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「え? 俺を探してた? ちょっと何言ってるかわかんないですねー(目逸らし)」

「やれやれ、意外と早く見つかったね」
「ったく……余計な手間かけさせんじゃねーよ、こっちも暇じゃねえんだけど?」

 じりじりと照り付ける太陽を背に立つ、目の笑っていない顔のいい大男ふたり。そいつらの視線の先で情けなく立ちすくんだまま大粒の汗を流しているのは、まごうことなき、俺だ。
 ふたりの視線から逃げるように顔を逸らしながら、俺は精一杯平静を装いつつ言う。

「ど、どちら様でしょうか……??」

 ……それではここで一曲聞いてください。
 門叶ハルで、『こ ん な は ず じ ゃ な か った』


***


 ……少しばかり時は遡る。
 高校でのドキドキ肝試し事件(命名)の次の日。歯と爪の痛みに耐えながらなんとか学校に行ったら、校門前にパトカーが数台止まっていた。しかも校舎はすっかり黄色いテープで封鎖されてしまっているし、辺りは生徒と騒ぎを聞きつけた野次馬でガヤガヤしている。テレビ局のクルーも何組か見かけた。やっぱり昨日のアレが騒ぎになったかと内心思っていると、不意に声を掛けられる。

「おー門叶、おはよ」
「はよ。なんだこの騒ぎ」

 すっとぼけたフリをしてクラスメイトに尋ねる。そいつに聞いた話によると、校舎内で大量の血痕が見つかり騒ぎになっているらしいとのこと。出血量的に身体の一部や遺体がありそうなものだが、それらが一切見つかっていないせいで警察が血なまこになって捜索しているんだそうだ。

「(見つかるわけ、ねえのに)」

 クラスメイトの話を適当に流しながら俺は内心思う。やはりあの時のトマトの悪魔(仮)は、俺以外のクラスメイト全員を残さずぺろりと食ってしまっていたらしい。遺体の一部も残っていないというのがその証拠だろう。……うん、よく生き残ってたな俺。やっぱりあのタイミングでコンのこと思い出したのは奇跡だったってわけだ。前世からの癖というか、咄嗟の判断ってマジで命運を分けることもあるのね。今日今この瞬間を生きていることに心から感謝していると、クラスメイトが思い出したように尋ねた。

「そういやお前、昨日あいつらと一緒に行くって言ってなかったか? 肝試し」

 俺は一瞬だけ逡巡した後、何事もなかったかのように答える。

「行く予定だったけど、別の予定が入って行けなかったんだ。だからあいつらのことも知らなかった」
「はー……お前超ラッキーじゃん」
「かもな」

 俺は薄く笑う。罪悪感はあったが、こいつに悪魔の話を……昨日の出来事をそっくりそのままするわけにもいかない。つか、下手に当事者の生き残りだと思われたら色々めんどそうだしな。警察とかマスコミとか、色々。

 ――そこでふと、俺を追い掛けてきたイケメンふたり組を思い出す。

 ……大丈夫大丈夫。あの後ちゃんと誰にも見つからないで家に帰ったし、何の問題はない。はずだ。
 そんなことを自分に言い聞かせていると、ちょうど出くわした担任の先生から今日は休校だと告げられた。その上、校内の清掃もあるためそのまま少し早めの夏休みに入るんだと。俺はその言葉を聞いて内心ガッツポーズをした。休暇中ならば家にこもっていられるから、当然あのふたり組に出くわす確率はぐんと下がる。そうすれば俺の勝ちだ。……勝ちってなんだ勝ちって。

「んじゃ、俺家帰るわ」
「おぅ、じゃーな!」

 クラスメイトと別れ、意気揚々と学校を後にする。そしてその足で皮膚科に向かった。昨日狐に持っていかれたせいで全爪が終わっている現在の俺は正直、何をするのにもしんどい。ぶっちゃけ歩くのもきついくらいだ。経験上、歯は消毒して清潔にしてれば問題無いだろうが、日常的によく使う爪はそうもいかない。ので、大人しく医療機関を頼ることにしたのだ。

 初めて訪れた病院だったが、処置はとてもスムーズだった。全爪が死んでいる患者は流石に初めてだったらしく、学校でいじめを受けているんじゃないかと疑われてしまったが、全部「問題ないですから」で済ませた。それが正解の受け答えだったのかはわからんけども。ま、他に外傷も無いからと信じてもらえたっぽいから良しとしよう。
 消毒用の薬の入った袋をがさがさと揺らしながら病院を後にする。さて、今日はもう家に帰って大人しく――

