探偵社に新しい仲間ができた。名前は泉鏡花ちゃん。14歳。35人殺しをしたとは思えないあどけなさの残る彼女を、男兄弟に囲まれて育った所為で姉妹というものに予てから憧れていた私は、勝手ながら妹のように可愛がっている。


「はぁ〜。今日も可愛いねえ鏡花ちゃん」


「、、ありがとうございます」


今日は珍しく穏やかな空気が流れる探偵社。普段はなかなかこうして寛げる事もないが、私はここぞとばかりに愛しの鏡花ちゃんを膝に乗せ、頭を撫でたり髪の毛をいじったり、頬っぺたを触ったり、好き放題している。はあ、可愛い。こんな可愛い生き物がマフィアにいただなんて俄かに信じがたいが、今や彼女は探偵社の立派な社員である。


「たっだいまー!」


バン!と乱雑に扉を開け帰ってきたのは探偵社のブレーン、乱歩さんだ。大きな紙袋にいっぱい駄菓子を買ってきた彼はこの上なくご機嫌な様子にみえた。



「おかえりなさい、乱歩さん」


「、、何してるの?」


先程までのハイテンションボイスは何処へやら、急に落ち着いたトーンでそう尋ねてくる乱歩さんの、普段は狐のように弧を描いている目が、パチリと開き私と膝の上の鏡花ちゃんを捉える。


「何って、鏡花ちゃんと戯れてました」


「へえ、そう。それはいいね」


「あ、乱歩さんも抱っこしたいんですか?!仕方ないなあ、ちょっとだけですよ」


しぶしぶ膝の上に座ってる鏡花ちゃんに退いてもらい、私も一人掛けのソファから立ち上がろうとすると、乱歩さんに「なまえはそのまま座ってて!」と指さされたので、先ほどまで腰を沈めてた其処に、再び戻った。私が座ってたら、乱歩さん、鏡花ちゃんのこと抱っこ出来ないんじゃ、、?と思ったのも束の間、


「よいしょと」


「ギャアッ」


あろうことか、乱歩さんは先程の鏡花ちゃんよろしく、私の膝の上にどっかりと腰かけてきたのだ。それはもう、遠慮のかけらもなく。


「あの、乱歩さん、これは一体どういうことでしょう?」


「だって、鏡花ちゃんだけ狡いじゃないか!なまえは入社した時の自分の言葉も忘れちゃったのかい?」


「入社した時の言葉、、」


はて、何て言ったのだろう、、そういえば、誰に対しても分け隔てなく平等に接し、人々の幸せに貢献したいとか言ったような言ってないような、、。いやでもまさかこれではないよね?


「誰に対しても平等に接する!それが君の信念だろう?」

「えええ何という言いがかり」

「ほら、さっき鏡花ちゃんにしてたみたいに、頭撫でたりしてよ」

「嫌ですよ何で私が26歳の!男性の!頭を撫でなきゃいけないんですか!そういう事はそういうお店に行って楽しんでください!」

「イヤだ!僕はなまえがいいんだ!」

「ギャア暴れないでくださいよ!」

「よし、じゃあこうしよう!僕がなまえを抱っこして頭を撫でる、それならいいだろう?」

「名案みたいに言ってますけど何にも解決してません」


いくら男性の中では華奢で小柄な部類の乱歩さんとはいえ、成人男性だ。14歳の少女に比べると身体にのしかかる重さはそれなりのものだ。おかしい、私の予定では乱歩さんも鏡花ちゃんと戯れるだけのハズだったのに。何で私が乱歩さんと戯れなければいけないんだ。


「撫でたら退いてくれるんですね?!」

「勿論」

「あ〜乱歩さんヨシヨシヨシヨシ。これでいいですか」

「感情が込もってないから駄目」

「演技力を求めないでください」

「つべこべ言わないで、はい、やり直し」

「ウワァァ与謝野先生!お願いですから助けてください!」

「諦めるしかないねぇなまえ。早く撫でておやり」


優雅に紅茶をお飲みになっている与謝野先生に助けを求めたがあっさり見捨てられてしまった。社長、こうなったら社長を誰かここに召喚して!


「敦くんお願いがあるんだけど社長を呼んできてくれない?」

「ハハ、、頑張ってください」


引きつった笑顔で薄っぺらいエールを送ってくれた敦君に「クソウ覚えとけよ!」と三下じみた台詞を叫ぶ。ていうか、そろそろ、本当に苦しいんだけど。


「乱歩さん、あの、マジで退きません?」

「、、」

「乱歩さーん?名探偵ー。超推理ー」

「、、これに懲りたら、簡単に誰かを膝に乗せたりしないでね!例え女の子でも!」


ヒョイと立ち上がり、超推理で探し当てた犯人のように私を勢いよく指さす乱歩さんはそう言ってご自分の席に帰っていった。天才だから仕方ないのかもしれないが、つくづく何を考えているのかわからない人だ。








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