンターとして悪魔と戦う血みどろアクション……と言った感じの内容だ。確か俺が生きていた時には9巻が最新刊だったと思う。転生した今はどうだか知らないけど。
そうやって生まれた世界について自覚した俺はその瞬間にすっかり頭を抱えた。好きな漫画の世界に行けて幸せじゃないのかって? そういう簡単な話じゃないんだよ。
実はこの『チェンソーマン』とか言う漫画、めちゃめちゃ軽率に人が死ぬんだよな。
そりゃーもうサクサクと。
知ってるか? 9巻時点でのチェンソーマンの名前ありキャラの死亡率。93.3%らしいぞ。93.3%。驚異的過ぎるだろ。ほぼ死んでるじゃん。正直ネットのちょっとした記事でその情報を見たときは「マジで?www」ってなったけど冷静に考えて、ネームドキャラで生き残ってる奴が片手しかねえもんだから信じざるを得なかったよな。つらい現実。
Q.メインキャラですらそんな感じなのにモブが軽率に転生したらどうなる?
A.早死一択。
絶望した。普通に絶望した。クライマックスがいよいよ近づいて来て、さーどうなるんだろうなーと思って毎週ワクワクしてたらまさかその世界に転生とか……『続きは是非自分の目で!』ってか? どう考えてもハードル高すぎんだよ。これじゃ生き残るだけで精いっぱいじゃねえか。成人まで生きれるかもわからんぞこれは。
転生後の人生がハードモードであることを悟った俺はそれから、傍目にも可愛そうなくらいびくびくと怯えながら生活をした。何の変哲もない一般家庭だったけど、悪魔のせいでいつそれが無くなるかどうかも定かじゃない。毎日毎日感謝しながら日々を過ごした。何も知らない両親は多分なんとも思ってなかったんだろうけど。
そんな生活を送っていたある日。小学生になった俺に人生最初の転機が訪れた。
「(早パイじゃん!!)」
そう。同じクラスの隣の席に、早パイこと早川アキがいたのだ。
なるほどこいつと同学年って事は、原作はまだ始まってすらいなかったのか。と俺はしみじみ思う。……まあ、だから安心ってわけでもないけどな。
そこでふと、俺はあることを思った。
こいつをマキマから助けられないか、と。
転生者である俺なら……前知識のある俺なら、きっと最悪の未来を変えられるかもしれない。こいつが迎えるむごたらしい終わりを、最期を、なんとかして変えてやれるのではないかと。そうだ、そういう楽しみ方もあるじゃないか。俺にはきっと、その力がある。なんてったって転生者だからな。この世界に転生してから悲観ばかりしていた俺に、初めて目標ができた瞬間だった。
「なあ俺、門叶ハルってんだ。お前は?」
「……早川アキ」
早速話しかけた俺に、アキはぶっきらぼうに言う。ははあ、早パイって小さい時からこんな感じだったんだな。俺はこれから面白くなりそうな予感をひしひしと感じながら、ニッと歯を見せて笑う。
「よろしくな!」
それから俺たちは仲を深め、いわゆる親友と言われるほどに距離を縮めていった。初めは俺のことをウザがっていたアキがちょっとずつ慣れてついには冗談まで言うようになったときは本当に感動したな。いや冗談とかじゃなくてほんとに。俺たちはいつでも一緒だった。一緒に居ないとそれを見た周囲に「喧嘩したの?」と聞かれるくらいには。
中高も同じ、それから、進路決定も同じ公安のデビルハンターにした。本当は、家族の仇を討つためにデビルハンターになろうとするのを引き止めるつもりだったけど、あいつがあまりにも譲らないから仕方なく同じところを志望した。死ぬのは嫌だったけど、一緒に居たほうがアイツを助けられる確率は上がる。そう考えた。
公安に入ってからあいつはいとも簡単にマキマに心を奪われ、彼女のために働くようになった。ホントにチョロい奴だと思ったよ。俺? 俺は最初からマキマの正体を知っていたから、心を奪われたフリをしていた。バレたら殺されるかなとも思ったけど、意外とそんなことはないようだった。
しばらくデビルハンターとして働いていると、満を持してデンジが公安4課にやって来た。ついに来たか原作、とあの時ばかりは身構えたね。ようやくここからが本題だと。
公安で働くようになってからしていたアキとのルームシェアにデンジが加わり、パワーが加わり、生活が賑やかになった。悪魔との戦いで身体も心もボロボロだったけど、俺は何とか生きていた。地獄で外れた両腕が左腕しかつかなかったとしても、全てはアキを生かすため。アイツの未来を変えるためだと。