「「「……あ」」」

 曲がり角を曲がったところで、3人の声がそろった。
 目の前にいるのは、白髪サングラスの長身イケメンと、黒髪お団子の長身イケメン。

「(っまずい!!)」

 なんでこんな時に限って仕事しねえんだよ未来の悪魔お前!! 俺は内心悪態をつきながら咄嗟に踵を返し、来た道を戻ろうとする。だが如何せん全爪が終わっているため、痛みのせいで上手く走れない。そのため、昨日のようには行かなかった。すぐさま追いついたふたりにがっちりと二の腕あたりを掴まれる。

「はい捕まえたー」

 白髪サングラス――五条悟が半笑いで言う。そのままぐるりとこちらを向かされて、背中を道のブロック塀に押し付けられた。その勢いが強くて一瞬息が詰まりそうになる。恐る恐る見上げると、太陽を背負ったイケメンふたりが俺を見下していた。逆光でもその目が笑っていないことだけははっきりとわかる。
 ……そして、今に至るというわけだ。

「どちら様って……ああ、まだ名乗っていなかったね。私は呪術高専1年の夏油傑。そしてこっちは同じく1年の五条悟だ」

 黒髪お団子――夏油傑が微笑みながら親切に名乗る。ぶっちゃけ名乗らなくても知ってたけどな、お前らのこと。前々世では結構人気だったんだぜ。まあそんなことここで言ったら地獄の果てまで追いかけまわされそうだから言わんけども。

「こっちが名乗ったんだ。お前も教えてくれるよな?」
「……門叶、ハル」

 五条に言われるがまま、俺は渋々名前を名乗る。不満そうな声色になってしまったのは許してほしい。顔はしっかり背けたまま、ちらりとふたりの方に視線を投げかけながら問いかけた。

「何の、用ですか」
「それはお前が一番わかってるんじゃねえの?」

 挑発するような調子で五条が言った。やっぱそうだよなあと思いながら俺が黙っていると、便乗する形で夏油も追撃をかましてくる。

「昨日の夜、××高校にいたよね? さっきみたいに、私たちと目があった途端に逃げ出してしまっただろう」
「しかも追っかけた結果、屋上から巨大な呪霊に乗って逃げたとこまで俺たちはバッチリ見てんだよ」

 うーわ全部バレテーラ。思わずその場で頭を抱えたくなったが、何とか堪える。五条は俺のことをジロジロと見ながら「んで?」と片眉を上げた。

「あの時一緒に居た呪霊2体と逃げた時に乗った呪霊はどこやったんだよ」
「……知らねえよ、そんなの。つかそもそも俺昨日学校なんか行ってねえし」

 俺はぶっきらぼうに苦し紛れの言い訳をする。というかそもそも、契約してる悪魔の本体は(一部の例外を除いて)大体公安のどっかに管理されてんだからここにはいねぇよ。……そう考えるとよくこいつら呼び出せたな。転生特典かなりお得すぎないか?(ただし身体の一部はきちんと持っていかれる)
 俺の返答を聞いて埒が明かないと思ったのか、夏油は軽く肩をすくめる。

「悟。六眼には何も映らないのかい」
「なーんも。呪力も術式もねえ、ただのパンピー。だから尚更、昨日の夜が不自然……」

 そこで不意に言葉を途切れさせた。

「おい、ちゃんとこっち向け」
「!」

 ぐいと顎を掴まれ、そのまま顔ごと正面を向かされる。サングラスをずらした五条の透き通った水色の目とばっちりぶつかった。
 まずい、と思った時にはもう遅い。

「なんだよ、その眼」
「……母方の祖母がドイツ人で」
「ちっげーよ。そんな話がしたいんじゃねえ」

 さりげなく瞳の色の話に持って行こうとしたがすぐに遮られてしまった。こいつの高性能な目は、俺の隠したかったことも易々と見抜いてしまったらしい。ぎろりと睨みつけながら五条は言う。

