「は?パーティー、ですか?」


首領が「早急に頼みたい任務がある」なんて呼び出すから何かと思えば、内容は今夜行われるある企業家の祝宴に潜入して、情報を収集してこいというすごくザックリした任務を仰せつかってしまった。定時という概念がないマフィアだが、私の中で家に帰る時間は6時と勝手に決まっている。5時少し前、首領から呼びだしの電話がかかってきた時、なんとなく嫌な予感はしていた。岩盤浴に行きたかったが、断念するしかなさそうだ。それより、そういう潜入系の任務は、確か他に得意な構成員がいたはずだけど、、。なんで私なんだろう。


「どうやら、男女ペアで行かなくてはいけないらしくてね。加えて元々頼んでた潜入係が体調を崩してしまったんだ。というわけだから、頼んだよなまえくん」


「えっ、男女ペアってことは、誰かと行けってことですか?」


「もちろん。パートナーは誰を選んでも構わないよ。招待状はすでに偽装してあるから」


「、、わかりました」


わかってはいたが拒否権はないらしい。渡された二枚の招待状を手に私は重い足取りで部屋を出た。
さて、相手は好きに選んでいいと言われたけど、どうしようか。芥川くんは、恐らくこういう任務向いてないだろうし彼はまだ少し幼い。梶井も、、向いてないな。となると、思い浮かぶのは犬猿の仲であるあの2人なわけで。いやまて、確か今日は太宰と中也は他の任務に出ていたんだっけ?帰ってきてたら頼めるけど、間に合わなかったらどうしよう。

なんて考えは杞憂だったらしい。
腕を組みエレベーターを待っていると、中から出てきた二人に思わず「あっ!」と大きな声が出た。


「なまえじゃないか」


「何だよ、あっ、って」


「いやなんでも。帰ってたんだね、二人とも」


「ついさっきね。今から帰り?」


「いやそれが、首領に面倒事頼まれちゃって、これから出なきゃいけないの。、、二人とも疲れてる?」


「あ?当たり前だろこの木偶と1日行動してみろ。苛立って仕方無え」


「ふん、それはこっちの台詞さ。中也と同じ空気を吸ってるだけで肺が汚染されてる気になるよ」


「ンだと手前!!」


眼の前で繰り広げられる口論に目と耳を覆いたくなる。まったく、喧嘩するほどなんとやら、と言ってやりたいがそんな事口にした日にはどんな仕打ちがあるかわからないので、黙っておく。


「詰まる所、二人ともお疲れってことね。じゃあ他をあたるわ」


「あ?何か頼み事があったのかよ」


「まあね。今夜、任務で行くパーティーに同伴してくれる人を探してたの。でも、疲れてるならいいや」


おつかれさま、そう言ってその場を去ろうとしたら、右手を大宰に、左手を中也にがしりと掴まれてしまった。二人とも、チンパンジーですか?と疑いたくなるくらいの握力だ。中也のが若干強いけど。


「えっと、何?」


「私が行ってあげるよ、そのパーティーとやらに」


「黙っとけよ自殺志願者。こんな奴連れてってもロクな事ねえぞ。仕方ねえから俺が行く」


「やだなあ、中也。君にエスコートなんか務まらないよ。それに、疲れてるんだろう?ここは私に任せていいから帰りなよ」


「それはこっちの台詞だ。手前こそとっとと帰って首吊りでも入水でも何でもしろよ」



ギリギリと、両者譲らぬ攻防にそろそろ私の手首が悲鳴をあげそうだ。絶対跡ついてる、くっきりと手形がついてるよこれ。


「あの、わかった、わかったから。とりあえずジャンケンして。それで勝った方と行く」


呆れながらそう言えばどちらも勝つ気満々のようで、私の提案に二人はニヤリと口角を上げる。
一番フェアな決め方に見えるが、どちらが勝つかは何となく私には想像がついていた。此奴がこういった駆け引きで負ける姿が想像できない。
そして、勝負は私の予想通りの結果になった。



**********




「よく似合ってるね。じゃあ、行こうか」


スーツから黒のマーメイドドレスに着替え、普段は身につけないアクセサリー類に煩わしさを感じる私に、ジャンケンの勝者である太宰は慣れた様子で手を差し伸べてくる。その手を取れば満足そうに笑みを浮かべた。


「そういう太宰もサマになってるよ」


「それは光栄だね。それより、何でジャンケンにしたのか聞いてもいいかい?」


「、、雌雄を決めると言ったらジャンケンでしょ?」


「ふうん。私が勝つ事なんかわかりきってた、っていう表情してたけど」


「気のせいよ。さ、任務任務」



誤魔化すようにそんなことを言ってみるが、太宰はどうやらお見通しのようだ。「妬けるなあ」と、さも面白くなさそうに言っているのがその証拠だ。

本当は、この任務は中也と来たかった。相手を選んでいいと言われた時も、真っ先に浮かんだのは中也の顔だ。
しかし、エレベーターから出てきたときに一目見て、私は中也の不調に気づいてしまった。本人は隠していたつもりなんだろうけど、あれは明らかに体調が悪い時の顔だ。
そんな時に、無理して連れまわすのは気が引けてしまった私はワザと、太宰が勝つ方法であろうジャンケンを提案した。まあ理由は他にもあるけど。



「本当、何で告白しないかなあ。中也も君も」


「やっぱ告白はしてもらいたいものじゃん?それに、中也が嫉妬してる時の顔、好きなんだよね」


「、、つくづく中也には勿体無いほど、素敵な女性になったね」




そういう大宰も、面白がって見てるくせに。





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