……結論から言えば、やっぱり無理だった。
俺には、ああなったアキを止めることができなかった。
助けたかったのに、助けられなかったんだ。
俺は絶対にマキマのところに行くなって何度も何度も言ったし約束もさせたのに。アイツは俺を振り切って行ってしまった。わざわざ俺が寝たのを見計らって、だ。まあ寝たのは俺の落ち度もあるんだけど……。無二の親友の言葉よりも好きな女優先とか、俺たちの友情もその程度だったってかぁ? はーあ、そんなに好きかよあいつのこと。顔か? やっぱ顔なのか? 俺にはわからんね。一応バレないように支配されたフリをしていた俺にはアイツのよさは全くもってわからん。いい身体してるなーとは思うけど。それだけだ。
帰ってきたアキは、もうアキじゃなかった。
デンジと協力してなんとかアイツを封じ込めるのに専念する。デビルハンターをしてそれなりに長いけど、泣きながら戦ったのはこれが初めてだった。それだけ心が苦しかった。なんでこんなことになってしまったんだって。そればっかり考えていた。どうして、どうしてって。
俺もデンジも、何度もアキの名前を呼びかけていたが、それでもアイツは止まらなかった。どうやら最終手段を使うしかないらしい。俺は契約している狐や炎に身体のあちこちを持っていかれた痛みに耐えながら、未来の目を駆使してアイツの背後に回り込み、羽交い絞めにする。
……そして正面から、デンジが俺ごとアキを貫いた。
身体が俺とアキの血でドロドロになる。あーあ。結局、こうなっちまうのかよ。しかも俺の分デンジはメンタルダメージ倍じゃねえか。クソ。どうしてこうも上手くいかねえかなあ……。
チェンソーマンの変身が解けたデンジがこちらを見ている。ごめんな、デンジ。こんな酷なことをさせておいて、最後の言葉もかけてやれないなんて。悪い、……俺は先に行くよ。ごめんな、パワーも。あとは、なんとか生きてくれ。生きてマキマを、……あいつを、なんとか倒してくれ。頼む。そう念じて目を閉じる。腕の中には既に息絶えたアキがいた。
……アキ。大丈夫だ。
原作のお前はひとりだったが、ここには俺がいる。俺が、一緒に逝ってやる。だから大丈夫だ。安心して、ゆっくり休め。
……助けられなくて、ごめんな。
***
なーんて思ってたらまた転生した。
いやーごめんごめん。数行前との温度差でグッピーが数匹死んだんじゃないかな。グッピーに罪はない。悪いのは全部転生した俺だ。不可抗力だけどな。
転生なんて突飛な事象も、流石に2回目ともなれば多少は慣れてくる。またもや赤ん坊に転生したため中身も幼いフリをしながらさーて今度はどこの世界かな〜なんてのんきに考えながら生きていた。ら、小学生の時に目の端によくわからん黒いもやがちらつき始め、その時にやっと気付いた。
「(ここ『呪術廻戦』の世界じゃん……!)」
そう、何を隠そう俺がジャンプの中で『チェンソーマン』の次に好きだった漫画だ。因みにここもモブの死亡率がすこぶる高い。死亡率までは覚えてないけど。メインキャラも割と死ぬが、どっちかといえばモブが死ぬ割合の方が高い印象があったような気がする。なんにせよ、また難儀な世界に転生しちまったことには変わりない。
……でもまあ、だから何だって話だ。
前世ではアキを助けたい一心でデビルハンターなんてやっちまったが、今世では絶対に何もしない。転生者だからって何でもできると思ったら大間違いだ。幸い俺は前世と同じく一般家庭に生まれている。術式とか家柄とか、生まれ持った血筋が運命を左右する……そんなこの世界でこれはかなり大きいだろう。これで御三家とかに生まれた日には地獄しか待ってないぞ。
俺は今世では死んでも原作なんかにゃ関わらない。フツーに生きて、フツーに死ぬ。それが目標だ。
……なのに。
「やっぱ転生者の定めなのかねえ、こういうのって」
長い長い回想という名の自分語りを終え、やれやれとつぶやいた俺の目の前にはバケモノが立ち塞がっていた。見てくれは前世で見たトマトの悪魔とちょっと似ている気がする。グロさが。
そして背後は壁。行き止まりだ。俺は思わず舌打ちする。