「お前、左目に何飼ってやがる」

 核心を突かれ、俺は思わず押し黙る。
 そう、狐と炎の本体はあっちの世界にあるとしても、未来の悪魔はそうはいかない。なぜなら常に俺の左目に住んでいるのだから。アキと共に契約していた時のように分身を使っているのかそれとも本体なのかは定かではないが……なんにせよ身体がこちらにあるのだ。こうなった以上、このまま一般人だと誤魔化すに無理があることに変わりはないだろう。ったく、だからあんま見られないように左目を壁側にするように顔背けてたのに……。
 五条の言葉を聞いた夏油が驚いたように目を丸くする。

「飼う? ……もしかして、呪霊がそこにいるのかい」
「ああ。左目だけ異様な呪力だからおかしいと思ったら……1級、いや、下手したらそれより上か……?」

 じろじろと容赦なく左目を物色する五条。その距離は異様に近く、そのまま眼球を舐められるんじゃないかと思うほどだった。……つか、普通に気まずいんですけどこの距離感。もうちょっと離れてくれません?? 聞いてる??

『ほう、この男私が見えるのか! 面白いやつだな』
「(感心してる場合かよアホ!!)」

 脳裏に響く未来の悪魔に心の中でツッコんだ。お前なんでそんな余裕なの? こちとら顔は無表情、内心ドキドキで壊れそう()なんですけど!?
 そんな俺を他所に、五条は冷ややかに言ってのける。

「説明しろ。どういうつもりだ」
「説明も何も、俺は何も知らねえよ」

 突き放すようにきっぱりと言い切る。内心ドキドキで壊れそうな割には上手く擬態できてる方なんじゃないですかね、知らんけど。

「俺は昨日の夜高校にも行ってねえし、ましてやジュレイなんて知らない。そんなに俺の目が気になるんなら、抉り出すなりなんなりして好きに調べたらいいだろ。……どうせ何も出て来やしねえけどな」

 強気に啖呵を切りながら容赦なく睨みつける。本当は抉り出しなんてされたくもないが、ずっと弱気で責められ続けるよりも強気に行った方がいいのではないかと判断したのだ。先ほどとは打って変わって、まるで左目を突き付けるかのようにずずいと身を乗り出す。流石に近い事に気付いたらしい五条が少し身を引きながら眉根を寄せた。

「っお前いい加減に……!」

 五条が声を荒げたところで着信音が鳴り響いた。どうやら夏油のものだったらしく、ポケットから携帯を取り出してしばらく応答した後、ぱちんと折りたたむ。

「夜蛾先生からだ。さっさと任務に向かえってさ」
「あー? そういやそうだったな」

 めんどくさそうに五条が頭をボリボリと掻く。話から察するにどうやらこいつら、次の任務に向かう途中のニュースに映り込む俺を見つけて、ここに来たらしい。しかも監督・送迎役の大人をほっぽって、だ。そりゃ連絡もくるわな。つかニュース映像に一瞬だけ映った俺に気付くとかどんだけだよ。油断してた俺も悪いけど。にしてもさ……。

「というわけで、君も一緒に来てもらおうか」
「なんで」
「ったりめーだろ」
「君が呪霊を知っていようが知らなかろうが、先生からの指示なんでね。もう少し詳しく話を聞かないことには解放してあげられないな」

 マジかよ。思いっきり不機嫌さをあらわにしながら睨みつけても、夏油はにっこりと微笑むだけだ。クソ余裕じゃん。

「大人しくしてれば何も危害は加えないよ。約束する」
「……」

 拒否権は無いって事ですか、そーですか……。




 "逃げる"の選択肢を必死に連打している転生者お兄さん
 →逃げられない! 予想以上に早く遭遇してびっくりしてる(作者が) あんなに原作軸に関わりたくないって言ってたのにねー可哀想に……。実はちょびーっとだけ海外の血が混ざっているので目の色は暗い緑色。髪色はダークブラウンで髪質はふわふわ。未来の悪魔のことを知られたら面倒なことになりそうで必死に隠してる。


 最強コンビ(白)
 →何その眼、きもっちわりー どこからどう見てもパンピーなのに、左目に呪霊を飼ってるとかいうギャップがちょっとだけ興味を引いてる。無自覚? 嘘だろ? いやでもパンピーならしゃーないか……?


 最強コンビ(黒)
 →カーナビでハルを見つけた張本人。五条が言うからには一般人なんだろうけど、動作の節々にどこか不自然さを感じるのできっとなにか秘密があるんだろうなあと思っている。ニコニコしつつも一番厄介なのはこいつ。

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