正直嫌な予感はしてたんだよねー 「みんなで夜高校に忍び込んで肝試ししよーぜ!」なんて友達が言い出した時から。今考えればフラグ以外の何物でもない。なんであの段階で気づかなかったんだろう。後悔先に立たずってこういうことを言うんだな。
さっと視線をやると、化け物の口元や手足にはべったりと血がついている。この感じだときっとみんなやられちまったんだろうな。あーあ、俺が最後のひとりってワケか。
「クソ、結局こっちでも長生きできねーんじゃねえか……」
自嘲気味につぶやく。転生するたびにどんどん享年が短くなってきてるのは気のせいか? あんまり信じたくない。
「ぎゃわ!!」
「っ!」
不協和音のような鳴き声が響く。大きな口を開いて、トマトの悪魔(仮)は一気にこちらへ駆け寄ってきた。
死の淵に追いやられた俺は後ずさろうとして、背後の壁に身体を押し付ける。だがそれしきのことではあいつの口から逃げることはできない。
死ぬのか。ここで。こんなところで。俺は……。
いやだ。
「(――死にたくない!)」
そう思った次の瞬間、俺は何を思ったのか咄嗟に……ほとんど反射的に、右手で狐を作っていた。アイツの方にその顔を向け、そのまま前世で慣れ親しんだ例の言葉を口にする。
「"コン"!」
――ばぐん!!
背後から現れた大狐が、思い切りトマトの悪魔(仮)に食いついた。悲鳴ひとつ零すことなくそいつを丸ごと口に含む。……いや、まさか、本当に出来るとは思わんかったわ。あまりに驚いた俺はすっかり腰を抜かし、ずるりとその場に座り込む。気づけば手はわずかに震えていた。
俺、生きてる。……でも、いや、それよりも。
「……ま、じで来てくれたのかよ、コン」
「ヒヒヒ。久しいね、ハル」
生前に契約していた狐の悪魔は目を細め、にやりと笑う。
「飲み込んでいい?」
「ああ、いいぞ」
俺が指示するとそのままフッと姿を消す。目の前には地面や壁がえぐれた痕があれど、トマトの悪魔(仮)の姿はない。は、と息を吐きながらつぶやいた。
「まさかの転生特典じゃんこれ……」
いや確かに俺スッゲー気に入られてたけどさ。でもまさか次の転生先までついてくるとは思わんじゃん。ふと後頭部に違和感を感じて手をやると、すっかり髪が短くなっていた。その事実に思わず苦笑する。お前好きだったもんな、俺の髪。そんなところも変わらないとは……流石にちょっと懐かしい気持ちになる。にしてもこのタイミングで契約していた悪魔の存在に気付けたのはラッキーだった。気づかなかったら冷静に今頃死んでたよね。あぶねーあぶねー。
「……もしかして」
俺はそこでふと思い立ち、右手の平を上に向けて中指と薬指を交差させ、軽く第一関節を折り曲げた。
「炎の悪魔よ、姿を見せろ」
――ぼうッ!
瞬間、手のひらにふよふよと漂うオレンジ色の火の玉が現れる。ゆらゆらと揺れるそれは生前契約していた悪魔である、炎の悪魔だった。火の玉は手のひらの上でくるくると回りながら悪態をつく。
「やーっと気付きやがったか。いつもいつもおっせーんだよお前は!!」
「うわ、まじか。全然変わってない……」
「感傷に浸ってるバアイか!!!」
いや浸るだろフツーに。こんなところで会うなんて思わなかったんだから。つかあんま近づくなよあぶねえな。
「俺もいるぞ」
「うわびっくりした」
背後からぬっと腹に深い穴の開いた毛むくじゃらの悪魔……生前俺が契約していた未来の悪魔が現れた。イエイイエイとノリノリに踊りながら座り込んだ俺を見下している。
「お前の未来がこの目で見たくなったからついてきたんだ。ありがたいだろ?」
「毎度毎度思うけどすげーなその未来予知……来世まで有効なのかよ」
よっこらせ、と立ち上がりながら俺は占い感覚で未来の悪魔に尋ねる。
「んで? 今世の俺はどうよ。まあお前がいるってことはどうせろくでもない未来なんだろうけど」
「フン、知りたいか。ならば教えてやろう。今世の貴様は――」
「あれ? 人の声だ」
「生き残りがいたのか」
……不意に、知らない声がした。
ばっと反射的にそちらを見ると、そこに立っていたのは白髪にサングラスの高身長イケメンと、黒髪を後ろでお団子にした高身長イケメン。ふたりはお揃いの黒い学ランを身につけていて、同じ学校なんだということが一目でわかる。
……いや。というか、こいつら――
「(じ、呪術廻戦内の最強コンビじゃねえか!!!)」
よりにもよって今世の俺はお前らと同世代かよ!!!
ズドーン!と背後に雷が落ちるほどの衝撃を感じつつも、口には出さなかったのを誰か褒めてほしい。やばいどうしよう、と俺が固まっていると、白髪サングラス――いわゆる五条悟がその形のいい眉を寄せた。
「おい、ちょっと待て。なんだその火の玉。呪霊か? それともお前の術式か?」
「それに一緒に居るのは呪霊だね? ……君、何者だい?」
話を聞かせてくれるかな、と黒髪お団子――いわゆる夏油傑も尋ねる。穏やかな口調ではあるが、その実俺のことを疑ってかかっているのは見え見えだ。
まずい、まずいぞ。このままだと多分色々疑われて呪詛師として処刑コースか、よくて呪術高専編入コースだ。このふたりと一緒の学校ってことは原作に関わることになる、となれば完璧に早死にまっしぐら確定だ。まずい。それだけはなんとか回避しなければ……!
「すみません、先急いでるんで失礼します!!!」
「っおい!!」
ぱっと炎の悪魔を消し、俺は思わずその場から脱兎のごとく逃げ出した。五条悟が苛立ったように叫ぶがそんなの知らん。幸いここは俺の母校だ。地の利はこちらにある。しかも左目には頼もしい未来の悪魔大先生までいるときた。大丈夫、落ち着けば逃げ切れる。足が途中でもつれそうになりながらあいつらを上手く引き剥がしつつ、俺は苦し紛れにつぶやいた。
「こんな使い方したことはねーけど……イチかバチかだな」
屋上へ続く階段を駆けあがり、思い切り扉を開く。そしてそのまま落下防止用に取り付けられた柵の方へ走りながら右手で狐を作り、唱えた。
「"コン"!!!」
――ごば!!
俺の足元に狐の悪魔が顕現する。そしてそのまま俺はそいつの背に乗って空へと飛び出した。第三者から見ればその様子は往年の名作映画よろしく、満月に狐のシルエットが浮かび上がっていたに違いない。
全身を呼び出したのは初めてだったが思ったより上手くいったな、と俺が思ったのもつかの間。およそ10秒間夜空を駆け、200メートルほど離れたビルの屋上に着地したところでフッと狐の悪魔は姿を消した。どさりと屋上に身を投げ出す。げほ、と軽く咳込み現状を確認する。
「逃げ切れた、が……」
ごろりと転がって空に手を掲げた。そこには無残にもすべての爪が無くなった形跡がある。足にも痛みが走っているからどうせそっちも全部持って行ってるんだろう。
「うえ、口の中が血まみれだ」
口の中を探ると上下左右の奥歯が1本ずつ無くなっていた。こっちも持って行ったのかよ……欲張りさんめ。じくじくと染みるような痛みを感じながら、俺は掲げた手をぱたりと倒す。
「先が思いやられるな……」
全力回れ右した普通()の男子高校生
→前々世:一般大学生、前世:デビルハンターで早川アキの親友、今世:最強コンビと同学年の一般人というヤバイ経歴を持つ。「また人がよく死ぬ漫画か……」と死んだ目をしながら思ってる。呪力も術式もないが(転生特典のせいで)呪いが見えるという一番厄介なタイプ。その後最強コンビに全力捜索されて呪術高専へドナドナされる未来が見える。やめろはなせ俺を原作に巻き込むな!!!
前世からの転生特典たち
→生前契約していた狐の悪魔、炎の悪魔、未来の悪魔が今世にもついてきた。契約内容は気まぐれ。身体の一部が大半だけど中には記憶何日分とか視力一ヶ月分とか要求する変わり者もいる。因みに未来の悪魔はその後、今世の未来について結局教えようとしなかった。気まぐれなので。
追い掛けたけど追いつかなかった最強コンビ
→実はまだ呪術高専1年生だったりする。いつものように任務に赴いて、あら生き残りいたわ〜と思ったらまさか呪霊に乗って逃げられるとは思わなかったよね。これからハルを全力捜索して事情を聴くために呪術高専にドナドナする予定。